ー3章ー 10話 「商人のための馬車錬成 ― 現れた一番弟子」

朝食を取り終え、僕は今朝のことを思い出していた。


ボルンの新しい荷車を完成させ、限定的ではあるが新たに金属を錬成出来るようになっていた新事実。


ボルンの予定ではアステルド連合国へ今後の取引先変更で向かうはずだった。

だが僕が錬成した荷車の出来があまりに良かったのか、お弟子さんを連れて再び王都へと戻って行った。


恐らく作った荷車用の馬を連れてくるのだろうと思う。


それにしてもアステルド連合国がどんな所なのかは分からないが、交渉へ行くのに荷馬車で良いのか?


ボルンの身なりはいかにも商人といった格好だが、小綺麗にしているのでそれなりに品がある。


商売をしている時はそれで良いと思うけど、交渉という場に荷馬車で登場というのはどうなのだろうか?


……ここはひとつ、箔が付くように「荷馬車」ではなく、馬車の車を作ってあげますか。


とは言っても王族が使うような豪華絢爛な物は作れないけど。

それでもそういう時には、やっぱりちゃんとした乗り物で行って欲しいと思うのは自然な事だ。


さて、ここで問題なのはどこまでの素材が錬成で使えるかだ!


木と金属は分かった……だが、それ以外を使った錬成は試したことがない。

ここはあの声に聞いてみるしかないな。


「えっと、馬車の車を錬成したいんだけど、今使える素材は何?」


さぁ、その答え次第で作れるかどうかが決まるぞ?


「現在制限が掛かっているのは金属の一部、魔石、鉱石、宝石です。その他の素材は使用可能です」


なるほど……金属の一部っていうのは、鉱石の中で鉄鉱石が解除されているって事か。

ということは、布や革は問題なさそうだ。

人が乗るのに布の類いを使えないのは致命的だからね。


他にも拘りたい所はあるけど、制限付きである以上、今作れる物であればいいか。

将来ボルンが大商人にでもなった頃には、僕の錬成の制限もなくなっているかもしれないしね。


僕は早速、馬車の車を錬成し始めた。

イメージとしては貴族が乗っていそうな品のある車。


車内は向かい合った革張りシートと、交渉時に便利な格納型のテーブル。

飲み物などを入れて置ける棚、窓にはカーテンを付ける。

他にも細部までイメージして錬成した。


するといつもの光と共に、車が姿を現す。

出来上がったのは想像以上に品のある車だった!


この出来栄えは正直感動した。


今回はボルンのために僕が勝手に作った物だけど、きっと喜んでもらえると思う。

ボルンにはいつもお世話になっているし、交渉なんて大事な場所で恥をかいて欲しくない。


そんな思いで錬成した。


商売用と交渉に使える移動用の車。

並べて見ると中々様になっている。


ボルンの反応を見るのが今から楽しみだ!


お昼すぎのポカポカした日差しが心地よい時間に、再びボルンが現れた。


予定を狂わせてしまって申し訳なかったと思うが……何だか大分騒々しい。


朝は男のお弟子さんと二人だったが、今度は女の人が一人増えていた。


また移住者の人だろうか?


騒々しい原因はどうやら女の人のようだ。

到着するなりその女の人は、朝僕が錬成した荷車を舐め回すように見ている。


ボルンにこの人は誰なのかと尋ねると、ボルンの一番弟子との事。


ということは、あの男の人が二番弟子?

まぁその辺の事情は追々聞くとして……この人は何故こんなに荷車に興奮しているんだ?


ボルンに詳しく聞いてみると、どうやら以前僕がボルンの荷車を直した事を聞いたみたいだ。

そしてボルンに設計図を渡し、それを作れるのかを試したのだとか。


……だからあんなに細かい設計だったのか。


ボルンの使っている荷車からは想像もつかない仕様だったからな。


「坊ちゃん!素晴らしい才能をお持ちですね。これ、商人達に売れますよ!」


喜んでもらえたなら何よりだけど……売れるって、商品にするって事!?


僕の錬成が、まさか商売に発展するとは夢にも思っていなかった。


商人魂に火がついたように目を輝かせる一番弟子さんに、この後ボルンのために作った車を見せるのだが……。



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