22.一つの村を救ったぞ!

 それから、村の畑の復興を手伝いまくった。やり方は最初にやったことを同じ事。苗をとって活力を与え、堆肥を畑に撒いて耕し、抜いた苗を戻す。


 その繰り返しをしていくと、一つ、また一つと畑の復興が進んでいった。その度に周りで見ていた村長や村人は歓声を上げて喜んでいた。


 そして、全ての畑の復興が終わり、畑には生き生きとした苗がしっかりと根付いていた。


「凄い……以前よりも、しっかりと根が張っている」

「土の状態もいい。これなら、実りに期待出来る」

「今年の収穫は期待が持てそうだ」


 畑の状態を見て、村人たちは喜んだ。以前よりもいい状態になっていて、みんな口々に驚いたと言い、嬉しそうにしていた。


 そんなに喜ばれると、私もとても嬉しい。村人の笑顔は私の活力。その様子を嬉しそうに眺めていた。


 すると、そんな私の周りに村人たちが集まってきた。


 村人たちは次々とルナのもとへ集まり、口々に感謝の言葉をかけた。


「ルナちゃん、本当にありがとう。こんな短い間で、畑がここまで元気になるなんて!」

「枯れた苗が息を吹き返すのを見て、涙が出たよ……」

「おかげで、今年も家族に食べさせてやれる。あんたは村の恩人だ!」


 誰もが笑顔で、私の手を取ったり、頭を撫でたりしてくる。土に汚れた手の温もりが、ひとつひとつ心に染みる。


「え、えへへ……そんな、大げさだよ。私はちょっと英霊の使っただけで……」


 照れくさそうに頬をかくと、村人の一人が力強く言った。


「いいや! ルナちゃんのちょっとが、どれだけの希望をくれたか分からないんだ。あんたがいなけりゃ、この村はもう駄目だった!」

「本当にそうだ! このままでは村がダメになってしまうところを、ルナちゃんが助けてくれたんだ!」

「ここにルナちゃんが来て、本当に良かった。ルナちゃんは天使よ!」


 その言葉に、ルナの胸がじんわりと熱くなった。自分の力で誰かが笑ってくれる。そんな当たり前のことが、どうしようもなく嬉しい。


 レイとふたりぼっちの旅だから、寂しいと思う時がある。だけど、こうして誰かを助けることで、大事な人との繋がりを持てる。それがとても素敵だと思った。


 相手を喜ばせて、自分も喜ぶ。これは素敵な連鎖反応。この気持ちがあるから、生きるのが楽しくなる。


「みんなの笑顔を見てたら、こっちまで元気が出ちゃったよ」


 小さく笑いながら、胸の前で両手をぎゅっと握った。村人たちの笑顔が、まるで光のように心を照らしていく。


「それは、こっちの台詞だ。ルナちゃんが頑張っている姿を見ると、こっちが元気になるよ」

「こんなに小さな子から素敵な気持ちを貰えて、とても嬉しい気持ちよ」

「ルナちゃんを見ていたら希望が芽生えてきた。本当にありがとう」


 思いの詰まった言葉を沢山向けられて、胸がいっぱいになった。死霊術師でも人を笑顔にすることが出来るんだ。その事が凄く嬉しくて、誇りに思えた。


 すると、今まで温かく見守っていた村長が村人の前に出てきた。


「ルナ様のお陰で、この村に希望が灯った。みんなでルナ様に感謝をしよう。宴の準備じゃ」


 そう言うと、村人は一斉に沸き上がった。


「みんなで、ルナちゃんにお礼をするぞ!」

「ルナちゃんにこの気持ちを伝えましょう」

「ルナちゃんに素敵な思い出を!」


 あっという間に、村中が大騒ぎになった。


 焚き火の薪が組まれ、料理班が大きな鍋を運び出し、子どもたちは走り回りながら飾り付けをしていく。いつの間にか、夕暮れの村の広場は明かりと笑い声で満たされていた。


「ルナちゃん、これ持ってきたよ! 焼きたてのパンだ!」

「こっちはスープだよ! いっぱい食べてね!」

「ほらほら、真ん中に座って! 今日の主役なんだから!」


 押し寄せるように料理が並べられ、私はすっかり囲まれてしまった。大きなテーブルの上には、煮込み料理や焼いた野菜、甘い果物まで並んでいて、どれも香りだけでお腹が鳴りそうだった。


「えへへ……なんだか、すごく豪華だね」

「当たり前だ! ルナちゃんが村を救ってくれたんだからな!」

「良い物を食べさせたいっていう親心よ!」

「ルナちゃん、乾杯の音頭を!」


 村人たちが一斉にカップを掲げて、私の方を見る。その光景に、胸が熱くなって私は少し照れながらも、笑って言った。


「えっと……それじゃあ。みんなが笑顔になれて、これからも元気に暮らせますように!」

「「「乾杯ーっ!!!」」」


 その瞬間、歓声と笑い声が夜空に響いた。パンをかじる音、スープをすする音、子どもたちのはしゃぐ声。どれもが、心地よく耳に残る。


「ルナちゃん、この料理も食べてみて!」

「こっちは私の畑で採れた野菜を使ったんだよ!」

「これはウチで作った燻製肉だ!」


 差し出される料理を次々と口に運ぶ。どれも温かくて、優しい味がした。きっと、作った人の気持ちがこもっているんだろう。


「おいしい……すごくおいしい!」

「ほんと!? よかった!」

「ルナちゃんが喜ぶと嬉しい気持ちになるな」

「さぁ、もっとルナちゃんを喜ばせよう!」


 みんなが笑って、私も笑って。気づけば、焚き火の周りは笑顔でいっぱいだった。手を叩いて歌う人、踊り出す子ども、そしてその輪に加わるお年寄りまで。まるで村全体が一つの大きな家族みたい。


 私はその真ん中で、そっと手を胸に当てた。暖かくて、優しくて、胸の奥がぽかぽかする。


 ……この瞬間のために、私は頑張ってきたんだ。


 火の明かりが頬を照らす。空を見上げると、無数の星がきらめいていた。その光が、まるで「よくやったね」と言ってくれているみたいだった。


「ありがとう、みんな」


 小さく呟くと、風が優しく頬を撫でた。それはまるで、この村全体が私を抱きしめてくれているようだった。

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