第2話 セシアと妖精王の養子縁組

 十七歳になる寸前でいいは話が来たって思った! え? これはどっきりだとか、ただの奴隷で売ろうだとか、……ヤバい話なんかじゃないよね?



「子ども、ですか???」


「セシア、安心していいよ。ロロは奴隷商ではないからね」


「ぁ。はい」


「王になるまでの経緯は笑えないけど、彼は人間でありながら【妖精】になった側なんだ。その身でありながら、第三種族である精霊に属する妖精を束ね存在。妖精王だよ」


「はぁ。よくわからないのですが、きっと偉い人なんですね!」



 座ったまま私は妖精王さまを見上げた。私のいるテントの前、妖精王さまの姿に冒険者さんたちも興味深い様子で見てくれています。でも、見て欲しいのは私が調合した薬なんですけど……。


 このままでは商売も出来ません。二時間、暑い中トイレも我慢して座って頑張ったのに、無駄になるなんてあんまりだわ!



「人が多いのは苦手だ。ほら、その商品を片付けて帰るぞ」



 妖精さんたちからは妖精王と呼ばれ、ジルドレお姉さまからはロロさん? と呼ばれた人に、指先で片づけを急かされて私も困ってしまう。



「ぇ、っで、でも、まだ。売れてなくて……」


「セシア。こんな時間から売っても買い手は冷やかしか金無しくらいだよ。商売をしたいなら日中のした方がいい。君は傍目から見ても可愛い女の子だ。よかったよ、まだ何もされていなくてね」



 滋養強壮のおかげでジルドレお姉さまに多い金額をもらったけど、……もっと欲しいのは薬の効果情報だったのになぁ。


 ジルドレお姉さまからも注意されたし、孤児院に帰らなきゃいけない流れよね。でも、私の現状を説明したら一変するかな?


 

「私は孤児院に住んでて、今日は抜け出して来たんです。だから、日中の販売はむ――」


「はぁ? 俺の子どもになるんだぞ??? 日中好きなだけ、闇市で販売に行きゃあいいだろう。親の俺が許可すっから」



 ロロさんの言葉に「え? 闇市へ売りに行ってもいいんですか?」と小さく声が出た。同じようにジルドレお姉さまがロロさんに低い口調でいう。


 

「ロロ。父親になると言う男が無責任な軽い言動は止すんだ。そんなんだから、ゴートさんからむしょ――」


「おい! ゴートの奴の名前を出すな! 誰がなんと言おうが、俺ぁ、妖精王だ!」



 ゴートさんがどなかは知りませんが。ロロさんとは仲がよくないのかな。いや、今は、そんなことなんかよりも聞かなきゃいけないことがあるわ!



「どうして、私を?」


「ああ。狸の獣人の血筋が薄いとはいえ、精霊に祝福されている子どもだ。そういない稀な存在だから保護しろと、毎日、妖精たちに急かされてなぁ。最初は、俺も無視しようとは思ったんだが、流石にそ――」



 私は流石に「いつから、知っていたんですか? 産まれた日からですか?」と語尾に被せるように聞いた。ロロさんの目が泳いだ。



「ああ、産まれた日から知っていたのに、今日まで私を見て見ないふりしていたんですね?」



 妖精さんたちは毎日、私の成長を教えてくれていたんだ。


 こんな薄情な人に毎日、ずっと十六年間! 信じられない! 抑えるんだ、私! きちんと答えを聞くのよ! 文句はその後でいいんだから!



「……いまさら、なんで私を養子にしようと?」


「まぁ。そういいたくなる気持ちは分かるね。きちんと答えてあげるんだよ、ロロ」


「うっせぇよ、ジルドレぇ~~あぁ~~……っち!」



 店の前で立ったままだったロロさんが、私の言葉に頭を掻いてゆっくりとした動作で膝を折ってしゃがみ込み、私の顔を真っ直ぐに見つめてきた。



「な、なんですかっ!?」


「俺にはっ! 恋愛経験も結婚経験ない!」


「なんて残念でとんでもなく最低な告白があったもんなんだね。妖精王」



 顔は百面相になっていて、赤く青く、色が感情に大きく動いているのが分かる。



「……だから! 家庭や子どもの教育なんかもどうしたらいいかわからないしッ、……きちんとお前に路を射せるかもわかなくて不安が先立っちまったんだよ! わかってくれなんざ、この際、言わない! 俺は独身で接し方がわからない上に人見知りなんだ!」



 正直な人だなと、私の中で下がっていた好感度が一気に上がった。私が同じ立場であれば、現状維持で見守ろうってなると思う。選択肢なんか誰でも同じだ。



「だが! お前が成人を迎えて今後の生活に困っているって知って腹も括った! 全部、これから一緒に乗り越えるって覚悟でお前を迎えに来た!」



 手を伸ばしたロロさんの顔は不敵な笑みを浮かべていた。ぎこちない笑顔も、いつか、とても優しい笑顔に見慣れるわ。顔の知らない両親よりも愛せる!



「俺の子どもにならないか!」



 私も不器用だけど、この人も数十倍、不器用で、同じくらい臆病なんだ!



「はい! なります!」



 両手で私はロロさんの手を繋いだ。



「よりにもよって……こんな奴の子どもに、セシアがなるなんてな」

 

「おいおい。場の空気を読んだらどうなんだ? ジルドレ坊ちゃん。お前なんかにセシアはやらんからな! くっふふふ!」


「……セシア。考えなおした方がいいんじゃないのか? 親は大事だぞ、親は……」


 

 言い合い二人と一緒に私は、闇市から抜け出した孤児院に帰ってベッドに入る。


 一睡も出来ないまま、朝一でロロさんが孤児院に私を引き取りに来て、書類に署名をしたことで晴れて私は【セシア=ダ・カポネ】になって孤児院を後にした。


 こうして私は、別宅と呼ばれる大きな樹の屋敷で薬を調合する新生活が始まったのです!

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