34.頼りがないのは

連絡を待ち続けていたがどうにも音沙汰がない。

もしかしたらドリームランドとこちらでは繋がらないのかもしれない。

思い切って登録されている唯一の番号にかけてみる。

長い呼び出し音は鳴るが一向に出ない。

不安はだんだん募ってくる。

この間にももしかするとドリームランドは晴に蹂躙されているかもしれない。


不安を隠しきれずイライラする僕をみてリックは心配そうにしている。

いっそこっちから先にドリームランドに向かうか?

だが、だいぶ回復したと言っても完全ではない。

ここに来て時間にすると10時間経ってないくらいだ。

向こうはもうお昼頃だろうか。

我慢しきれず扉に向かおうとしたところを呼び止められる。

「連絡は…まだなんだろ?」

「ああ、だけど元から繋がらない可能性もある。気づかないうちにドリームランドは崩壊してる可能性だってある。一度見に行くから待ってろ。」

そう言うとリックはメガネを直し近づいてくる。

「外に出なくても状況を見ることはできないの?今はゴラムさんとも知り合いなんだし少しなら感知しても誤魔化してくれるかも。」

リックに冷静でない状況を指摘されるのは癪だが一理ある。

テレビでも出して向こうの世界を監視カメラのように見ようと思ったがつまらないと思い殺風景な部屋全体にドリームランドの状況を写す。

突然外に放り出されたとでも思ったのかリックは大慌てで僕に言葉にならない言葉をわめきつづけている。

その様子がおかしくて笑いながら

「安心しろよ。向こうの学校近辺の状況をこの世界に投影しただけだ。ほら、お前もよく知ってる学校だよ。ここの机に齧り付くように勉強してたろ?美味しいのか?」

そう言って小馬鹿にしてやるとズレたメガネのまま苦笑いして

「ま、まあ、ドリームランドでは机もいろんな味にできるからね。」

メガネをクイっと元に戻し冗談を言って強がるリックがさらにおかしい。


リックのことは置いといて周囲を見渡す。

特に異常はない。

それどころか炭になった人間たちも片付けられて綺麗になっている。

あくまでいつも通りを装い続けるドリームランドを見るとなんだか虚しくなる。

場所を変えて今度はセンター街を写す。

突然目の前に現れた車に驚き素っ頓狂な声をあげ尻餅をついてしまう。

その様子を見てリックがニヤニヤしてるのが見える。

こいつの顔は人をイライラさせる成分でも出してるんじゃないかと思うくらい殴りたくなる。

結局殴るふりをしてリックは一瞬びっくりしながらも本気じゃないと気づくとヘラヘラしだす。


センター街も何も問題ない。

透き通るような綺麗な青空だ。

このままここでゆっくりとでもしておきたい気持ちになるが日差しは暑くないし風も吹かない、そして人も車もすり抜け僕らには気づかないのに気づいてそんな気持ちもすぐ失せる。

ドリームランドは問題ないように見えるがこれは向こうの世界を写しているわけではなく僕の想像でしかない可能性もある。

そんな心配もあるがリックとのやり取りで少し気が抜けてしまい、まあ大丈夫だろうと思ってしまう。


いくら気を揉んでいても無意味なことに気づく。

晴にとってデイブは目障りであり、僕を苦しませるための道具に過ぎなかったはずだ。

そんな奴が死んだところで焦ったり感傷的になって襲いにくるはずがなかった。

やつはもっと僕に対して効果的な策を講じてからくるはずだ。

なら、僕も完全に回復させてどのような手段を講じてきても対応できるようにしないといけない。

僕らの戦いには精神が大事だ。

もう一眠りしよう。


うとうとしかけてきた時にスマートフォンが鳴る。

すぐに眠気が飛び電話を取る。

「遅いぞ、ゴラム。こっちからもかけただろう。」

「遅い?別れてから4、5時間やそこらだぞ?それに君からの電話はドリーマーとして仕事をしていて出れなかった。それについては申し訳ない。」

4、5時間?体感では倍以上は経っているはずだ。

よっぽど精神が急いていたようだ。

「そうか、それは悪かった。こっちとしても気が気でなかったんだよ。電話がやっぱり通じないんじゃないかとかとっくに晴の進行は起こっていてもう滅んでいるんじゃないかとか。」

ゴラムの口調は優しくなる。

「それはご心配いただきありがとう。だがいまだ影も形もない。まあ、感知できないだけの可能性もあるが、だが感知できない者たちでも何か痕跡は残すと思うんだが…話してみると君たちのような能力者はそれすらも消すことができるのかな?」

「わからない、と言うのが答えだけど…。やろうと思えば出来る…かもしれない。」

ゴラムは難しそうな顔をしているのだろう。

電話越しでもその顔を想像できるくらいの唸り声を上げている。

「私は本当に無力だな。私の専売特許すら活かせないとは…。情けないな。申し訳ない。」

「気にしなくていいよ。まあ、少し期待していたけど…。あんたにも他にできることはある。何か作戦を立てよう。」

ゴラムは気を取り直し前向きに考えることにしたようだ。

2人でできる限りの対策を立てることにする。

しかしゴラムはドリーマーの仕事もあるので長時間は話せないらしい。

もっとも、どこに現れるかもわからないし何をしてくるかもわからない以上立てれる作戦はない。

結局のところドリームイーターの大侵攻の可能性があることにして住民全員をドリーマーの領域に避難させることに決まった。


「うん、我々にできることとしたらこんなことしかないな。他にもできることがあればいいんだが…。何か要望はあるか?」

ゴラムは申し訳なさそうに、しかし何か覚悟を決めたように話している。

「そうだなぁ、今は思いつかないけどきっと世界を救ったとしても世界はボロボロになると思う。覚悟はしておいてくれ。」

ゴラムは唸り

「覚悟の上だよ。世界が残っているなら私は直せる。完全に壊されたらどうしようもないが壊さないでくれたなら私は最善を尽くそう。」

そう言うとリックによろしくと電話を切る。

いつ現れるかわからないが僕以外にも戦う覚悟を決めている人間がいる。

それだけで僕も覚悟が改まる。

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