第13話「セーフティーエリアの開拓④」

 

 

 

 渡された巻物を開くと一瞬だけパッと光り輝く。

 ピコン♪ という音が聞こえたかと思うと、勝手にスクリーンウィンドウが浮かび上がる。


 そこには金色の鎖と赤色の鎖に絡められた『北大地の発芽息吹』という名のクエストが現れた。


「これはなんじゃ? アシっ子よ」

〈チェインシナリオです。隠しクエストを攻略するには幾つかの段階や手順、クリアしなければならないクエストが存在します。それら隠しクエストに関連するモノを総称してチェインクエスト・チェインシナリオと呼びます〉


 スクリーンウィンドウを縁取っている金色と赤の混じった装飾の上には『北大地の秘密』と小さく書かれている。よく見ると鎖で絡められた名前が入りそうな空間が後4つくらいある。


「ということは全部で5つあるのか……」

「それよりもウィンよ、巻物の内容はどんな事が書かれておったのだ?」

「え~っと……北の草原・第一セーフティーエリア敷地の権利書……ほぇ?」

〈一つ忠告です、この世界の巻物とマスターとウィン様が呼んでいるモノ……スクロールなのですが、簡単に開かないことを今後、お勧めします〉


 アシさんの言葉を聞いて、巻物に向けていた視線をすぐさまティシさんへ向ける。

 彼女の口元がニヤリと口角を上げ、僕の事をしてやったりみたいな顔で見てくる。


「あ~、開いてしもうたのぉ~」

「まぁなんだ、ご愁傷様だな」


 ガンテさんは僕達から顔を逸らして目を合わせないようにしている。


「それは一度開いたら最後じゃ、契約を全うするまでこの地からお主を放さんじゃろう」

「いやいや、僕は普通に手伝うって言いましたよね⁉ こんな変なので縛る必要はないはずで――⁉」

「ふむ……童らを、いや……ウィンを絶対にこの地から逃したくないのではないか?」

「えっと、ユウは何か思い当たるの?」 


 ちょっと混乱気味の僕を横目にみながらユウは顎先に指を当てて考えをまとめるように話し出した。


「ティシ嬢が言うておったではないか「お主を放さん」と。ガンテ殿やティシ嬢、それに北町に住まう者達が北の大地を全く開拓しないというのは、どうもおかしいのじゃ……つまり、ここにはウィンが居らねばならない理由があるのではないか?」


 ユウが言い終え、チラッとティシさんとガンテさんの方を見ながら答えを待つ。


「そうじゃ、門より先の大地には召喚されしトラヴェラー、それもセントラーに選ばれ、《開拓者》の加護……祈りを持つ者の力が絶対に必要なのじゃよ」

「論より証拠って訳じゃあねぇが、ちょっと見てな」


 ガンテさんが腰のポーチからクワを取り出した。


「ほぇ‼ どこに入ってたの⁉」

「マジックバックってやつだよ。それよりちゃんと見てろよ」


 おもむろに地面を耕し始めるガンテさんだったが、耕しているはずの場所は少し後ろに下がればすぐに元の堅い道のような状態に戻ってしまう。


「ほお、これはまたなんと面妖な」

「えぇ~、これじゃあ開拓も何もできないじゃないですか」

「そう思うだろう。次はウィンの嬢ちゃんがやってみな」


 ガンテさんはそのまま手に持っていたクワを軽く投げてよこす。


「わわぁ⁉ 危ないじゃないですか」

「なんでぇ、力がねぇな~」


 ガハハと笑っているガンテさんを少し睨みながら、ちょっとバランスを崩して前のめりになった体勢を正す。

 しっかりとクワの柄を握り、さっきガンテさんがやっていたように軽く地面を耕していく。


「え⁉ あれ?」

「おぉ⁉ なんじゃなんじゃ」


 明らかにクワが掘り返す面積よりも広い範囲が耕されていく。

 ちなみに同じ場所を耕すと、更に土がふかふかになった。


「ガンテ殿が掘った時のように元に戻ったりはしないみたいじゃな」

「それが《開拓者》という資格を得た者の力じゃ、それからコイツをウィンに渡しておこう」


 ティシさんの名前が書かれたメダルを僕に渡してきた。


「そのメダルを祠に翳すか、さっき渡したスクロールに入れてみよ」


 とりあえずティシさんに言われた通りに、メダルを祠に翳してみる。

 すると人魂のように青白く燃え上がり、祠に吸い込まれていく。



   〔管理モンスター0〕〔住民1〕〔家畜0〕

   〔領地×〕〔地質-50〕〔水質-100〕〔畑-50〕

   〔管理者【ウィン】〕

 

 住民の所が0から1に変わった。

 というか、管理者が僕のキャラクターネームに変わっている。


「俺のも入れてくれ‼」


 ガンテさんも同じ名前の書かれているメダルを投げてよこす。

 こんどは僕が持っている巻物……スクロールを開いてメダルを投入口に入れるように押し込んでみると、水面のような波紋が広がりながら吸い込まれていった。


   〔管理モンスター0〕〔住民2〕〔家畜0〕

   〔領地×〕〔地質-50〕〔水質-100〕〔畑-50〕

   〔管理者【ウィン】〕


 住民が1増えて、2人になっている。


「おぉ‼ これで俺もっ」


 落ち着かない様子で手足をパタパタ動かしながら、僕の方へと駆け寄ってくる。


「クワを‼」

「え、あ、はい」


 顔面を近づけて力強い声に驚きながらも、クワを返してあげる。


「はぁ……ふぅ~。俺達にも出来るように……」


 緊張した様子で地面とクワを見つめ、微かに震えている手を鎮めるように息を吐いて目を閉じている。

 少しの沈黙の後、先ほどと同じように僕が耕していない地面を目がけてクワを振り下ろしていく。


 ザクッザクッ――と土を掘り返し、耕す音がしばらく響き渡る。


 僕が耕した時と違って、クワの刃先だけしか耕されていないが……何もなかったように戻る事はなく、しっかりとガンテさんが耕した地面はそのままで、掘り返した土は平らにならず耕されていく。


「ああぁああぁ‼ 俺にも耕せてやがる。はっ、ガハハハ――」


 目の端に涙を溜めながらも、それを拭う暇などないと言うかのように……ガンテさんは高らかに笑いながら、ただ一心不乱にクワを振り続けている。


「これがお主を欲しがる理由で、絶対に逃したくはない理由じゃ」


 少しだけ申し訳なさそうに頭を下げながらも、しっかりと見つめてくる。


「この地を、よろしくお頼み申します」


 ティシさんはそのまましゃがみ込んで、土下座でもしそうな勢いだった。

 だから一歩近づいて、彼女が地面にしゃがみ込む前にちょっと強引に手を取る。


「う、ウィン? いったい」


 戸惑うティシさんに微笑みながら、しっかりと立たせてあげる。


「住民第一号なんだからさ、開拓ど素人の僕に色々と教えてくださいよティシさん」

「あ、あぁ。それはもちろんじゃ」

「童達は何もわからん雛鳥と変わらんからのう」


 にっこりと笑うユウを僕を潤んだ瞳で交互に見ながら、何度もうなずいてくれる。


 シャラン―― シャラン――


 急に大きな音と共に、空に大きな鐘の映像が流れ始めた。


≪ワールドシナリオ解放条件が達成されました。一部の施設やワールドが解放されます≫


 何やら世界の物語が解放されたらしいが……僕らには関係ないだろう。


「良い雰囲気だったのに無粋な鐘の音じゃのう」

「まぁまぁ、僕らはとにかくこの場所を開拓していかないとだしさ」

「そうじゃな……。してウィンよ、童達は何をすれば良いのだ?」

「ほぇ? あ、う~ん……まずは地質と水質の改善が先だろうね」


 いくら畑を耕したところで、この〔地質-50〕や〔水質-100〕っていう数値じゃあ何も育たないだろう。


「ふむ……ティシ嬢よ、なにか改善が出来る心当たりはないかのぅ」

「そうですね」


 ティシさんは腕組みしながら考え込んで数秒、チラッとユウの方を見ながらうなずく。


「ユウ、モンスターを連れてきてもらいたい」

「魔物をか⁉ なぜじゃ?」

「モグラかネズミ、出来ればモグラがよい。モグラは浄化系のスキルや加護を持っていることが多いのだ。それに地質の改善にも貢献してくれるはずだ」


 それは確かに、凄く欲しい能力。








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