第14話 黒いインク
「暗い! 怖い! 寂しい! 助けて!」
「只今ご主人様救出作戦を結構している最中なんですから、大人しくしてて下さい! ご主人様! 後、その中狭いんですから、怪我をしても知りませんよ!」
「さっき頭打った! とても痛い!」
不幸中の幸いだったのは、倉庫に避難させていたシス達を呼び出した際、パワードスーツの内部に現れるのではなく外側に現れた事だろう。
アイテムは座標を変更する事が可能だが、ユニットにはそれが無い。
現れるのは、先程まで居た場所だ。
4人全員がパワードスーツ内に現れてしまえば圧死してしまう恐れがあったが、無事パワードスーツの外に現れた。
メイドル、シス、サードの三人は武器を振るい、パワードスーツの破壊を試みる。
最近、新しく武器を手に入れた為、攻撃力が上がっている。
しかし、腐ってもパワードスーツというべきなのか防御力は凄まじく高い。
爆裂鉱石が爆発した際は、徹の命を十全に守り通したが、今度は強固な棺として徹達の前に立ち塞がる。
ガキン! ガキン! ゴキン! ガギン!
武器の刃は通るが、それも表面上。
徹が脱出する事が出来る隙間をあける事は難しい。
「お姉ちゃん。これ、難しいと思う。多分、ご主人様を助け出すにしても、かなり時間がかかっちゃうんじゃない?」
「一応、柔らかそうな部分がない訳でもないけど、壊した所でご主人様が抜け出す事は難しい。他の方法を試した方が良い」
「え!? もしかして手詰まり!? 俺、このままここで暮らさないといけないの!?」
嫌な予感を感じとった徹が、ガタンゴトンと微かにパワードスーツを揺らしつつ泣き言を上げる。
少し前までは凛々しく、かっこよかった筈だが、今では見る影も無い。
「安心して下さい。ご主人様。一応、第二案も考えています。……まあ、先程よりも危険にはなると思いますが」
「へ?」
シスの背後から現れるのは、白色の髪に赤色の瞳をした少女。私、頑張ります! と言わんばかりに張り切った表情を浮かべており、その手には一丁小銃が抱えられている。
SFチックな、未来的なデザインの小銃だ。
「あ、待って。何か嫌な予感がしてきた。待とう! 一旦、待とう! 安易に危険な方法に走らなくても、案外事態を解決する為の簡単な考えが思い浮かぶかもしれない! だから早まるな! 早まらないでくれぇぇぇぇ!」
パワードスーツ内にいる、という事もあってなのか、くぐもって聞こえる徹の叫び声。
ホムンクルスであり、イーナという名を付けられた少女は、小銃の引き金を引く。
大切な主を閉じ込めている、堅牢な棺を破壊する為に。
イーナを始めとする、シス達の活躍によって、無事に徹はパワードスーツから救出されたのだった。
「あー、マジで死ぬかと思った」
「そこら辺はちゃんと気をつけてますよ。何かあったとしても、ご主人様に当たってしまうなんて事はありません。実際、ご主人様は無事じゃないですか」
半目で此方を見つめつつ、呆れたように言うシス。
「お前らの事は信用しているけど、恐いものは恐いんだよ! とくに、スターラインなんて強力な武器の銃口をスーツ越しとはいえ、向けられたんだから」
パワードスーツを破壊する為に使用したのは、イーナが装備している光線銃スターラインVer2.4だ。
徹は知らなかったのだが、引き金を長押しすることによって、物を焼ききる事も可能らしい。実際は、引き金を引き続ける事によって絶え間なく光線が発射され続けているだけなのだが、開発者も想定していない使い方だったのは確かだ。
それを利用する事によって、パワードスーツの装甲を破壊した。
尚、内部にいる徹も巻き込まれる可能性は十二分にあった為、装甲の破壊にはかなりの時間を有した。
その甲斐もあって、徹は全くの無傷。
お礼を言い、イーナの頭を優しく撫でると、彼女は心の底から嬉しそうに顔を綻ばせる。
とても可愛い。
娘にしたい。
「それで、バカでかいワームの死体はあったか?」
「わーむ? それが何なのかは分かりませんが、残念ながらそれらしき死体は見つかっていません。恐らく、逃げたんだと思います」
パワードスーツから解放されて、改めて周囲をグルリと見回す。
爆裂鉱石は起爆した。
しかし、ワームが蓋となってある程度爆発の威力は落ちている。
「それでもこの惨状を生み出した。にも関わらず生き残っている、ってなるとあのワーム滅茶苦茶強いんじゃないのか?」
先程までとは似ても似つかない。
さながら災害が通り過ぎた後、とでも言わんばかりに瓦礫が巻き散らされ、壁や地面は抉られている。
見覚えのない巨大な穴が天井に形成されている辺り、ワームは上の階層に逃げたのだろう。脅威が消えて喜ぶ反面、迷宮から抜け出す為の障害になるのは確実である為、内心はとても複雑だ。
「よし。取り敢えず、念のために下の階層に避難しておこう。アイツは地面を食い荒らして進んで来るからぶっちゃけ意味はないが、少しでも距離は稼いでおきたい」
早速下の階層へと戻ろうとする一行。
その瞬間、異変が発生した。
「?」
ポタリ、と。
徹の頬に何かが付着した。
それは黒いインクの様ななにか。
粘着質で、ネバネバしている。
天井から染み出ていた。
「は?」
量は大量。次々と、地面に零れ落ちていく。
「ご主人様!? これは、一体!?」
「分からん! だけど、嫌な予感がする! というか、この状況で良い予感なんてしない!」
「うわっ! 気持ち悪い! あれ、何だか生き物みたい!」
「……え? とっても可愛いと思うんだけど」
「!?」
地面に落ちた黒いインク。
それは生き物のような姿を形作る。
尤も、見た目だけだ。
中身は生物とは根本的に違う。
だが、魔物と呼ぶに相応しい、冒涜的で悍ましい見た目。
全員が顔を顰める中、メイドルだけは見当違いな感想を口にする。
何なら、頬を淡い朱色に染めていた。
イーナから「え!? マジで!?」と言わんばかりの眼差しを向けられていた。
黒インクは際限なく、天井から落ちていく。
そして、魔物のような姿を形作る。
「逃げろ! 急いで逃げろ! クソっ、ようやく一息つけると思ったのに、今度はこれかよ! 俺、もしかしたら今日の運勢は最悪かもしれない!」
「安心して下さい。ご主人様。私達も当事者なんですから、私達全員の運勢が最悪なのかもしれませんよ」
「でも、ご主人様って毎日ガチャガチャの結果がよくないから、運勢は毎日悪かったりするかもしれないね」
「シャラップ! サードォォォォ!」
ガチャをこよなく愛する者にとって、その言葉は禁句だ。
今は逃走を優先させなければいけないが、サードのツーサイドアップに結ばれた髪を両側から思い切り引っ張りたいと思った。
(けど、どうしてこんな訳の分からない事が起こる? 考えられる原因としては、あのクソでかいワームが迷宮を闊歩しているから。或いは、爆裂鉱石が起爆したから?)
仮にそうだとすれば、迷宮は何故こんな物を出したのか?
どこぞの機械よろしく、警備システムが搭載されているのだろうか?
或いは、この迷宮は生きている?
生きているからこそ、自身を傷付ける脅威を排除しようと動き出した?
(……いや。発想の飛躍って奴だな。馬鹿馬鹿しい。今考えるべきはこうなってしまった原因ではなくて、これからどうするのか? って事だ)
頭を振って推理とも呼べない妄想を止める。
絶えず天井から黒インクが落ち、不気味な魔物を形成し始めている。
徹達は下の階層へと避難するのだった。
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