ー3章ー 7話 「小さな挑戦」
勇者パーティのメンバーだった人が、全員村に揃った。
そして僕たちの師匠になった。
勇者セリオンについては複雑な思いが残ってしまったが、それでも前を向いて進まなければならない。
ガルドにはローデンさん、リシアにはメルフェリアさん、ルナにはリゼルさん、そして僕にはオルセアが師匠として着いてくれる。
僕らの敵は魔物……一体どんな姿をしているのだろう?
この村はメルフェリアさんのお陰で結界に守られ、王都並みに安全なので未だに魔物を見たことがない。
しかし僕はずっと考えていた事がある。
魔物を倒せるようになる前に、イノシシを一人で倒せるようにならないといけないのでは?と。
三歳の頃、イノシシと二度対峙した。
どちらも勝利したが、あくまで偶然と連携で勝ち得た勝利……つまり僕一人では難しかったということだ。
あれから森の奥に行くことはなかったので、イノシシとは遭遇していない。
イノシシ肉は今も食べているが、倒してくるのはオルセアだ。
見たこともない魔物を倒すという目標が、今の僕には非現実的に思えてならない。
ならば見た事のある、未だ一人で倒していないイノシシに、まずは勝利したいと考えていたのだ。
僕は剣の練習の後オルセアに、「イノシシ狩りに連れて行って!」とお願いした。
オルセアは腕を組み少し考えていたが、「じいの指示に従うように」と同行を認めてくれた。
僕の立ち位置は前衛の攻撃職……この先僕が切り込んで行く場面は幾度となく訪れるだろう。
その為にも今イノシシを倒して自信をつけておきたい!
その思いをオルセアは汲み取ってくれた。
僕とオルセアは森の奥に潜むイノシシの元へと向かった。
森の奥に到着すると、オルセアはイノシシの痕跡を探し始めた。
木に付いた傷や足跡、掘られた土などから獲物を探す。
森は豊かで木の実がたくさんあるので、いつでも見つかるのだろうと思っていたが、そう簡単ではないようだ。
これは命のやり取り……相手も容易く現れたりはしない。
数十分森の中を探していると、後方の生い茂った草が「カサカサッ」と葉音をたてた。
咄嗟に振り返ってみるが、何の姿もない。
息を潜め音の正体を探る。
静寂の中、鳥の囀りと風が木の葉を揺らす音しか聞こえない。
「アレン、石刃を構えろ」
小声でオルセアが伝えてきた。
その目は確かに何かを捉えているようだった。
僕は石刃を手に取り構えた……が、いつもと様子がおかしい!
手にした石刃がいつもの形状と違っていたのだ。
三歳の頃に使った時はいわゆる脇差程度の長さで、形状も石素材のナイフをそのまま伸ばした感じのものだった。
ずっと木剣で練習していて石刃に触っていなかったので気が付かなかったが、僕が色々と成長したのだろう。
それは子供サイズではあるが、誰がどう見ても立派な剣と呼べるものになっていた。
もちろんオルセアの愛剣には程遠いものだが、あの頃の石刃よりも段違いにしっかりしている。
……これならやれるかもしれない!
僕は茂みに隠れている何かをじっと見据えながら、その時を待っていた。
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