第十六話「エレインの告白」
私、エレイン・マリーゴールドは、春の陽光が降り注ぐ、ガラス張りの庭園にいた。
そこは、セラフィナ様の私室に併設された、美しい空間。
色とりどりの花が咲き乱れ、心地よい香りが、鼻腔をくすぐる。
外の修練場から聞こえてくる猛者たちの怒号が、嘘のような、穏やかな場所だった。
「さあ、まずは、お茶でもいかが?」
セラフィナ様は、優雅な手つきで、テーブルに、二つのティーカップを置いた。
「あ、ありがとうございます・・」
「緊張なさらなくて、いいのですよ。エレイン」
彼女は、私の向かいに座ると、慈しむような瞳で、私を見つめた。
そして、修練場で会った時と同じように、私の瞳の色と、魔力の香りに、懐かしそうに目を細める。
「エレイン。あなたは、自分の力が、怖いのですね?」
「・・え」
「あなたの心と、その身に余る強大な力が、あなたの中で、ずっと、喧嘩をしている」
図星だった。
私は、何も言い返せない。
「無理もありません」
セラフィナ様は、静かに言った。
「あなたのその力は、あまりにも、特別すぎる。おそらく、あなたが、まだ、とても、とても、小さかった頃から・・」
彼女は、まるで、私の過去を、その目で見てきたかのように、語り始めた。
「あなたが、心の底から笑えば、季節外れの花が咲き、蝶が舞う」
「あなたが、悲しみに暮れて泣けば、空が曇り、冷たい雨が降る」
「違いますか?」
「・・!」
私は、息を呑んだ。
なぜ、そのことを。
それは、私が、物心ついた頃から、誰にも言えずに、一人で抱えてきた、秘密。
孤児院の皆から「不思議な子」だと、少しだけ、距離を置かれていた、その理由。
私が、自分の感情を、必死に押し殺して、生きてきた、その理由。
「なぜ、それを・・」
「分かるのですよ。私にも、覚えがありますから」
セラフィナ様は、そう言うと、悲しげに、微笑んだ。
「精霊使いにとって、最も大切なのは、心の平穏。自分自身を、偽らないこと」
彼女は、静かに、しかし、有無を言わせぬ力で、告げた。
「あなたの、最初の修行。それは、戦うことではありません」
「あなたが、その『不可思議な現象』を、なぜ恐れるのか。
あなたが、本当は何者で、何を願い、何を恐れているのか。
その全てを、この私に、話してちょうだい」
それは、あまりにも、穏やかで、そして、残酷な試練の始まりだった。
私が、ずっと目を背け続けてきた、自分自身の「魂の正体」と、向き合うための。
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