第31話 新たな仲間と新たな問題
何とかメンタルを持ち直す徹。
早速、2人を連れて拠点である安宿へと向かう。
パレットは、自身の拠点から離れる事に対して、若干不安を覚えていた。しかし、狙撃銃が使えない現状、彼女の自衛手段は少ない。
何か起こった時、手を貸すことができない。
そう説得すると、彼女は渋々ながら了承してくれた。
玲に関しては、今しがた召喚されたばかりだというのに二つ返事で了承してくれた。見る物全てが珍しい、と言わんばかりにキラキラと輝く瞳。
恐らく、異世界を命一杯楽しみたいという思いが強いのだろう。
(しっかし、また癖の強いユニットが現れたな)
メイド。ホムンクルス。暗殺者に続いて、今度は日曜の朝に放送されているホビーアニメの主人公。
一体、どうして彼・彼女達が『ガチャ』から召喚されるようになったのか。その経緯について知りたい所だが、恐らくは覚えていないのだろう。
何はともあれ、玲も徹の目的を達成する為に、力を貸すと約束してくれた。
今まで女性ユニットしかいなかったので、少年とはいえ男性ユニットを召喚できた事は素直に嬉しい。
パレットが拠点に使っている周囲は、はっきりいって治安が悪い。
面倒事に巻き込まれないように、細心の注意を払いながら、拠点へと戻る。
「という訳で、新しく召喚したカードバトラー玲。もとい、情熱 玲君と、今まで姿を現さなかったものの、俺達を支援してくれていた暗殺者『梟』。もとい、パレットだ」
「おう! よろしくな!」
「……あ、は、はい! ……宜しく、お願い……し、ます。……はい」
玲は胸を張りながら。
逆に、パレットは身を縮こませながら挨拶を行う。
今現在、徹達がいるのは安宿ではない。
安宿に新たに2人加わるのは定員オーバーだった。5人でさえ狭いのに、7人になってしまえば地獄だ。
という訳で急遽、徹達は近場の酒場にやって来ていた。
メイドル、シス、サード、イーナの順番でそれぞれ自己紹介を行う。
尚、イーナに関しては声を出せない為、身振り手振りで行った。
所感としては、悪くない雰囲気だ。
パレットに関しては、コミュニケーション能力には難があるものの、幸か不幸かシス達を始めとする仲間達は全員、積極的に話しかけていくタイプ。
目を白黒させ、息が荒くなり、さながら野生の獣の群れに囲まれたかのように顔を真っ青にしているパレットではあるが、きっと皆と打ち解ける事が出来る筈だ。
助けを求めるように、手を伸ばす彼女を見なかった事にしつつ、玲に話し掛ける。
「あー、玲君、って呼んでも良いか?」
「うん? ああ、俺の呼び方は何であっても構わないぜ! 仲間達からは、情熱だったり、玲って呼び捨てにされたり、好敵手や邪魔者って呼ばれてたりしていたぜ! だから、アンタも俺の事を好きに呼んで良いぜ! おっさん!」
――おっさん。
玲に悪気はなかったのだろう。
苗字を体現するように、情熱然とした赤色の髪。伸ばしているのか、輪ゴムを使って一括りにまとめている。
髪色よりも尚、濃い紅色に染まった瞳に、精悍な顔立ち。
ドラゴンのイラストがプリントされた帽子に、半袖のTシャツに、半ズボン。
この格好からも分かるように、彼はまだ幼い。
恐らく、年齢は10歳か11歳。
そんな彼からすれば、19歳の徹は十分おっさんなのかもしれない。
しかし、傷ついた。
何気ない一言は、徹の心に突き刺さる。
人によっては、怒鳴り散らしてもおかしくない禁句ワード。だが、徹は努めて冷静に、玲に対して注意を行う。
「玲君。俺におっさんって言うのは大丈夫だけど、他の皆には、くれぐれもそんな言葉を使わない様にしようね。……人によっては、傷付いちゃうかもしれないから。……ね?」
徹の注意を聞き、ハッとした様子で目を見開く玲。
「確かにそうだ! ごめん! おっさ……いや、兄さん? ……兄ちゃん! ごめんな、兄ちゃん! 俺、もうこんな言葉は使わないから!」
素直な子だ。
自分の非を認めて、ちゃんと謝罪をする。
将来が楽しみだ。きっと、立派な好青年になるだろう。
(あれ? そう思った瞬間、邪な心が沸き上がって来る気が……? クッ、去れ! 邪念よ! 俺は、お前らに支配などされない!)
醜い嫉妬を振り払いつつ、徹は玲と談笑をする。
話の中心となったのは、玲の過去について。
予想していた通り、彼は日曜日の朝に放送されるような、ホビー系アニメの主人公だった。カードを純粋に楽しんでいる少年ではあるものの、カードゲームを悪用して世界を征服しようとする悪の組織と戦う。
いかにもな感じのストーリー。
おまけに登場する彼の仲間達も既視感があり、何処か親しみを感じる。
ふと、思い出す。
子供の頃に、頑張って早起きして見ていたホビー系アニメを。
あれはただの空想だと思っていたが、空想では無かった。現実が今まさに、徹の目の前にいる。思わず感動してしまう。
「それで、カードを使って世界を征服しようとする悪の組織。ダークネスカードバトラーとの最終決戦、って所で気付けばこんな場所に来てたんだ」
「へー。戦いの行方が気になる所だけど、そこで終わっちゃうのか」
残念だと呟く徹。
ここで気が付く。
否、もっと早くに気付くべきだった。
玲はまだ子供だ。にも関わらず、こうして見知らぬ世界に迷い込んでしまった。何の覚悟もしてないのに、家族や友達と離れ離れになってしまった。
不安や寂しさは尋常ではない筈だ。
今はまだ、異世界に来たという興奮によって、その自覚は無いのかもしれない。しかし、次第に不安や寂しさは滲み出て、体を蝕んでいく筈だ。
徹にも似たような覚えがあるからこそ、分かった。
「……もしもさ、不安になってしまったり、寂しいなって思った時は、遠慮せずに俺達に相談して欲しい」
「え?」
質問の意図が分からない、とでもいうように首を傾げる玲。
そんな彼の姿に苦笑してしまう。
「今はもしかしたら、分からないかもしれない。だけど、これだけは信じて欲しい。俺は君を召喚したばかりで、まだ仲間とも呼べないような間柄だ。それでも、俺は君と仲間になりたいと思ってるんだ。だから……まあ、これから宜しく」
先程の話に関してはピンと来ていなかったようだが、今度の話は分かったのだろう。嬉しそうに顔を綻ばせながら、叫ぶようにして喋る。
「おう! これからよろしくな! 兄ちゃん!」
玲は手を差し出す。
握手だ。
徹は玲の手を強く握る。
まだ、お互いを十分に分かり合えたとは思っていない。それでも、彼と親睦を深める事は出来ただろう。
話は変わり、今度は玲が持つ『スキル』へと変わる。
「しかし、玲君が持ってるスキルって、結構特徴的なものばかりだな。……いや、ある意味ではこうなるのが当然なのか?」
彼の持つスキルは『1on1』『具現化』『呼出:カードショップ』の3つ。
『1on1』は、スキル保有者と対象を別の空間へと飛ばすスキル。一度、玲に発動して貰ったが、飛ばされた場所は闘技場らしき様相の、白い空間だった。
両者は見合うような形で配置されており、中心にはゲーム盤が設置されている。ここでゲームを行い、勝敗がつくまで空間から解放される事はない。
行われるゲームは当然ながら、玲の遊んでいるゲームだった。
次に『具現化』。このスキルはゲームをプレイしている際に、連動して発生する。発生する条件は、自身が相手を攻撃する際。
カードに書かれているイラストが具現化し、それが相手を攻撃する。エフェクトは派手な反面、ダメージはそこまで高くない。
が出現するイラストによっては、ガチでヤバそうな物まで存在している為、総評としてはかなり有用なスキルかもしれない。
そして、最後のスキルは……。
「うん。これは明らかにヤバそうなスキルだから、絶対に使わない方が良い」
「えぇ!? 良いじゃん! 兄ちゃん! 俺、これを使ってみたいよ! だって、カードショップだぜ! カードショップ! 多分、見た事も聞いた事もないような、レアなカードが売られてる可能性が高いじゃん! ソレに俺! パックも欲しいし!」
「駄目だ! 止めろ! 少なくとも、こんな場所で使っちゃ駄目だ! 絶対、必ず、良くない事が起こる! 俺には分かるんだ。この、既視感。なにか、大変な事が起こる前触れなんだ!」
徹は必死になって説得するも、玲は全然納得してくれない。
仕方がない。
相手は子供だ。
難しい話や、注意や説教は自然と聞き流してしまうもの。
しかし、それでも徹は言わなければならない。
嫌な予感がするから。
「いいか? 絶対だ。絶対の、絶対の、絶対の、絶対にここでそのスキルを発動しちゃいけない。多分、ソレを発動したら大変な事が起こってしまう。だから、絶対に……」
瞬間、徹の視界を埋め尽くしたのは突如として出現したカードショップだった。
カードショップの出現によって、天井がぶち破られ、酒場の床が破壊される。砕け散る机や椅子達。
訳の分からない現象によって、取り乱す客。
陽気で騒がしい雰囲気から一転。
店内は、阿鼻叫喚の渦に巻き込まれてしまうのだった。
「こんのクソガキ! やりやがったなぁ!」
思わず徹は叫んだ。
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