『16barsの鼓動』第十三章(改定完全版)

放課後の音楽室。

 Silent Riotは新しい曲の練習に取り組んでいた。

 ことねが書いた詞に、芽依がビートを乗せる。

 彩葉は声を張り、メロディを響かせた。


「……あれ?」

 ことねが顔を上げる。

 彩葉の歌が、ビートに合っていなかった。


「ごめん! もう一回!」

 彩葉は笑顔を浮かべてごまかすが、再び外れる。

 声は力強いのに、ビートとぶつかってしまう。


 芽依が眉をひそめる。

「……走りすぎ」

「う、うん……わかってるんだけど」

 彩葉はマイクを握る手を強く震わせた。


 その日の帰り道。

 ことねは彩葉が無理に笑っているのに気づいた。

「……彩葉」

「ん? なに?」

「無理してない?」

「無理なんてしてないよ! だって……私が頑張らなきゃ」

 彩葉は笑いながら言った。

「ことねを支えるの、私しかいないんだから」


 その声が少し掠れていた。


 翌日の練習。

 彩葉は再び全力で声を張り上げた。

 だが、無理に力を込めすぎて音程が崩れる。

 芽依がターンテーブルを止める。

「……壊れるぞ、その声」

「大丈夫! ……大丈夫だから!」

 彩葉は笑顔のまま叫んだが、その瞳に涙がにじんでいた。


 その時、音楽室の扉がノックされた。

「おーい、青春してるかぁ?」

 猫丸がひょっこり顔を出し、みのたとべすも後ろにいた。

「声は刃物だ。振り回せば自分も傷つく。だけど磨けば、誰かを守る剣になる」

 猫丸がぽつりと告げる。

「おばちゃんも適当なこと言ってるだけだよ〜」

 みのたが笑う。

 べすは彩葉の顔に「べろりんちょ」。


「……っもう!」

 彩葉は涙を拭い、笑い声を漏らした。

「ありがと、ことね。芽依。……私、もっとちゃんと歌いたい」


 三人は目を合わせた。

 それぞれが抱える痛みを乗り越えて、少しずつ進んでいく。

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