第16話「セーフティーエリアの開拓⑦」


 

 

 

 

 ボロボロの祠まで戻ってくると、ティシさんがおもむろに泉の横辺りに魔法で大きめの穴を掘り起こしていく。

 穴の周りはしっかりと固め、とりあえずの溜め池を作るようだ。


「まずはこんなものじゃな」

「水路の途中に濾過装置でも作りますか?」

「なんでぇ、ろ過装置ってのは?」

「不純物や異物を物理的に分離させる装置ですよ。ろ材の隙間よりも大きな固形物はろ材に捕捉され、液体のみが通る感じにするものです。砂利や砂、活性炭……は、ないよね、木炭と布があれば出来ますよ」

「ほう、そんなものがあるのか? それくらいなら我らでも用意できそうだのう」


 話を聞いてティシさんとガンテさんがうなずきあって、そのまますぐにガンテさんがどこかへと走っていく。


「ぬ? 綺麗な水にするためにゲンを仲間にしたのではないのか?」

「そうだけどさ、ゲン一人でこの汚くなった泉の全てを綺麗にはできないでしょう」

「うむ、泉が汚れた根本を何とかせねば綺麗になることもないじゃろう。出来たら、それこそ神の御業じゃろうな」

「確かに、ウィンの言う通りじゃなぁ。ゲンが持っている浄化スキルも初期レベルで、ちょっとしたモノしか綺麗に出来ないと書かれておるのう」

「そうだったのか、小さく掘った水くらいなら浄化して使えると思っておったのだがなぁ」


 浄化のスキルと言っても、そこまで都合の良い能力じゃあないらしい。


「玄にはろ過装置の浄化を頼めば良いと思うんだ。ろ過装置に溜まる汚れなら玄でも浄化し易いだろうしね」

「ふむ、どうなのじゃアシっ子よ」

〈ゲンが大量の水を浄化できるようになるには、上位以上レベルが必要です。なのでウィン様が考えた通り、一か所に溜まった汚れであれば、ゲンの浄化スキルでも綺麗にすることが可能と思われます〉


 モグラのゲンは小さな手をワキワキさせ、任せろという感じで動き回っている。


「ゲンもやる気十分という感じみたいだぞ」


 僕のミプリと違って、結構動き回ってアピールしてくるみたいだ。

 元々の性格が綺麗好きなのか、汚れの掃除を早くやらせろというような感じで泉を見ている。


「してウィンよ、ろ過装置なるモノはどのようにすればよいのだ?」

「童も興味があるぞ‼ あんな汚れた水が綺麗になるなど信じられぬ」

「え~っと、何か書くものはありますか?」

「書くものか……これでよいかのう」


 ある程度の覚悟はしていたが、リアルの世界みたいに綺麗な紙がある訳じゃないようだ。

 ちょっとゴワゴワした感触が残る羊皮紙やパピルスだったか、植物繊維を圧縮して作ったような紙だ。


「使っても良いんですか?」

「あぁ、問題ないぞ? いくらでも作れるからのう」

「そういう事なら、遠慮なく」


 もしかしたら……文明レベルってやつも、上げていかないとダメかもしれないね。

 中央都市では魔法の文明が進んでいるから、掲示板みたいなものがあったけど……一般市民が使うようなものはあんまり発展していないのかもしれない。


 とりあえず、ろ過装置の原理というか説明というか……絵にして分かりやすく伝えられるように考えながら、ティシさんとユウに教えていく。



 ある程度の説明が終わりかけた頃に、ガンテさんが遠くからドタドタと足音を鳴らしながら戻ってきた。


「言われたもんを持ってきたぜ」

「ご苦労じゃ、しかし……水路に設置するとなると、ちょっと工夫が必要じゃな」

「図の説明みたいに区切った層を作って、段差を少し作れば出来ると思います」


 確か浄化槽の形をとれば、何とかなるだろう。


「なるほどのう、やってみよう。しかし時間がかかりそうじゃな」

「俺は何をすればいいんだ婆様よ」

「うむ、まず簡単なものから作ってみるかのう。ウィンの書いてくれた図みたいに小さい入れ物を作ってろ過装置を作ってみようぞ。どれくらいのものかは知っておかねばな」


 そんな話をガンテさんとティシさんが話し合っていると、僕の目の前にウィンドウ画面が飛び出てきた。


≪これ以上のプレイをする場合、ステータスに大幅なデバフ、もしくは強制的な睡眠状態になります。休憩時間を設けてくださいますようお願い申し上げます≫


「あ~、もうそんな時間なのか」

「ぬぉ⁉ なんじゃこれは⁉」


 僕らの声に何事かとティシさん達がこちらを向いて首をかしげている。


「あ~、すいません。僕らはちょっと休まないといけないみたいです」

「そうか、たしかトラヴェラー達は一定時間の休憩が必要であったのう。ならば我の家に行って休んでくると良い、下の階へ下りれば、雑魚寝が出来るスペースがある。元々はダンジョンのセーフティーエリアだった場所じゃ」

「なんでぇ、そういう事ならしょうがねぇな」

「ちょうど良い。我らは水路とろ過装置の方を頑張って作ってみるとするのじゃ」

「ユウ、ゲンの力を借りてぇんだが良いか?」

「うむ、ゲンもやる気があるみたいだしのう。大丈夫ではないか?」


 コクコクとうなずきながらゲンはガンテさんの方へと向かっていく。


「ゲンの事をよろしく頼むのじゃ」

「あぁ任せときな」


 ユウとガンテさんのやり取りを横目に見ながら。

 チラッと頭の上にいるミプリを見る。

 ふさっと尻尾で頭を撫でられるだけで、僕から離れる事はなかった。


「ほほ、生まれたばかりの精霊じゃからな、無理に引き離すのは可哀そうじゃろう」


 そうそうと言う感じで便乗するようにミプリが「コフッ」と鳴く。


「はいはい、それじゃあ一緒に行こうか」

「ぬぅ、もう少し続けたかったのだがのう」

「しょうがないよ、中央都市でもクエストをクリアして回ってたしね」


 多分だけど半日くらいプレイしてたんじゃないかな。


 ガンテさんとティシさんに手を振って挨拶し、ティシさんに教えてもらった家の地下へと向かう。

 そこには雑魚寝が出来るような敷布団が幾つも残っていた。

 僕とユウはごろんと寝転がって、ログアウトの手順を踏む。


 

 


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