第5話 骨折り損のくたびれもうけ
新たな仲間が3人加わった。
しかし、現状の問題は何も解決していない。
スキル関連で気になる物は幾つもある。だが、それよりも優先すべきなのは、水と食料。
「確かにそうですね。後は、ご主人様の体も奇麗にしたい所です」
「体が汚い事は何も言わないでくれ! 俺が悪い事は分かってるが、死ぬぞ? 俺の精神は死ぬし、肉体的にも死ぬぞ! 主に、俺の自決によってな!」
「お、落ち着いてよ。ご主人様」
トラウマを刺激され、声が荒くなる徹。
サードは困惑しつつも、宥める。
「因みになのですが、ご主人様。ここら一帯の周囲に、水場などはありましたか?」
「水場? ……いや大量の魔物に追われていたから、そんなの気にしている暇は……いや、確か、あった気がする」
記憶を漁ってみれば、その様な場所があったかもしれない。
だが、周囲には魔物がいる。
おまけに水場までの距離はここから遠い。
危険だ。
「大丈夫ですよ。ご主人様。私達にお任せ下さい」
自信をもって、そう断言するシス。
メイドルとサードの2人も力強く頷く。
本来であれば、止めるべきなのかもしれない。だが、喉は渇いていた。空腹で体力が限界ではあるが、それと同じくらい水分を接種したい。
「分かった。お願いしても良いか?」
「はい。お任せ下さい!」
周囲を観察して、魔物の姿が無い事を確認。
忍び足で、4人は洞穴から出る。
水場までの道のりは、徹しか知らない。
その為、徹が3人を先導する形で水場まで進む。
「よし。……それじゃあ、早速目的地まで向かうぞ」
洞窟という事もあり、物陰になりそうな巨大な岩が幾つも存在している。身を隠しつつ、ゆっくりとではあるが水場に向かう。
しかし、早速躓いてしまう。
「あ」
まともな食事を取っていないせいで、上手く力が入らない徹。
地面の窪みに足を躓いてしまい、勢いよく倒れる。
「ご主人様!? 大丈夫ですか!?」
徹が倒れたのを見て、慌てて駆け寄るシス。
彼女も転ぶ。
何も無い場所で。
「グェェッ!」
2人が倒れてしまう。
その音を聞きつけ、物陰から顔を出したのは一体の魔物。
筋骨隆々の肉体に単眼。
以前、徹が大量の魔物に追いかけまわされる事になった元凶だ。
目が合う。
――不味い。
魔物は咆哮を上げようとする。
急いで止めなければいけない。
が、どうやって? 徹が持っている武器で使えそうな物は拳銃(コピー品)だけ。一度も撃った事はない。
狙いが外れてしまうかもしれない。
しかし、それでも……。
「私に任せて下さい。ご主人様」
立ち上がったシスは、魔物へと肉薄。
足払いを行う。
「!?」
予想外の攻撃。
ましてや、倒すのではなく、相手を転ばせる為の攻撃。
魔物は勢いよく転倒。
「サード!」
「分かってるよ! お姉ちゃん!」
立ち上がろうとする魔物。その顔面目掛けて――一体何処に隠し持っていたのか?――フライパンを叩きつける。
熱されていたのか、ジュッ! と肉が焼けるような音が、僅かに耳朶を打つ。
余り激痛に、立ち上がる事も忘れてその場で悶絶する魔物。
「それじゃあ最後は宜しくね!」
「うん。分かった」
顔を覆い、悶絶している魔物。
その口の中に、無理矢理棒らしき物をツッコむのはメイドル。
彼女は冷ややかな視線を向けたまま、小さく呟く「吹き荒れろ」と。瞬間、激しい風が発生。しかし、その全てが魔物の口内のみに向けられる。
暴れていた魔物は、数秒後にピクリと動かなくなった。
「倒した、のか?」
「はい。私達4人の勝利ですね!」
「いや、凄い。滅茶苦茶凄い……けど、2人が持ってたフライパンや、棒みたいな物は……あ、もしかしてスキルなのか?」
シス達3人は、それぞれスキルを3つ持っている。
1つは『ドジっ娘』と言う、ドジっ娘らしい失敗をしてしまうスキル。しかし、残りの2つは詳しく知らなかった。
「はい。ご明察です。ご主人様」
「私が持っているのはヒートクック。魔道具って呼ばれている品で、魔力を流す事によって底の部分が熱くなるんだよ」
ツーサイドアップに結んだ緑色の髪を揺らしつつ、自身が持つ道具を丁寧に説明してくれるサード。
「私が持っているのは、ウィンドワンド。これも魔道具で、魔力を流す事によって風を発生させる事が出来る。本来は、掃除などに使うけど、あんな使い方も出来る」
顎で、魔物の死体を指し示すメイドル。
魔物の死体を見たが、とてもグロテスクだった。
「今の戦いで、魔物達が来る……って事はないか。助かった」
「今度からはあのような事が起こらない様に、慎重に進みましょう」
「ああ。俺も気を付ける。因みにだけど、シス達の持っているスキル『ドジっ娘』って、如何にか出来たりしないのか?」
「無理だよ。常時発動型だから」
「マジでゴミスキルだな。『ドジっ娘』」
その後も、何度かヒヤッとした場面に遭遇しながらも、何とか水場に到着した。
どうやら徹の見間違いでは無かったらしい。
やや小さめの穴から水が流れ込み、溜まっている。
大量の水に思わず唾を飲んでしまう。
「待って下さい。ご主人様。水場を見つける事が出来たのは幸いですが、飲む事が出来るかどうかは分かりません」
「……確かにそうだけど、どうやって確かめるんだ?」
「ふふん。ご心配には及びません。私が持っているスキルの中に、何とこの水が飲む事が出来るのか、否かを判別する事が出来るんです!」
「え!? マジで!? もしもそれが本当なら早速……って、シスが持っているスキルの中にそんな物あったか? 確か水の珠を呼び出せる、みたいなのがあったけど、ソレを使って水を浄化させるとか?」
「いいえ。違います」
「違うんだ」
だとすれば、残っているのは『作成:カレーライス』のみだが、カレーライスの作成と飲み水の判別がどう関係するのだろうか?
全くもって分からない。
うんうんと頭を悩ませている徹をよそに、自身の両手を使って水を掬うシス。
彼女の掬っていた水が、突如としてカレーになった。
水なんて何処にも存在していませんでしたよ、と言わんばかりに。湯気を立て、食欲をそそられるカレーに。
「……どうして、カレーになったの?」
「先人曰く、このような言葉が存在しています。カレーは飲み物だ、と。つまり、飲み物=カレーに変換する事が出来るんです。だから、ここの水は飲んでも大丈夫です!」
「…………」
一体、どんな反応をすれば良いのか分からず、額に手をあて天井を仰ぐ徹。
(うん。まあ、水がちゃんと飲めるなら、別に良いかぁ)
色々とツッコみたい所は沢山あったが、徹はツッコむのを止めた。
無事に水場を見つける事は出来たが、水が必要になった時、いちいちここに赴くのは危険過ぎる。
「せめて何か、器になりそうな物があれば……あ。そう言えば」
ふと、思い出した。
器を呼び出してくれる道具の存在を。
「ご主人様。水を運ぶ為の器が見つかった事は喜ばしいのですが、どうして私達の頭上から振って来るんですか?」
未だに痛みが引かないのか、顔を顰めつつタライを持つシス。
その中には、汲んだ水が入っている。
「仕方がないだろ? この紐は、ランダムな相手の頭上にタライが振って来るんだ。……ランダムって所に悪意があり過ぎると思うが」
当然ながら、徹もタライを食らった。
しかも、2回も。
運が悪い。
彼も同じように、水を汲んだタライを持っている。
空腹で力が入らなかったが、シスがスキルで作ったカレーを食した事で、ある程度力は戻った。
「私としては、お姉ちゃんは一度も食らってない事に納得が行かない! これ、とっても痛いんだよ! 是非とも私達と同じ痛みを味わうべきだよ!」
口を尖らせて、文句を言うサード。
「私、痛いのは嫌いだから」
妹の抗議など知らぬ、とばかりの素振りを見せるメイドル。
しかし、ほんのお詫びとしてなのか、サードが運ぶ分のタライも請け負っている。水も溜まっている為、かなりの重量になると思われるが、表情は無のまま。
全くもって動じていない。
そんなこんなで、洞穴まで到着。
戦果は上々。
「あ、そう言えば今日の分を引いて無かったな」
アプリを開き、ログインボーナスのコインを1枚使ってガチャを引く。
まあ、今日もガラクタだろう。
・銭湯
全国チェーン展開されている、有名な銭湯施設。
湯船以外にも、様々な要素が充実しており、口コミの評価は高い。
休日は、よく家族連れのお客様が来店する。
あ、今日1日の成果が全て無駄になった。
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