第8話「配信中継」


 

 

     ♦♦♦ 配信中 ♢♢♢

 

 


 ある程度のキャラクリエイトは終わっていても、ステータスの割り振りやメイン職の選択もあって生配信が少し遅れているが……まぁ、問題ないだろう。


「しっかし、遊恵美さんも悪いことを考える」

「あら、発案者は私じゃなくて劉ちゃんでしょう。ほぼ完成形のアバターを使って(仮)の自己紹介動画なんかアップしておいて、よく言うわよ」


 キャラの大まかな立ち絵自体は影絵という形で、実際の生配信時には若干の変化はあるという文言付きのキャラ紹介動画を上げてあるのだ。


「昨日の夜中に急遽もう一人分を作ってたからな」

「いや~、一人じゃあインパクトも設定も弱かったから助かったよ。ちょっとしたストーリーにもなるし、紬の方のキャラ立ちにも一役買ってくれているね。ちょっとだけ漢を意識している言動も、しっかりと生きてくる」


 劉はモニターに映る紬の姿を見ながらニヤリと微笑む。

 その姿を遊恵美が半目になりながら横目で見ていた。


「好きねぇ~、そういうの。バ美肉ブイキューバ―としてデビューさせるの?」

「いや、地声としてで良いだろう。しっかりした自己紹介は生配信の後で上げるという告知はしてあるからな。他のブイキューバーと同じことをしていたって意味がないんだ、ならさっさとどういう活動をしながらやっていくかを、生で見せながらやっていった方が、コアなファンが付いてくれるだろう?」


 劉は自己紹介のキャラ説明は白と紬の出会い話を元にした、ストーリーテラー風にしてブイキューバーが好きな人へと流れるよう、世界最大の仮想世界マーケットでも宣伝動画を配信している。


「多少なりとも高くついたが、企業の立ち上げとしては本気度が伝わるだろう」

「そねぇ~、私の知り合いにも歌の打診を頼んでたもんね」

「ちょっとしたアニメーションCMを制作した甲斐があったというものだ……お陰様で徹夜だったがな」

「寝なくて大丈夫なの?」

「ふはは、今はハイってやつだ。問題ない」

「あぁ、久々に暴走モードね劉ちゃん……」

「最初が肝心だからな、ぶっちゃけ寝てなどいられないというのが正しいのだが……正直、白ちゃんと紬の出会いのせいだな。その話を聞いてから俺の中のインスピレーションが浮かんで止まらんのだよ」

「そうなの? なら次回作は楽しみに待とうかしら」

「期待していてくれ! おっ、こうしている間にも人は集まってきているようだな」


 キャラクリエイトも終わったようで、ようやく配信がスタートできる中央広場へとやってきていた。


【あらあら、ようやく始まったようねぇ~】

【クリエイトレジェンズがメインって事で良いのかな?】

【先行して二人がデビューなんだよね】

【神様と、神社再建の為に手伝ってくれる巫女さんの二人ね】

【新人さんデビューと聞いて⁉】

【新たな箱の誕生と聞いて⁉】


 コメントの方も盛り上がりつつあるようだ。


「初めまして皆様方。【リユニオンバース】の設立者、九尾零と申します。現在――――」


 物凄い変わり身の声音で話始めた遊恵美を横目に見ながら、そそくさと劉は自分の作業を開始する。

 仮のアバターの姿を画面に映しながら、現状の説明やら今後の方針やらの説明をしつつ時間を稼ぎ、紬と白のライブ配信が出来るようになる状態を待つ。


「ということで、しっかりした自己紹介は後々になりますのでその辺はご了承ください」


 ある程度の説明が終わったようで、コメントを打ってくれている人達も納得してくれている様子。


【了解よ~】

【待ち遠しいでござるなぁ】

【まだかな♪】


 どうやらキャラの名前も決まったようだし、そのまま【ウィン】と【ユウ】の名前を載せて、二人が中央広場の場所から走り出した瞬間に音楽を流しながら自社の紹介動画と二人のライバープロフィール画像を流す。


【ふふふ、良いわねぇ~】

【ウィンちゃんとユウちゃんか~、可愛らしい子達じゃないか】


『ちょっと――、じゃなかった。ユウ! 急に走り出さないでぇ~』

『先ずは街中の探索に出発じゃ~』


【あらあら、ウィンちゃんってばスカートを気にしてるのかしら? あんまり可愛らしい格好をしたことがないのかしらね~。でも、村人が着ている服よね? 最初の装備って確か職業寄りの装備じゃなかったかしら?】

【ん~、自分も聞いたことないですね。魔術系ならローブとか戦士タイプなら傭兵装備とか……】

【特化で上げたなら、職業装備が手に入るらしいですけどね】

【じゃあ全部を平均的に上げたか?】

【全部を平均的に上げると凡庸装備のはずだぞ】

【職業寄りになるけどな。ちなみに俺がそうだったから村人では絶対にないね】


(遊恵美さんと幼馴染の女の子にはめられて女装させられていたこともあったが……あぁ~、あんな恥ずかしそうにスカートを気にしてる方が、変な色気が出ちゃうからやめた方がいいのになぁ。まぁこっちとしては、そういう感じを出していってもらえるとありがたい)


 チラッと劉がコメントや同時視聴者数のメーターを見ながら微笑む。


『ぬっ⁉』

『わわぁ‼ 急に止まらないで⁉』


 順調に進み、そろそろ場面が外へと行くかと誰もが思っていたのだが……。

 急にユウがウィンの手を取って急停止した。

 いきなり引っ張られたウィンも転びそうになりバランスを崩して、スカートの中が見えそうになっていた。

 ウィンは持ち前の運動神経で何とか耐えつつ、ペタンと地面に座ってスカートがめくれるのを回避する。


『すまぬ、どうやらまだまだ街中や北門前の下町でやらねばならぬ事があるらしいのじゃ‼』

『ほぇ? そのまま外に出ちゃダメなの? 僕としては人目が気になるから早く外に出たいんだけど……』

『うむ、アシス、たんと? とか言う、ギフト? からのご助言じゃぞ。しっかりと聞いておいた方がよかろう』

『ねえ? なにそのギフト?』

『知らぬ。ただちゅーとりやる? なるモノを一から説明してもらったり体験したらもらえたのじゃ』


 どうやらユウちゃんが未発見ギフトを発見したのか、コメント欄の方でも盛り上がってきている。


【ちょっとちょっと‼ なによそのギフト⁉】

【チュートリアルなんてやってねぇ~、そんなギフトが得られたのかよ⁉】

【マジか‼ そんな情報はなかったよな⁉】

【なになに? 未発見ギフトってことか?】

【まぁ、チュートリアルなんてやらねぇしな】

 

 そうこうしている間に、ユウちゃんのギフトであるアシスタントからフレンド登録とパーティーを組むやり方を教わり、ウィンの方にもユウちゃんのアシスタントギフトの声が聞こえるようになったらしい。


『うわぁ、本当に聞こえる。変な感じ』

『とにかく、あしすたんと嬢の言うちゅーとりやるくえすとん? とかいうものを受けねばならんそうだぞ』

『街クエストみたいなものかな? え~っと、厨房の手伝いや仕入れから、屋根の修理なんかもあるね』

『うむ、仲間になっていれば個別に受けても大丈夫だと言うておる。童は修理のやり方や荷運びを手伝った方が良いらしくて、ウィンはその精霊とやらと料理屋や服屋の方を手伝ってほしいそうじゃ』

『まぁ料理なら良くするし、裁縫も別に良いけど』

『童の職はテイマーじゃからな、動物達の誘導や魔物とやらを使役して荷運びをする方が良いらしいからのう。まぁスキルは手伝いをした者にしか得られぬそうじゃが……童は料理も裁縫も出来んから、頼んだのだ』

『あ~、分かったよ。多少はお互いに手伝いながらやっていこう』

『ウィンならそう言うてくれると分かっておったぞ』


 ユウは物凄く嬉しそうにしながらウィンに抱き着いた。


【ふふ、良い感じのこたちねぇ~】

【仲良しだ~】

【……百合の花が……】

【なんか変なの混じってんな】


『あれ? 僕は厨房では⁉』


【ウィンちゃんって自分の容姿をしっかり見ないタイプね】

【似合ってる~】

【初々しい、いいね!】


『おぉ、そのエプロン姿も似合ってるのぉ』

『そんなマジマジ見ないでよ‼』


【それは無理というものだ……ここって北門前の下町だよな……】

【そうね、たしか廃れた料理屋があったわね】

【ふむ……変な輩に手を出されぬよう、見守りに行かねばならんでござるな】

【ユウちゃんの方は、しっかりお客さんをあしらえてるのにねぇ~、ウィンちゃんってば顔を赤らめちゃって……それじゃあ逆にお客さん達の気を引いちゃうのに……】



 ウィンは料理の手際よりも客寄せとして使われ始め、スカートを押さえて身を縮めながらも、料理の提供を頑張っていく姿が、また街を歩く人々を引き付けていた。


「良いわね、さすがは私の見込んだ子だわ‼」


 遊恵美さんが胸を張ってニヤニヤした笑みで自慢の子供を誇っている母親に……いや、アレは母親じゃあなくとも、同じ顔をしている気がするな。


(強く生きろよ、紬……ここにお前の幼馴染達が居なくてよかったな)












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