殺したいほど愛してる
雪梛
血の海が見たかったなぁ
「はあ、はあっ」
どうやら今日は一段と数が多いようだ。
どこからか増援が来たのか魔物の数がちょっと多くてしんどい。
でもあの子の笑顔を脳内に浮かべる。
その瞬間に疲れていた体がまるで枷を外したかのようなちょっとした浮遊感に包まれた。
目前にはアンデットが一枚いる。
手に持っている刃こぼれのないナイフを即座に心臓部に突き刺した。
既に肉体が腐っているからかナイフが侵食していき臓器に達した。
そしてそのまま下に下ろして身体の内部を破壊していく。
反射的に動いたのかアンデットが一歩退きナイフが抜けたようだ。
その行動はわかっていたので一歩踏み出して脳天にナイフを振り下ろす。
もはや機能していない頭蓋骨を砕いて脳みそなのかなんなのかわからない物質を斬った。
そうしてアンデットが倒れて完全に動かなくなったようだ。
ナイフについている液体を振り払って気配を探った。
背後から四足歩行の獣が突撃してきているようだ。
ナイフを持っている右手側ではなく左側から来ているようなので少し身体を捻ってから思いっきり裏拳を入れた。
見事に眉間に入れ込んだことで獣は後退したようだ。
こちらも反動で手の甲から血が出ているがまあ及第点だろう。
獣を見据えて構えた瞬間あの子の気配を私の感覚がとらえた。
それの答え合わせをするかのように獣から血が吹き出して倒れ込んだ。
「お疲れ様ー」
明るい声でこちらに手を振りながら返り血がついている顔を笑わせて歩いてきた。
「珍しいじゃん。私の相棒である
普段は名前を呼ばないためちょっとどきりとしたが冷静に返答をした。
「第一波を倒したところで増援的なやつがきたのよ。でも貴方がきたことで全員いなくなったようね」
「そりゃあ良かったよ。でもどうせなら血の海が見たかったなぁ」
ほんのちょっと残念そうにしながらも私たちは目的地に歩き出した。
「そういえば増援のやつら初級の中域だったけどここにいるのおかしくない?最近の地上の異常傾向ってやつかな?」
現在、地上では人間の成れの果ては魔物たちが蔓延っている。
なぜそのような情勢になったのか詳しくはわからないが原因はボスモンスターとされている。
したから順に低級、初級、中級、上級で各層には下層、中域、上層がありその上に特大モンスター、ボスモンスターとなっている。
全ての階級の魔物たちは独自のテリトリーを築いており基本的に無干渉の関係だ。
しかし一定サイクルで食料を求めて殺し合ったりもする。
今回禍雪を襲った魔物たちはサイクル時期を外しているのに遭遇してきた。
近頃このような事象が増えてきているため人々はこのことを異常傾向と呼んでいる。
「まあとりあえずはいいわ。詳しい分析は第一支部に帰ってからにしましょう」
「そうだね」
そうやって話しながら茂みを通りかかると茂みの中からこの子に向かってウサギのような生物が襲いかかった。
こっちに満面の笑みを向けていたが視認せずに目にも止まらぬ速度で生物の眉間ににナイフをさして軽く上空に放った。
「だめじゃん。相手の力量ぐらいわからないっと」
軽く跳躍して身体を傾けると足を横回転させてエネルギーの増幅を行い生物が落下してくると同時に踏みつけを行った。
跳躍していたことにより位置エネルギーと自身の体重をプラスしてなかなかな威力がでたようだ。
目玉が飛び出て身体の穴という穴から液体が噴射しはじめた。
そして耐久値が持たなかったのか身体が裂けてそこから盛大に主に血が吹き出した。
「ああ…これだから最高なんだよ」
うっとりしながら返り血を浴びてちょっとしたらすぐに動き出した。
(ああ、やっぱり私はこの子が好きで好きでたまらないわ)
今の行動を見ていた私はそんなことを思った。
もはや好きという言葉では飾れない…いや言葉では語れない感情を自身の中で整えながらこの子の後をついていく。
血を浴びた後の目、ナイフ捌き、足遣い歩幅身長髪手足指そして体内を流れている血液すらも全てが愛おしい。
「大丈夫?疲れたの?」
自分では気づかなかったが思考していただけで少々息づかいが荒くなっていたようだ。
深呼吸を一回してから即座に冷静さをとり戻した。
「問題ないわ。さて、入るわよ」
いつのまにか目的地についたようだ。
このエレベーターのようなものは地上と天空を繋ぐもの。
先ほど人々と言ったようにこの世界にも当然人間は生きている。
地上がこの有様だ。
当然残されるのは天空というわけだ。
海でもいいかと思ったかもしれないが既に海洋生物も魔物による侵食を受けているためアウトだ。
天空には中央の大都市と小規模な都市が五つある。
大都市を囲うかのように配置されていて現在禍雪たちが向かっているのはその中の第一支部だ。
第一支部とは言っているが発展具合はあまり良くなくほとんどが地元民のみの小規模なものだ。
2人は地元民ではないのだが訳あってこの第一支部を拠点にしている。
「ようやくついたね。私シャワー浴びたーい」
「赤いシャワーは浴びたばっかりだけどもね」
「ふっふっふ、血で血を洗う戦場は一時終了なのだ」
適当な会話をしながら済んでいる宿に向かった。
「あらお帰りなさい。相変わらず派手にやってるわねー」
「もちろん!流血至高者としての血が騒いじゃうからね」
こうして歩けば大抵声をかけられる感じだ。
何人かと挨拶をしてから宿に帰ってくると早速シャワーを浴びに行ったようだ。
禍雪一人で待っているとノック音が部屋に響いた。
「失礼する」
制服を着た騎士のような男が入ってきたようだ。
「あら、ここは女子の部屋よ。マナーが悪いわね」
「くだらん冗談を言っている場合じゃない。相棒はどうした」
「今シャワーを浴びているわ。場所を指定してちょうだい。でてきたらすぐいくわ」
「わかった。では大広場のベンチにいる」
そう言って男は退室していった。
「本当に嫌ね」
この世界現状かなり危機的状況だ。
もちろん人類が総力をかけて戦っているが天空にいる時点で押されているのは言うまでもない。
ではそこでもし戦闘能力が長けたものが出てきたらどうだろうか。
家系や血筋などは関係ない。
強き者が上に上り詰めていくこの世界であの子は強くなりすぎた。
流血至高者という特性もその要因的なものとなっている。
現在危険な仕事の数々が毎日あの子に課されている。
いつ死んでもおかしくないような依頼のみだ。
もちろん私とて死を恐れることはなくなったが私的にあの子がいなくなったら終わる。
どこが好きなのかなんで好きなのかもうわからないがもうたまらなくあの子が好きなのだ。
それこそ仕事で死ぬぐらいなら私が殺したいほど。
でも現在の私があの子と戦ったら三秒と持たずに死ぬであろう。
殺気を向けた瞬間に目前から消えて動こうとした瞬間には首元にナイフがあるであろう。
少々脱線したが要はあの子を越えればいいのだ。
そうすれば仕事の受け持ちが私主体となるからな。
「殺したいほど愛しているわ」
そう呟いた数瞬後に部屋の扉が開いた。
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