『16barsの鼓動』第十八章(改定完全版)
ステージ袖。
ことねはノートを握りしめ、足が震えていた。
芽依は無言で機材をチェックし、彩葉は必死に笑顔を作っていた。
「次の出場は――Silent Riot!」
アナウンスが響く。
観客席はざわついていた。
「女子高生?」「さっきのRhyme Jokerと比べてどうなんだろ」
その中に――見知った顔がちらほら。
前列では東雲りなと鮎原やよいがパンフレットを手にしていた。
「うわ〜若い子たちのラップか。ガンプラと同じくらい熱あるねぇ」
「東雲、静かに! でも……確かに勢いはある」
さらに中央には一ノ瀬響と悠木詩織が座っていた。
「……鼓動、感じる」
「ほんとだ。震感と同じ“揺れ”がある。面白い」
後方のテーブル席では、日向めぐるが弁当を広げていた。
「ラップ見ながらお弁当って最高! ……あ、星南、この唐揚げ食べる?」
「食べる!」
(※弁当持ち込みは本来禁止だが、めぐるはお構いなし)
会場のあちこちに、町田ユニバースの面々が散らばってSilent Riotを見守っていた。
ステージに立ったことねは、強烈な視線の圧に息を呑んだ。
「む、無理……」
声が出ない。
彩葉が必死にマイクでつなぐが、ことねの言葉は喉に詰まる。
芽依も焦ってリズムを外しかける。
観客席がざわめく。
「やっぱり緊張してる」「さっきのRhyme Jokerの方が上手いな」
その時。
「行けーSilent Riotー!」
橘姉妹が立ち上がり、大声援を送った。
「私らの同級生だぞー!」「ことねー、彩葉ー、芽依ー! がんばれー!」
観客が一瞬静まり返り、次に笑いが起こる。
ことねの頬が熱くなった。
でも――笑われるだけじゃない。応援されてる。
北山もどこからか叫んだ。
「女子高生しか勝たん! Silent Riot万歳ー!」
すぐにスタッフに連行されたが。
ことねはマイクを握り直した。
「……私は、逃げない」
芽依がビートを再び刻み、彩葉が歌声を乗せる。
そしてことねの声が重なった。
――《Line》。
最初は震えていたが、次第にリズムを掴む。
観客のざわめきが、少しずつ静まっていった。
ステージ裏で猫丸が缶コーヒーを啜りながら呟く。
「粗くてもいい、今が転がり出した瞬間だ」
「おばちゃんも適当なこと言ってるだけだよ〜」
みのたが笑い、べすが「わん!」と吠える。
Silent Riot初戦。
完璧じゃなかった。震えていた。
でも、確かに観客に一歩、踏み込むことができた。
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