56
「うぅ……ううぅ……」
穴底の蛇を残らず斬り捨て、三メートル近い壁面をよじ登り、
そのまま彼女は
見たところ大した怪我はしていないけれど、妙に表情が
「も……申し訳ありませぬ、ジャック殿……とんだ不覚を……」
そう言って広げた手の中には、少々の土くれと、綺麗に切断された蛇の頭。
次いで力なく着物の
「毒を受けてしまったでござる……」
「……シロマダラの
「このままでは、ジャック殿に拾われた命の恩も返せず、
「聞けよ人の話」
全てが全てというワケではないが、基本的に毒蛇は大きく発達した二本の牙から毒を注入するため、そこだけ傷口が大きく、また出血も激しくなる傾向が強い。
ゆえに
「うぅ……どうか毒を吸い出して欲しいでござる……」
「だから毒蛇じゃねぇって」
「絶対に毒でござる……目が
こうした現象を、医学用語でノセボ効果と呼ぶ。
思い込みによる体調の悪化。つまるところプラシーボ効果の逆。
まさしく
「よくもやってくれたでござるなー!」
ぷんすか、という擬音がピッタリな様相で
「死ぬかと思ったでござる! 死ぬかと思ったでござる! なんならジャック殿が毒を吸い出して下さらなければ死んでたでござる!」
一方、彼女の
適当に口をつけて毒抜きの仕草だけなぞったに過ぎないのだが、カザマの素直な性格を差し引いても、思い込みの力とは恐ろしい限りである。
「ジャック殿の
後ろ腰の二刀を引き抜き、
実はジャックと同い年だが、フレアエルド戦記シリーズは各キャラクターの正確な年齢を公開していないため、彼はその事実を知らない。
閑話休題。
「仕込みが!」
生い茂る
「あると!」
足首に絡みかけたロープを断ち切り、転倒を回避。
「分かっていれば!」
「
それら全てを、カザマは
「…………」
そんなカザマの後ろ姿を、ジャックはどこか硬い眼差しで見つめていた。
より正しくは、彼女が振り回す二本の刀を。
「……丸太も岩も簡単に真っ二つ、か」
もちろん、扱う当人の技量もあってこその斬れ味。
しかし、やはり最たる要因は、刀を形作る素材。
「流石はオリハルコン製」
専用の薬剤を特殊な工程で使用しなければ、絶対に加工不可能な耐性。
ミスリルすら
ヒヒイロカネ。
アダマンタイト。
地方や時代によって様々な呼び名を与えられてきた、
その一端をカザマの二刀が示すたび、ジャックは思う。
──滅ぼされるのも無理はない、と。
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