第2話:羅

 昔、うちの婆さんが畑で昼寝をしていたときのこと。


 爺さんがタバコを買って戻ってきたと思い、驚かしてやろうと、頭上をのそのそと歩く足音が聞こえた。


 婆さんのいたのは段々畑の下。


 婆さんは驚かせてやろうとじっと様子をうかがい、絶妙な間合いで突如――


「――あいや~!」


 と声を張り上げた。


 だがそこにいたのは、爺さんではなかった。


 体中に草木をまとい、猿のような顔をした、眼の異様に大きな生き物だった。


 それは腰を抜かしたかのように尻もちをつき、次の瞬間、反対側の池へドボンと落ちた。


 水しぶきを上げるや否や、「あぎゃー!」と奇声を張り上げ、水面を駆けるように走り、森の奥へと消えていったという。


 その後、村でその姿を見た者はいない。


 ただ町の古老たちは言った。


「あれは“羅(ら)”という生き物だ。」


 それ以上のことは誰も語らず、名以外の由来も伝わらなかった。

「知る必要はない」とだけ言い残して――。

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