ー2章ー 22話 「三歳児たちの偉業 ―森に流れた最初の水路―」

イノシシを子供たち四人で倒し、作業を再開した。


観念したのか、イノシシは静かに座っている。

後の事は大人に任せるとして、僕らはせっせと溝を掘り続けた。


それにしてもガルドの掘るスピードが早い!

リシアとルナが印を付けたそばからドンドンと掘り進めている。

僕も頑張ってはいるが、全然追いつかない。


これじゃまるで僕が手を抜いているみたいじゃないか!


だがガルドの掘り方は雑なので、僕は後ろから修正しながら進んでいる。


まぁ、ある意味連携が取れているのかな。


そんな日々を暫く続けた。


それから一週間が経ち、掘り進めた溝は川の目前まで到達していた。

作業の進行具合からいって、今日中に掘り終えるだろう。


僕はみんなと作業へ向かう前に大工さんの元へと向かった。


「もうすぐ溝が川と繋がるので、溝に嵌める木枠を作ってもらえませんか?」


そのまま繋いでしまうと泥や葉っぱなどがたくさん流れてしまうので、木枠を作り蓋をして流す作戦だ!


大工さんは倉庫へ向かうと予め作っておいた木枠と蓋を僕に手渡した。


「アレン坊ちゃん、少し重いから気をつけてくださいね。……それにしても1セットだけで本当に良いんですか?」


お願いしていたのは木枠と蓋の1セットだけ。


大量にコレを森の中へ運ぶのはかなりの時間と労力が掛かる。

しかもそれを運ぶとなれば、子供たちだけでやらなければならない。


そこで僕の錬成の出番だ!


練習という意味合いもあるけど、この錬成自体は戦闘向きではないと以前オルセアが言っていた。

ならばせめてこういった生活面で役に立ってもらおうという事だ。


まだ作れる物は限られているけど、素材は木なので問題ない。

後は一日に何個作れるのかって事くらいかな。


何にせよ早く完成させてオルセアの負担を減らしてあげたい。

その思いだけで僕は前に進んでいた。


その日、川まであと1メートルという所まで溝を掘り終えた。


今回の功労賞は間違いなくガルドだろう。

彼の見せた「掘る」という作業への情熱と執念は、誰がどう見てもダントツだった。

その凄まじいまでの集中力は、あの土に埋まった石をほじくるという所から生まれたのだろう。


……正直、感服した。


翌日、僕らは次の工程へと移った。


木枠を嵌め、蓋をしていく作業だ。

大工さんに言われた通り、少し傾斜のついた溝へ木枠を嵌めていく。


真っ平らだと水が流れないという事だったので、木枠を設置する際も微調整を繰り返しながら作業を進めた。


木枠と蓋を錬成できるのは、一日20回程度。


それ以上はどんなに頑張っても何も錬成されなかった。

これも年齢制限の影響なのだろうか?


日々の作業は僕の錬成回数によって進行しているので、少し日数が掛かった。


それから三週間後、遂に掘り進めた場所まで木枠と蓋を設置する事ができた!


この一ヶ月、みんなで力を合わせて作り上げた水路。

僕たちは何かを成し遂げたという行為に、胸が熱くなっていた。


本来、三歳児がここまでやって見せたというのは、今後僕らの誇りと自信になるだろう。


……これでオルセアの負担も少しは解消される。


僕らは汗を拭いながら、作り上げた水路を暫く黙って眺めていた。


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