第3話 朝練


 私が通っている学校は桜坂中央中学校と呼ばれる共学の学校だ。

 全校生徒は全部で400名ほど。偏差値は50くらい。地元ではそこそこ有名で、特に部活が強いことで知られている。

 中でも運動部は毎年全国大会に出ているらしい。この前なんかはが全国でも指折りの強豪校を倒したとかで横断幕が張られていた。来年はその名を聞きつけていい生徒が入ってくるとか来ないとか。まあ私には関係のない話なので詳しい話は分からないけど。

 ともあれ、そんな学校に着いた私は早速朝練をするため学校裏の坂道を登りテニスコートにやってきた。


 コートはすでにかなりの人数が集まっており、各々練習を開始している。時間を見ればまだ7時前。練習を始めるには少し早いが、下級生と上級生はみんなやる気があるらしい。


「おっ、ルリじゃん。おはよう。今日は遅れずにやってきたね」


「おはようルリ」


「おはよー」


「おはようございます」


「みんなおはよう」


 適当に挨拶をして荷物を置く。鞄は教室に置いてきたので持ってきたのはラケットとマイボール。あとスマホだけだ。この学校は緊急時のためにスマホを持ってくることが許されているのでコートにも持ってきている。


「もうみんな来てるの?」


「いいや? 三年生は全員来たけど一年生はまだ二人しか来てないよ。うちらの代は浅田以外全員集まった」


「へぇ」


 そういったのは友人の中田千代だ。部活が同じでクラスも同じなので結構仲がいい。

 最近は一緒に打つこともあって更に仲良し度が上がっている。


「結構休んでるね。体調不良かな」


「さあね、何かあったら先生が聞いてるはずだけど……今朝一年生が部室の鍵を取りに行ったときは何も聞いてないって」


「そうなんだ」


 まあ、部活は面倒だからな。気持ちはわかる。たぶんサボりだろうけど、私も起きれなかったら偶にサボることがあるので同じだ。羨ましい限りである。


「ねぇルリー、聞いてよ! 今日さぁ、剣崎君に会ったんだけど、挨拶したら無視されたんだよ! ひどくない!? 私面と向かって言ったのにぃ~」


 準備中、いきなり後ろから友人の由利原が抱き着いてきた。由利原愛。紫色のメッシュを入れた、小綺麗な顔が特徴である。


「え、えぇ~!? 知らないよそんなの。あんたが何かしたんじゃない?」


 私はそんな彼女に咄嗟に答えた。

 由利原はいつも私が一緒に行動しているグループの一人だ。底抜けに明るく、誰とでも仲良くするコミュ力を持っている。

 姿見はさっき言ったように紫紺のメッシュの入った長髪の女性。性格はちょっとやんちゃだから私とはあんまり合わないんだけど、由利原はよくちょっかいをかけてくるので仲が良くなった。

 

(……そういえばこっちでの友人関係は女ばっかなのか)


 今まではそれが当たり前だったけど、それはそれで妙な感じがする。今更過ぎる話だけど。


「由利原は誰とでも仲良くするからね。尻軽女とでも思われたんじゃない? ねぇ静香、あんたもそう思うでしょ?」


 千代は近くのベンチで座る静香に話しかける。


「え? わ、私!? え、えっと……そうかな。でも、由利原ちゃんはすごくい良い人だから剣崎君もそれは伝わってると思う。今日は偶々無視されただけじゃないかな」


「静香~! やっぱり私の味方はあんただけだよー!」


「え、えぇ!? そ、そんなッ!」


 普段物静かな性格をしている静香は、由利原に抱きつかれて慌てていた。


「偶々無視!」


 それを煽るように笑う中田千代。


「そこ、何笑ってんの! 私だって偶には声が小さくなることだってあるんだから! 多分聞こえてなかっただけだよ。あの時は剣崎君の前だったし……」


「……そうかい。それはわるぅございました」


 恥ずかしそうに顔を俯かせる由利原に中田もわかったような顔でテニスボールを手に取った。


 ザッ、女子たちの会話って感じだなぁ。いつものことながら大した話ではないけど、今日はやけに新鮮味を感じる。

 まあ、私も女子の一人なわけだし、好きな人こそいないが恋バナには興味がある。特に由利原は顔が広いから色んな情報を仕入れてくる。

 案外、そういう話を聞くのも私の楽しみだ。


「それより早く打とうよルリ。そろそろ練習の時間だ」


「うん、わかった」


 ともあれ、私はそんな彼女らといつも通り練習を開始した。

 練習は簡単なランダと練習試合だった。

 朝練は一時間しかないし、行えるバリエーションはそう多くない。だけども、前世でもテニス部だった私は久しぶりな感覚もあり、かなり練習に身が入った。


 もともとが男だったからか妙に五感も優れてたし、案外前世の記憶が戻るのも悪くないのかもしれない。

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