『16barsの鼓動』第二十六章(改定完全版)

 町田代表オーディション三戦目。

 会場の空気は、まるでフェスのように熱気を帯びていた。

 観客のほとんどがRhyme Jokerを「本命」と見ている。

 それでもSilent Riotはステージに立っていた。


「いける?」

 彩葉がことねと芽依を見た。

「……荒くてもいい。叩きつける」

 芽依が低く言い、ことねは強く頷いた。

「私たちの鼓動を、ぶつけよう」


 先攻はRhyme Joker。

 完璧な掛け合い、観客を煽る攻撃的なライム。

 照明も音響も、まるでプロのライブのように会場を支配した。


「町田の頂点は私たちだ!」

 叫んだ瞬間、観客は総立ち。

 Silent Riotの心臓は潰されそうなほどに鳴っていた。


 そして、Silent Riotの番。

 芽依がターンテーブルに手を置く。

「……行くよ」


 ビートが鳴り響く。

 ことねがマイクを握り、叫ぶ。

「粗さごと、響け――!」


 ――《Backstage Riot》。


 爆発するビート。

 ことねのラップは震えながらも荒々しく、彩葉の歌がそれを突き抜け、芽依のスクラッチが観客席を切り裂いた。


 観客の反応は――二分された。

「新人のくせに勢いあるじゃん!」

「でもRhyme Jokerの方が完成度高いだろ!」

 歓声とざわめきが交錯する。


 橘陽菜と紅葉が叫んだ。

「Silent Riotー! 行けー!」

「粗くて最高だよー!」


 北山も立ち上がった。

「女子高生最高!! Silent Riotしか勝たん!!」

 すぐに係員に引きずり出されていった。


 ステージ裏。

 猫丸がポテトをつまみながら呟いた。

「完璧は記憶に残らねぇ。粗さは生き物だ」

「おばちゃんも適当なこと言ってるだけだよ〜」

 みのたが笑い、べすがことねの顔に「べろりんちょ」。


「っもう! でも……負けない!」

 ことねは涙を滲ませながら笑った。


 審査員の評価は拮抗。

 結果発表は次回に持ち越される。

 Silent Riotは初めて「真正面からの大接戦」を戦い抜いたのだった。

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