38.決着

晴に吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。

痛みは幻だ。

そしてこの壁は鉄板ではなくゴムだ。

そう想像して壁に反射され晴の元に飛び込んでいく。

晴は鉄板をひっくり返し僕の突撃を防ごうとする。

ぶつかればダメージは防げない瞬時に身を捩りそこからさらに自分を霧状に変え避けきれない壁をなんとかいなす。

「キリがないな。」

気づくと僕は息を切らしている。

汗もどっと吹き出る。

一つ一つが致命傷で精神をどんどんすり減らしていたようだ。

晴は落ち着きを取り戻しつつあるが顔にはまだ怒りが現れている。

「キリならあるさ。お前は消耗している。俺はまだまだ余力がある。さっきから死にかけているのはお前だけだ。能力の使い方に無駄がありすぎる。」

講釈を垂れながら僕に向かって鉄板を空飛ぶ絨毯のように飛ばしてくる。

「確かにこの空間では時間がかかるな。お前にいいことを経験させてやろう。」

そう言って鉄板を飛ばしてくる。

それを避け続けていると不意にバランスを崩す。

足元がなくなって落とし穴に落ちたかのような感覚に陥る。

「ワープだ。戦場を変えよう。」


ワープ?

足元がなくなったと思うと空から落ちている。

このままでは頭から落ちて脳漿をぶちまける結果になる。

幸い地面はアスファルトだ。

液状にして僕の元まで伸ばしていく急に落下を止めれば怪我は免れない。

少しずつアスファルトが壊れやすいように繋ぎ続け勢いを殺す。

ようやく地面にたどり着く。

勢いは消しきれなかったが打撲程度で済んだ。

空を飛べれば良かったがと考えふと上を見る。

ちくしょう、あいつは飛べるのか。

晴の顔は遠くてどんな顔なのかはわからないがおそらくニヤついていることだろう。

やつは両手を広げると地響きが起こり出す。

周囲を見渡すと高層ビルが音を立て煙を放ちまるで地面の中から収穫された野菜のようにビルが宙を浮いて晴の後ろに円状に回っている。

太陽と重なりその姿はさながら後光が差しているのを模した仏像のようだ。


「聞こえているだろう?俺とお前の力の差は歴然だ。お前の得意技はアスファルトに煙、できて形状変化だ。じゃあ、俺は何ができるか?この光景を見てもあらゆる可能性が浮かんで絞りきれないかもしれないな。」

晴の口調がどんどん楽しそうになる。

「俺の能力は重力だ。時空を歪めることでワープホールも作れるようになった。俺はこの能力で世界への接点が必要なくなった。よかったなぁ。もしかしたら経験したお前も世界に接点は必要なくなるかもしれないぞ?どこの扉からでも家に帰れる。まあ、そんな日はもう来ないがな。」

そう言って勝ちを確信しているかのように得意げに続ける。

「それ以外にもどんなに重いものでも軽くできるしこんなビルでも重力を逆にすればこうやって宙に浮かすこともできる。授業は終わりだ。今から俺が何するか。想像は難しくないよな?」

そう言ってビルは回転をやめた瞬間僕の方に向く。

「さぁ、地球産の、ああドリームランドだったな。ドリームランド産の隕石をとくと味わえ。」

そう言うとロケットのように一斉に何棟ものビルが僕に向かって飛んでくる。

逃げ場はない。

ビルが飛んだ衝撃で起こっている煙を使って状況を見ながら策を練る。

ビルといっても大概がコンクリートのはずだ距離はまだあるが液状にして少しでも被害を減らそうと試みるがアスファルトが禿げて見えるのは更なる絶望だ。

鉄筋、鉄骨、ガラスやその他もろもろ。

アスファルトに対処しても脅威は去らない。

自分の周囲をできる限りのアスファルトで固めつつ地面のアスファルトを総動員でビルに向け飛ばしていく。

ビルのアスファルトは逆に下に手を伸ばすようにして地面のアスファルトと繋ぐ。

しかし重力に勝てず繋げては折れるを繰り返す。

さっきの僕のように勢いをころせている感じはしない。

地面に潜れるほどの深さがあればと思い沈もうとするがせいぜい膝下が埋まれるくらいだ。

前回着地した時はもっと深かったのにここは随分薄いようだ。

何もうまくいかない。

アスファルト同士を繋いで止めることは諦める。

代わりに何層もアスファルトを重ねていき僕の周囲と頭上を守る。

これでも無傷では済まない。死ぬ可能性の方が高い。

時間がない。

寝そべって埋まろうと考えた頃には近くで一部の鉄骨が落ちていた。

次の瞬間ものすごい振動とアスファルトを通じて衝撃を感じる。

砕けるアスファルトを再結合させているがまるで杭とハンマーのように先にぶつかった鉄を後から来た鉄が僕に向けて打ち込んでくる。

幸いなことに僕1人に対して直接ぶつけられたのはビル一棟だけだったらしい。

その上ぶつかったのは鉄骨や鉄筋だけだ。

ビルのほんの一部を相手するだけで済んだ。

思わず安堵からため息が漏れる。


しかし安心したのも束の間だった。

突如僕の感知に引っかかるものが現れる。

真後ろからの奇襲に一瞬気づくのが遅れ、何かに腹を貫かれる。

痛みを感じる前に蹴り飛ばされる。

腹を見ると鉄筋に使われた棒が突き刺さっている。

痛い、熱い。

目の前には晴がいていつものニヤケ顔ではなく涙を堪えているような顔している。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る