『16barsの鼓動』第九章(改定完全版)

小さなショッピングモールのステージでの大失敗から一夜明けた。

 ことねは布団の中で、スマホを抱えたまま動けずにいた。

 SNSには「女子高生ラップ(笑)」「下手すぎ」なんて書き込みが並んでいる。


「……やっぱり、やらなきゃよかった」

 ことねは布団を頭からかぶった。


 放課後。

 音楽室には彩葉と芽依だけがいた。

「ことね、来ないね」

「……まあ、普通は来ないだろ」

 芽依は無表情のままターンテーブルをいじりながら答えた。

「でも、私は……もっとやりたい」

 その声には、熱がこもっていた。


 彩葉は頷いた。

「私も。失敗しても、ことねの言葉を信じたい」


 夜。

 ことねの部屋の窓をコンコンと叩く音がした。

 外を見ると、猫丸が手を振っていた。

 横にはみのた、そしてべす。


「よぉ、ラッパー」

「……やめてください。笑い者なんです」

 ことねは窓を開けようとしなかった。

 けれど猫丸は、勝手に言葉を投げてきた。


「粗さを恐れて黙るのは、死ぬのと同じだぜ」

「……」

「生きてるなら、声を出せ。下手でも、笑われてもな」

 みのたも肩をすくめて言った。

「おばちゃんも適当なこと言ってるだけだけどね。けど、やめたらほんとに“届くもの”はなくなるよ」


 べすが「わんっ!」と吠え、またしても窓に鼻を押しつけた。

 ことねは思わず苦笑してしまう。


 翌日。

 音楽室に現れたことねを見て、彩葉は笑顔を弾けさせた。

「来た!」

「……やっぱり、まだやりたい」

 ことねは小さくそう呟いた。

「笑われても、悔しくても……声にしたい」


 芽依は静かにうなずいた。

「じゃあ、やろう。今度はもっと強く」


 三人の目が合う。

 そこに迷いはなかった。


 Silent Riot。

 まだ始まったばかりのユニット。

 失敗という洗礼を受けて、ようやく本当のスタートラインに立った。

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