6


「──ふっ!」


 布が巻かれた木剣を振り下ろし、そのまま押し切ろうとするジャック。

 けれど数秒の拮抗きっこうて逆に押し返され、後ろにたたらを踏む。


「ほいっと」

「った……!」


 バランスが崩れたところを軽く突かれ、盛大に尻もち。

 立ち上がろうとした瞬間、ジャックの鼻先に木剣を添えた自警団員が、豪放ごうほうに笑った。


「はっはっは! まだまだだな坊主!」






 いずれ役に立つと踏み、ジャックが自警団の訓練風景を眺めるようになって、はや数ヶ月。

 お前も参加してみるか、とすっかり顔なじみになった団員に誘われ、共に木剣を振るようになったのは、つい最近の話。


「おいおい、ガキ相手だぞ! もっと手加減してやれよ!」

「大丈夫かー? ったく、無茶しやがるんだからよー」


 最初は戦災孤児オルフェンが纏わり付いてくることに難色を示す者も居たが、そんなうとみもすぐ消えた。

 きっと、ジャックがあまりにも真剣に技を学ぼうとしていたからだろう。


「今の一撃、踏み込みも柄の握りも悪くなかったが、体格差を考えねぇとな。押し合いじゃどうやったってガタイの良い方が勝つんだからよ」

「……分かった」


 素直に頷き、呼吸を落ち着け、立ち上がるジャック。

 そして再び木剣を構え、相手の男を真っ直ぐ見据えた。


「もう一回、頼む」

「よーし、バンバン来い!」






 身体のあちこちに点在する閉じたバルブを開き、せき止められた水流を開放し、全身に循環させるイメージ。

 ぐるぐるとジャックの内側で形のないものが巡り始め、徐々に速度を増していく。


「ふうぅ……」


 試行錯誤の末に辿り着いた、魔力を励起れいきさせるためのイマジネーション。

 要した期間は約半年。早くはないが、遅くもない。


「ここから……!」


 励起れいきした魔力を人差し指に集めるべく、目の前に手をかざす。

 三度失敗し、四度目で指先が淡く光り始めた。


「ッッ」


 明滅する光に全神経を注ぎ、まばたきすら忘れて睨み付けるジャック。

 少しでも目を離せば、あっさり弾け飛んでしまう確信があった。


 頃合を見て、指先に集めた魔力の出力をはかる。

 単なるエネルギーに過ぎない魔力を火へと転換するべく、その光景を頭に強く思い描いた。


「…………っく……」


 だがしかし、僅かなりきみにさまたげられ、光の粒となって霧散する魔力。

 一気に脱力したジャックは、薄汚れたの壁に背を預け、ずるずると床に腰を落としながら溜息を吐く。


「まだ……無理か……」


 本編開始まで、あと四年半。

 いたところで結果がともなうワケではないと己を宥め、据わりの悪い焦燥感を胸底に沈める。


「…………あ」


 そのままぼんやり天井を眺めるうち、ふとあることに気付くジャック。

 指を折りつつ日付を数え、至極どうでもよさそうに呟いた。


「今日、誕生日か」





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