27.アフターサービスも付けちゃうよ!

 おじさんたちと力を合わせたお陰で、驚くほどの量の石を切り出すことが出来た。切断面の滑らかな石がずらりと規則正しく並んでいる光景は、ちょっとした達成感どころか、胸がじんわり熱くなるほどだった。


「これだけあれば、町の壁を修復出来ると思うよ。おじさんたち、本当に頑張ってくれてありがとう!」


 私がそう言うと、おじさんたちはごつい手で汗を拭いながら、バツが悪そうに頭を掻いた。だけど、その顔はどこか誇らしげだった。


「いやいや、ルナちゃんがいてくれたからだよ。石がこんなに綺麗に切れるなんて思わなかったんだ」

「道具を新調してくれただけでなく、体を若返らせてもらって……。あんな力強く動けたの、何十年ぶりか分からんよ」

「それにな、久しぶりに“仕事が楽しい”って思えたんだ。こんなの、全部ルナちゃんのお陰だ。本当にありがとうな」


 おじさんたちの声にはただの感謝じゃなくて、自分を誇れる喜びや、仲間と働く楽しさが戻ってきた。そんな気持ちが滲んでいた。


 私は嬉しくなって、思わず胸の前で手をぎゅっと握りしめた。


「ううん。私も一緒にお仕事が出来て楽しかったよ」


 そう言うと、おじさんたちは照れ臭そうに笑ってくれた。


「でも、この石たちを運ぶのは大変だぞ」

「一気にこれだけの石を切り出したんだから、運搬の準備も終わってないだろう?」

「町から応援を呼ばないといけなさそうだな」

「そんなことしなくても大丈夫だよ。レイ」

「任せろ!」


 運搬のことで悩ましそうにしていたけれど、レイがいれば一発解決! レイに指示をすると、山のようにあった石が忽然と消えた。


「「「なっ!?」」」

「はい。スキルで収納しちゃいました!」

「「「そそそ、そんなことがっ!?」」」


 途端に驚愕するおじさんたち。動揺しまくりであわあわと慌てていた。


「そ、そんなことまで出来るなんて!」

「ルナちゃんに頼めば、大変な運搬も簡単に終わるのか!?」

「くぅー! ここにずっとルナちゃんがいて欲しい!」

「そう言ってくれて嬉しいけれど、行かないといけないんだよねー」

「「「そんなっ!」」」


 石を手にいたら、町に行かないといけない。そういうと、おじさんたちはショックの様子で声を上げた。


 後ろ髪を引かれる思いだけど、私の任務は町の壁の修復の手伝いだ。ここは心を鬼にして町に戻らないと。


 そう決意していた時――近くて岩が崩れ落ちる音がした。すると、おじさんたちはすぐにその音に反応して、現場へと駆けつける。


 私もその後を追った。現場に行くと、岩壁が崩れ落ちていて、周りに他のおじさんたちが崩れ落ちた岩をどかそうとしている。


「手伝ってくれ! 石を割っている時に崩落したんだ! 下敷きになっている奴らがいる!」


 崩落の下敷きに!?


「任せて!」


 私はすぐに拳王の英霊を体に宿すと、崩れ落ちた岩をどかし始めた。どんどん岩をどかしていくと、人の腕や足が見えた。


 それから慎重に岩をどかしていくと、崩落に巻き込まれた人達が姿を現した。


「大丈夫!?」

「うぅ……」

「い、痛い……」

「体が……」


 声を掛けると、言葉が返ってきた。良かった、生きててくれたみたい。だけど、とても痛そうに蹲っていて、黙って見ていられない。


「待ってて、私が薬を作って来るから!」


 私はすぐにレイに飛び乗ると、薬の材料を取りに森へと走った。


 ◇


「おじさんたち、これを飲んで!」


 私は急いで調合した薬を手渡した。苦痛に顔を歪めていたおじさんたちだったけれど、薬を飲んだ途端、みるみる表情が変わっていく。


「な、なんだこれは……! 痛みが引いていく!?」

「すごい、本当に一瞬で……!」

「おおっ、体が軽い! さっきまでの痛みが全部なくなったぞ!」


 見る見るうちに怪我が薄れていき、動きも滑らかになった。おじさんたちは驚いた顔のまま互いに顔を見合わせ、すぐに笑顔へと変わった。


「ルナちゃん、本当にありがとう。今日も助けてもらっちまったな」

「ううん、大丈夫! 好きでやってることだから、気にしないで!」

「はぁ……なんていい子なんだ」

「本当に、ずっとここにいてくれたらどれだけ心強いか……」


 最初は笑っていたけれど、私が旅立つことを思い出したのか、おじさんたちの表情に影が落ちる。その様子に胸が少しチクリと痛む。


 何か、おじさんたちの心配を和らげることは出来ないだろうか? 腕を組んで考えると、出来ることが頭に浮かんだ。これなら、おじさんたちも安心してくれる!


「おじさんたちにお土産残しておくね!」


 そう言って、私は再びレイに飛び乗り、森へと走って行った。


 ◇


「おじさんたち! これ、私からのお土産!」


 私は胸を張って、どさっ……では収まらないほどの勢いで、アイテムボックスからポーションを次々と取り出した。


 色とりどりの瓶が積み上がっていく。赤、青、緑、金、銀。まるで宝石の山。光を反射してきらきらと輝き、一瞬で薬屋以上の豪華さになった。


「な、なんだこの量は……」

「お、おい……山になってるぞ……?」

「これを、ルナちゃんが一人で?」


 唖然とするおじさんたちの前で、私はにこっと笑って一つずつ指差した。


「はい、これは傷ついた時に飲む回復ポーションでしょ。で、こっちは疲れた時に飲むポーション。さらにこれは──」


 私は誇らしげに、鮮やかな緑の瓶を高く掲げる。


「魔物が現れた時に飲む強化ポーション! 飲んだらね、おじさんたちでもドラゴンくらいなら片手で投げられるよ!」


「ド、ドラゴンを!?」

「なんで、そんな凄いものを!?」

「一人でこんなに用意したっていうのか!?」


 おじさんたちは目を丸くして、積み上がったポーションの山と私を交互に見つめていた。


「私がいなくなるのが辛そうだったから、沢山お土産を用意したよ! これで、安心出来るよね?」


 おじさんたちの不安がなくなるように用意した数々のポーション。始めは驚いていたおじさんたちも、私の気持ちを知ってかとても嬉しそうにしてくれた。


「ここまでしてくれるなんて。ルナちゃんはとてもいい子だな」

「これだけあれば、安心して仕事が出来る。本当にありがとう」

「ルナちゃんがいなくなるのは寂しいが、これを糧に頑張ってみるよ」


 おじさんたちは口々に感謝をして頭を撫でてくれた。その言葉は私にとってのご褒美になり、嬉しい気持ちが膨れ上がった。うん、みんなのために動いて良かった。


「じゃあ、おじさんたち! 私はもう行くね!」

「ルナちゃん、本当にありがとう! また、来てくれよ!」

「寂しいけれど、町にいっても頑張って来いよ!」

「怪我とか、病気とかに気を付けるんだぞ!」


 ここの用事は全部済んだ。レイの背に飛び乗ると、おじさんたちに向かって手を振った。おじさんたちは元気よく手を振り返してくれた。


 そして、私はおじさんたちに見送られながら、町へと戻っていった。

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