『16barsの鼓動』第七章(改定完全版)

音楽室に集まるのが、三人の日課になりつつあった。

 ノートとペン、ターンテーブル、そして彩葉の声。

 ぎこちないけれど、その中で確かに「音楽」が生まれ始めていた。


「……ねぇ」

 ことねがノートを広げる。

「一曲、ちゃんと作ってみようよ」

「ちゃんと?」

 彩葉が首をかしげる。

「うん。寄せ集めじゃなくて、“私たちの曲”を」


 芽依は黙って頷いた。

 彼女の目は真剣だった。


「タイトルは?」

「……《Backstage Riot》」

 ことねが口にすると、彩葉は目を丸くした。

「なんかカッコいい!」

「表に立つのは怖いけど、舞台裏で暴れる……そんな私たち」

 ことねの言葉に、芽依の口元が少しだけ緩む。


 三人は音を合わせていく。

 ことねの言葉が、彩葉の声で広がり、芽依のビートに乗る。

 まだ粗い。リズムは外れるし、歌詞もうまくはまらない。

 でも、それでも彼女たちは夢中だった。


「これ……ヤバいね」

 彩葉が汗を拭いながら笑う。

「まだ下手だけど、なんか“生きてる”」

「……音は、そういうもんだよ」

 芽依がぼそりと呟く。


 練習が終わり、三人は教室を出た。

 廊下で待ち構えていたのは橘陽菜と紅葉だった。

「お、なんか作ってたでしょ〜?」

「青春ラップだ〜!」

「……うるさい」

 ことねは顔を赤らめ、ノートを抱きしめた。


 さらにその隣。

「女子高生が曲作り!? 尊いっ!」

 北山望が鼻息荒く迫り、即座に橘姉妹と芽依に睨まれて退散。


 校門を出ると、猫丸とみのたが缶コーヒーを手に立っていた。

「おー、音が形になったな」

「おばちゃんも適当なこと言ってるだけだよー」

 そしてべすが三人の前に走り寄り――「べろりんちょ」。

「ちょっ!? また!?」

 ことねが顔を拭うのを見て、彩葉と芽依は吹き出した。


 笑い声と鼓動が重なる。

 ――Silent Riot。

 その名前はまだ仮初めだけれど、確かに「最初の一歩」を刻んだ。

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