大好きだった君たちへ

久瀬珊瑚

1日目

「それにしてもみんないつのまにかいなくなるよな」好きなアーティストが言っていた。

それにしても、みんながいなくなった世界はどれほど寂しくて、無意味で、怖くて、そして透き通る綺麗さをもっているんだろう。

死ぬほど好きだったあの子のことも、こんなにどうでも良くなってしまうのか。こんなに嫌悪感を抱いてしまうのか。

そんな時、ふと、死にたくなってしまうのか。


ものを書く人になりたかった。ものを作る人になりたかった。けれどそういう才能は一つもなかった。

親からは比較的愛情を注いでもらったが、まあ不満も多い17年であった。

その不満が多いこと自体に、また苛立つ。

人を好きになれないのか、否そんなことは全くの見当違いである。今まで散々惚れっぽい性格のせいで苦労してきたではないか。

保育園では幼馴染の男の子が好きだったし、小学校では学校一人気の大人っぽい子が好きだった。

中学生、中学校、一番記憶に新しく、思い出深いのはあの子だろうか。

「死ぬほど好きだった」は比喩表現か。無論、比喩表現ではあるが死んでもいいと思わなかったと言えばそれは嘘になる。

中学、高校と引き継いで、4年間恋をした。その間、嫌いになったり忘れたりもしたのだが、結局付き合うことになってしまったのだ。

「なってしまった」というマイナス向きの表現を使ってしまう自分をみて、ふと悲しくなる。

今日はその子の話をしよう。君とまた、話をしよう。


その前に少し話したいことがある。いつのまにかみんながいなくなるというのは本当にその通りであると、改めて思う。

小学校の時、泣いている私を変顔で笑わせてくれた子がいた。

あの時あの子はどんな顔をしていたっけ。校庭の砂が靴の隙間に入り、乾いた夏の匂いがした。その時の匂いと笑いは今でもまだ胸の中に残っている。

グレにグレてサイズ違いのジーンズを腰で履いている。人のことを嘲り、高笑いしている。あの時のあの子はもういない。

あの時大の仲良しだったあの子とはもう一つも口を聞いていない。あんなに笑い合ったのに。

冬のツンとした空気を感じる。雪だるまをいっしょに作ったんだっけか。あの日々は今では無かったも同然である。こんな風に、こんなに悲しく、みんなも、あの時の匂いも空気もいなくなるのだろうか。


君のことを考えるとこんな考えが浮かんでくる。君のことが大好きな私はもういない。私が好きだった君はもういない。

なんで嫌いになってしまったんだろう。

なんで君を知れば知るほど嫌いになってしまうんだろう。


君の無邪気さが好きだった。どうしようもなく子供っぽいところが。
それでいて、ふと見せる影のような部分が。

それなのに今では、その無邪気さにうす暗い嫌悪を覚える。


ドリンクバーのジュースを混ぜて、子供のように笑っていた君。
昔の私だったら愛おしく思えただろうか。と自嘲的に思う。

胸の奥がかすかにざわつく。涙になりそうで、でもならない。視界の端で光が揺れる。

中学のころ、なんでもないメッセージに胸を高鳴らせていた。
今はもう、返信すら億劫で、無視してしまうこともある。
君の言葉も、少しずつそっけなくなっていく。
二人の距離は、目に見えぬほど静かに、けれど確かに遠のいている。


別れたいと思う。
けれどその一言がどうしても口から出ない。
君を失うことが怖いのではない。
君を好きだった私を、もう守れなくなるのが怖いのだ。

あのときの胸の高鳴りを、私はまだどこかで握りしめている。
それを手放したら、私という人間が少しずつ削れていく気がして。

あの時の匂いがする。カーテンが揺れる。外からか、と少し落胆する。
忘れてしまった私になりたくない。

だから私は、今日も君の隣で笑う。

君のコーラに光が差して、気泡がきらめく。透明で、どうしようもなく綺麗だったりする。
笑いながら、ゆっくりと冷めていく自分を感じている。目の前のコーヒーも冷めていく。

コーヒーも思い出も冷めると不味くなる。

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