我が社は、"配慮"します

アメノヒセカイ

プロローグ

第1話 『イマジエッセン』

君の間違い 私が正すの

許されないなら 私もゆくの

私の想い 全部話して

消える私を 抱き留めてほしい


―――


 私、白樺しらかば芽亜めあは、大学院の修士課程を終えて、『想像食カンパニー・イマジエッセン』の研究職に就いた。『イマジエッセン』は特殊な技術で食を豊かにすることを掲げており、一番の商品は培養肉および培養野菜、培養果肉である。肉であれば動物を殺さずに採集した細胞から好きな部位の肉を生産することができ、野菜・果肉であれば細胞単位でコントロールすることで、栄養価や味、食感の制御が自在にできる。


 研究室時代に、私は安全性の高い食品の開発を研究していた。

 そこで、『イマジエッセン』との共同研究を行っていて、一定の成果が出た。よって、スカウトに近い形で入社した。私が所属する研究部門はほとんどが他の企業からスカウトされた方や、社内で優秀な成績を修め厳しい審査を経て配属された方で、若くても三十代半ばの社員が多く、二十代は長い間私だけだった。


 それが……。


 私がオフィスでデータをまとめていると、黒いサングラスをしたアロハシャツの男が来た。肌が焼けていて野生児溢れた雰囲気になっている。髪が銀色なのは、海水や直射日光で色素が少し抜け、いっそのこと染めることにしたからだ。


「芽亜ちゃん、疲れている? 休みをもらったら?」

「そろそろ部長に、研究の中間発表を行うので、少しでも良いものにしたいです」


 彼は、布施ふせ京生きょうせい。私の部署に最近入ってきた方で、社長の御曹司である。サーフィンや釣りが好きで、今日まで休みを取っていたはずだが、暇になって出社したのだろう。御曹司様は自由である。いい人だけど。

 京生さんは私の顔を覗き込むように見る。顔がすぐ近くまで迫って、異性との、特に年の近い男性との接触が少ない私はドキドキしてしまう。


「今日は残業?」

「はい」

「よし、僕も待っているから、夕食はいいもの食べよう。奢るから。御曹司は金持ちだからな、美味しいものを奢るよ。目にクマができているし、ちゃんと食事をしているように見えない」


 そのとき、オフィスにいた先輩方が振り向く。


「ええ、私も奢ってもらっていい? お寿司とか食べたいかな」

「なら僕も行きたいです」

「私も」「僕も」「私も」……


 次々と手を挙げていく。京生さんを見ると、京生さんは手で払うようなジェスチャーをする。


「僕はまだ配属されたばかりで部下だぞ、若手だぞ。奢ってもらうやつがいるか?」


 仕事が終わるまで京生さんは手が空いている社員を見つけて、お土産話を披露している。話を聞いている社員は面倒そうだけど、次期社長である御曹司を無視するわけにはいかない。立場上は上司でも、社長になる男の方が当然偉い。


 京生さんが権力を振りかざすような人ではないと、私も周囲も分かっている。


 私は京生さんなら、社長になっても『イマジエッセン』の未来は明るいと思っていた。親近感があって、周囲に好かれていて、普段はチャラいけど社員想いのいい人だから。

 それが、あんなことになるなんて。





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