第4話 行き当たりばったり
「いたぞ!こいつが公爵令嬢を連れ去った無法者だ!」
冒険者ギルドの扉が乱暴に開かれ、数人の男たちがなだれ込んできた。
先ほど門前で逃げた偽兵士が先頭に立ち、俺を指差しながら叫ぶ。
ギルド内がざわめき、冒険者たちの視線が一斉に俺へと注がれた。
「なに?令嬢誘拐だと?」
「新入り犯罪者かよ」
「やっぱり田舎者は信用ならねぇな」
ざわざわとした空気が広がる。
俺は冒険者カードを握りしめ、にやりと笑った。
「冒険者になれば退屈しないとは思っていたが……なったばかりで、もう
エリシアが青ざめ、カレンが剣に手をかける。
だがカレンはすぐに冷静さを取り戻し、低く
「落ち着いてください。ここで暴れれば、本当に“無法者”にされます」
「なるほどな。じゃあどうする?」
俺が肩を竦めると、カレンは苦々しい顔をした。
「……普通は、証人を立てて潔白を証明するのです。ですが、あなたは村を追放された身。信用できる後ろ盾など無いでしょう」
「おいおい、そんなに俺って信用されないのか?」
「当然です」
即答だった。だが、その声音にはわずかな苛立ちと、
ほんの少しの期待が混じっていた。
――この男なら、どうにかしてしまうのではないか。
そんな予感を、カレン自身が否定しきれていないのだ。
「ギルドマスターを呼べ!」
偽兵士が怒鳴ると、奥の扉から大柄な男が現れた。
白髪混じりの髭を蓄え、片目に眼帯をした歴戦の戦士――
この街のギルドマスターだ。
「なんの騒ぎだ」
「この男が公爵令嬢を連れ去ろうとしているのを我々が阻止しに来ました!」
「……ほう?」
ギルドマスターの視線が俺に向けられる。
その眼光は鋭く、まるで心の奥底まで見透かすようだった。
俺は笑顔を崩さず、堂々と答えた。
「違うね。俺はこの嬢ちゃんたちを盗賊から助けただけだ。証人なら、ここにいる」
そう言ってエリシアを示すと、彼女は一歩前に出た。
震える声ながらも、はっきりと告げる。
「彼は私を助けてくれました。誘拐など、決してしていません!」
「お嬢様……!」 カレンが思わず声を上げる。
その表情には驚きと誇らしさが入り混じっていた。
(この方は、やはり真っ直ぐすぎる。だが、その貴族らしからぬ真っ直ぐさが心を動かすのだ。)
「証言は得た。だが……」
ギルドマスターは腕を組み、偽兵士たちを睨んだ。
「お前たち、本当に公爵家の兵か?」
「も、もちろんです!」
「ならば証を見せろ。紋章入りの通行証でも、任命状でもいい」
「そ、それは……おい持ってきているか……」
偽兵士たちは顔を見合わせ言葉に詰まる。
ギルド内に失笑が広がった。
冒険者たちも、次第に俺から視線を外し、偽兵士たちを疑い始める。
俺は剣の柄に手をかけ、にやりと笑った。
「さて、ここからは俺の得意分野だ」
「待ちなさい!」 カレンが慌てて制止する。
「ここはギルドです!勝手に斬り捨てれば、あなたが処罰されます!」
「え?そうなの?じゃあ、どうすりゃいい?」
「……決闘です」 カレンは苦々しく答えた。
「ギルド規約に則り、潔白を証明するための決闘を申し込むのです」
「なるほど!そっちのが面白いかもな!」
俺は高らかに笑い、偽兵士たちに向き直った。
「おい、俺と勝負しろ。勝った方が正しいってことでいいだろ?」
「くっ……!」
偽兵士たちの顔が引きつる。
だが、ここで逃げれば自分たちの嘘が確定する。
彼らは渋々頷いた。
「いいだろう……受けて立つ!」
ギルドの裏庭に人々が集まり、即席の決闘場が設けられた。
冒険者たちが野次を飛ばし、酒を片手に見物している。
ふむふむ……なにやら晩飯を賭ける声まで聞こえるな。
エリシアは不安げに手を握りしめ、カレンは深いため息をついた。
「……本当に、あなたという人は。行き当たりばったりなのに何とかしてしまう」
「褒め言葉として受け取っとくよ」
俺は笑いながら剣を抜いた。
偽兵士たちが武器を構え、緊張が走る。
ギルドマスターが高らかに宣言する。
「決闘――始め!」
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