悲劇だった童話も泡に

 一生、ペットとかは飼いたくないな。そう思いながら、指先で人魚をつつく。

 波打ち際で死んだように倒れているけれど、エラらしきものが動いているから生きているのだろう。生きている人魚は初めて見た。

 嘘だ。そもそも人魚を初めて見た。そんなものいるんだ。こわ。世の中って不思議と不条理で満ちてるな。もう少し整合性を持っていてほしい。


 人魚は目を開かない。重力に負けて、浮力を失い、倒れている。まあ、ペット以前に人魚を飼うことはできないだろう。なにせ、家にプールなんてない。

 だから、ずりずりと腕を引いて海の中へと引き摺っていく。足が濡れる。靴は脱いでおいたから、砂浜を歩く感触が少しくすぐったい。人魚は軽く、海の中に放り込むのは簡単だった。


 水底に沈んだ音の後、沈黙が流れる。人魚は浮かばない。けれど、海の中にも姿は見えない。溶けて消えたのか、幻覚なのかはわからないけれど。

 人魚を飼えるような人間が見つけなくてよかったんだろうな。なんて。ぽつりと──ばしゃん。


 波もないのに水をかけられて、頭から濡れる。視界が塩水で滲む。


 それでも、人魚は見えない。笑い声だけが響いて、溶けて、消えた。

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