第11話 再々々々実技試験のための復習

 私、セシアの部屋が魔法によって大部屋に魔改造されていました。私の部屋のほかに、二つの部屋が追加されているのが、扉の数で分かります。


 部屋の出入り口を開けてびっくりする私に「ああ。ゴートってば、気が利くじゃないか」なんてロロお義父さまが呑気に労っている。その言葉にゴートさんも不機嫌な表情を向けます。



「……っち。貴様の為なんかじゃない、反吐が出そうだっ!」


「はぁアア? 褒めたんですけどぉオ!?」



 人外並みの背丈がある男同士。今にも玄関先で悪態を吐き合いそうと察して、私も二人を室内に呼んだ。


 そこの大人げない二人は、端っこでお好きにどうぞという気分。



「ダ・カポネ三男先生と、あの精霊? の方はいつもああなのですか?」


「そうですね。どうぞ中へ入って下さい」


「セシア先輩も大概、大変なんだな。いつもああだってんなら」



 大変そうと同情されていますが、そこまで大変というわけではありません。微笑ましいと思って見ていますし、じゃれ合っているに過ぎませんから。


 二人の話を聞きながら、大部屋の中央に置かれている大きな丸い形をしたテーブルへ向かいました。


 四脚ある一人掛け用のソファー型椅子。天井にあるシャングリラ、テーブルを囲う棒みたいなフロアライトが全身を燈しています。


 真っ白だった壁紙も青と白の縦線と校章紋デザインに変わっていました。壁掛け時計は十九時前を報せます。


 窓の外は、まだ陽が出ていて明るいというのに。



(十九時。……あ! 私、ご飯を食べ損ねました。二人はどうなんでしょうか)



 ここで私も、今はそれどころじゃないでしょう、と顔を被り振って頬を叩きます。



「セシア先輩、どうかしまして?」


「なんでもないですよ。ほら、見て下さい。調合で使う為に用意もしてくれたみたいですね」



 妖精さんたちがもう一台の大きなテーブル上に大なり小なり、カテゴリー別に用意して置かれています。何から何までと、感謝しかありません。



「う、へぇ~~……まじあるぅ~~」



 テーブルに置かれていたものを目にしたハチロウさんが絶句しました。どうかしたのでしょうか? 


 私もテーブルの上を覗き込みます。名前はハチロウ・タチバナ。ララ・フォアゾンと書いてありました。



「二年生の教科書、……オレのノート……」


あたくしのノートも、……気のせいか、私のスーツケースもあるようですが、……まさか、連泊予定でして?」



 流石に私もそこまでしようとは思っていなかった。ゴートさんは二人を帰す気がないから持って来たんだ。


 大部屋にしたことにも理由があるのだろう。私も、二人に伺いを立てます。ひょっとしたら、学校後に何か特別な用事の予定があるかもしれませんし。



「嫌でなければ」


「連泊上等でしてよ! 私は期待に添いましてよ!」


「オレもさ! 調合技術を盗んで、四回目は受かってみせらぁ!」



 やる気の炎が燃え上がる二人に私も「はい!」と拳を握ります。そこにゴートさんとロロお義父さまが険悪な状態で着ました。



「ララさん。ハチロウさん。貴方方のために、二つの個室を作りました。各々、部屋を決めてスーツケースを置いて来て下さい。三秒で、……――はい!」



 ぱん! とゴートさんが手を鳴らします。二人は俊敏にスーツケースを持って選んだ部屋の中に置くと、戻って来ました。


 私も苦笑するしかありません。



「俺はセシアの部屋で作業をさせてもらう。お前らぁ~~サボるなよぉ~~じゃあな!」



 私の許可なく向かうロロお義父さま。もう諦めるしかありません。それよりも教える気はないのですか、そして、何故、私の部屋を使うのですか。


 

「あァ。私の部屋が……仕方ありませんね。全く、どうぞお使いくださいっ」



 手をひらひらさせて行く様子に「どうして、帰らないのかしら?」と思うところですが、現役教師です。


 分からないことが聞ける環境も必要ですし、ここはさせたいようにさせておくとしましょう。



「セシア先輩?」


「セシアっせんンん~~っぱい! おっぱじめようぜぇ!」


「貴様たちっ」



 全員がソファー椅子に腰をかけて準備万端です。ゴートさんは威圧があるので精霊の姿になってもらいました。


 それには二人からも安堵の息が出たことに『っち』と舌打ちされましたね。



「それでは、早速なのですが。二年生の教科書とやっていた勉強の範囲、あと、お二人のノートもお借りしてもいいでしょうか?」


「はいですわ!」


「もちろんだぜ!」



 二人からのノートと教科書を私も確認します。やっぱり、思った通り、一年生の復習までが範囲だった。


 私は一年生のときの教科書を出し、初心者向け調合の章を開きますが、二人からは見えないように隠します。



「では、一回から三回までの薬の調合を復習してみましょう」



 調合する道具も、妖精さんたちは校内から持ち出して来て用意してくれました。授業で使う割烹着と三角巾、マスクに手袋も着用します。



「では、火傷の薬を作りましょう!」


「はいですわ!」


「一回作って失敗したけど、分かってるんだ。楽勝じゃんンん!」



 シャングリラとフロアライトの淡い光が、陽の灯りが隠れ暗くなってしまった室内を照らしてくれます。


 無言になったゴートさんの反応に、少し、私も怖くなります。どこかに行ったのでしょうか?

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