吸血鬼の討伐②


話を直接聞いてみたが、先ほど盗み聞きしていた話と大差ない内容だった。


ランク6〜7で結成されたパーティ。

廃坑の中でコロニー化が進みつつある、ネズミ型の魔物の討伐クエストに向かっていた。

だが待っていたのは魔物ではなく吸血鬼ヴァンパイヤでした……と。



「なるほど!ありがとうございました!すませんね、大変な時に押しかけちゃって…あとはゆっくり休んでてください!ではこれにて失敬!」


さて、情報確認も終わったし準備してから行きますかぁ〜。



「待ってください!」


「……どうかしました?」


「も、もしかして、北の廃坑へ行こうとしてますか?」


「ギクギクゥッ?!」


「………」


「HAHAHA!そんなわけア〜〜リマセン。ワターシ、ランク2のヨワヨワネ!ヴァンパイヤコワイコワイヨ!」


「じゃあ、なんでわざわざ私から話を聞き出したんですか?」


「………」


「私も連れてってください!」


え、えぇ?!流石にそれは……っていうか怖くないのか?目の前で仲間が殺されたんだよね?



「私……私、何できなかったんです…守られてるだけで、何も……。それに、貴方はランク2なんですよね?!何か考えがあるにしても、流石に1人は無謀じゃないですか?」


「チッチッチッ!私、こう見えても吸血鬼のスペシャリストなんですよ。そう!人は私のことをこう呼びます!ヴァンパイヤハンターと!」


「さっき『吸血鬼は怖い』って……」


「………」


だめだ。俺嘘つくのが下手くそすぎるな。何故こんなにもアドリブが弱いのか。

エンターテイナーとして放置して良い短所ではないな。


彼女の顔を見る。

その瞳からは恐れや罪悪感……そして頑な意志が見えた。



「わかりました。じゃあせっかくなので道案内をお願いします。でも絶対無理はせず、危険と判断したら俺を置いてでも逃げてくださいね?」


「……わかりました」


元より1人で向かうつもりだったのだ。俺のことなんぞほっぽって逃げてもらわないと困る。

あと出来れば、再生してる姿とか、余計なところを見られたくないし。



俺は彼女を連れ、その廃坑へ向かうのだった。




○●○●




今歩いてるのは森の中。この先に廃坑があるらしい。


「ミネリアさんは、ハンターになってどれくらいなんですか?」


「そうですね……15歳からなので、四年目ですね」


「そうなんですねぇ〜」


俺は吸血鬼に襲われた女性……ミネリアさんに、適当な雑談を交わしながら案内してもらっている。

本当ならその吸血鬼さんの情報を聞き出したいのだが、多分逃げるのに必死でまともな情報は得られないだろう。

それに思い出させて余計な恐怖を与えたくない。



「情けないですよね。仲間たちに庇われて……挙げ句の果てに関係のない人を巻き込んで……」


「まぁまぁ、首を突っ込んだのは自分ですし」


申し訳なさそうな顔で話し続ける彼女。罪悪感、悲壮感、やるせない無力感……そう言った感情が伝わってくる。

でも、なんか違和感があるんだよな。この申し訳なさそうな瞳、どこかで見たことがある気がする。



「私……今までちゃんとパーティを組めたことがなくて、ずっとスポット一時加入で……でも、今回の人たちはすっごく優しくて……クエストに行くのも三度目で、これが終われば正式にパーティを組まないかって誘われてて……」


「それは……なんというかまぁ、ご愁傷様ですね」


なんか、フラグ回収みたいになってるやめてほしいな。いやいや、ダメだ。人死に対してこんな軽薄な考えは不謹慎だ。

どうもこっちの世界に来てから、自分の命が軽くなるのと同時に他人の命も軽んじてる節があるな。他人の命は尊重しないと。


「なんで、なんでこんなことになったんだろう……私ずっとずっと、なにをしてるんだろう……」


いかん、BAD入ってしもうとるがな。なんとかせんとあきまへんな。



「ま、まぁまぁ、今は目の前のことに集中しましょう」


「私のせいで……何人も何人も……何回も……」


ぶつぶつ呟く彼女の足取りは、徐々に重くなっているようで、進行が少しずつ遅くなっていく。


森の草木、蔦などを払い除けながら進む。獣道って結構体力持っていかれるよね。



「えっとぉ……結構歩きましたね……っていうか、こっちって北であってます?」


振り返ると、彼女は顔を俯けたまま立ち止まっていた。



「………」


「あのぉ……?」


「………リュートさん……」


彼女は下に向けたその顔を影に隠したまま呟いた。


「………ごめんなさい」


その瞬間、何か大きな影が俺に向かって襲い掛かるように飛び込んでくる––––のを避けながら元気に返事をした。


「全然大丈夫ですよー!」




○●○●




俺の動きに、信じられないと言った表情をつけるミネリアさん。


避けられるのがあまりにも予想外だったのか、俺を飛び越した向こう側で着地をしながらそれは声を荒げる。


「どういうことだ、ミネリアぁ?!弱い雄を連れて来いと言ったはずだぞぉ!」


黒い紳士服、白い肌に金髪。紅に変色した瞳がギラギラと輝いており、赤い唇の隙間からは鋭い牙が見え隠れしている。


やはりというなんというか……ある意味予測通り。

俺に襲いかかってきたのは、吸血鬼さんだった。

初めて見る男性の吸血鬼だ。いや、吸血鬼自体が2人目の邂逅なのですが。



もちろん俺にはパーティを1人で壊滅させた吸血鬼と渡り合える能力など無い。ならなぜ避けれたのか?理由は二つある。 


一つ目は彼女の俺を見る目と態度。

ミネリアさんの挙動があまりにも不審すぎた。

そして俺を見る目もおかしかった。だがそのおかしさには覚えがある。

あれは前世、俺が陰キャライフを送っていた高校の頃。よくある、揶揄いと罰ゲームを含めたアレ……そう、所謂嘘告白というものをされたことがあるのだが、その時の女子目とよく似ていた。

申し訳なさそうな人を騙す時のあの目。

その前世の悲しい経験を元に、『これは何かあるぞ〜』と気を張っていた訳だ。


二つ目はシンプルに『慣れ』だ。

ラミアさんは、前回のデートからすっかり俺をhuntingすることを気に入ってしまい、俺は何かと死角から襲われるようになった。

それ故に、吸血鬼からの急襲に耐性がついていた。

彼女の動きに比べれば、この吸血鬼さんの動きは数段劣る。だから避けることができたという訳だ。



大方、彼に次の餌として弱そうな人間を連れて来いと命じられており、眷属である彼女は逆らえず、手ごろで弱そうな俺を彼の元へ案内した……といったところだろう。

俺が自ら声をかけた時はまさに棚から牡丹餅、飛んで火に入る夏の虫だ。




「ひ、も、申し訳ございません!そ、その男のランクは2なんです!弱いはずなんです!」


「ならなぜ避けれる?!雑魚如きが私の動きに反応できるないだろうが!」



うわぁ……めっちゃ怒ってるじゃん。プライド高そう。あまりにもラミアさんの俺への態度と違いすぎてドン引いてしまう。

こんなの見せられたら、そりゃもう血の気が引いてしまいますわな(吸血鬼だけに)


これが眷属に対する本来の吸血鬼の態度なのかな?なんかルウも吸血鬼は残酷だ〜的なこと言ってたな。

まぁ、とりあえず落ち着いてもわないことには話が進まない。

俺は血が頭に上っている(吸血鬼だけに)彼を宥める。



「まぁまぁ、そんなに怒らないで。そんな、血の気を多くせずとも(吸血鬼だけに)、俺はちゃんと弱いクソ雑魚人間なんで……へへ」


「人間如きがぁ……私の話を遮るなぁっ!」


こ、怖〜〜。大人のガチギレ癇癪久々に見たな。


ミネリアさんはその場で平伏し、ひたすらこの吸血鬼に謝罪の言葉を唱えている。完全に恐怖に取り憑かれてしまっていた。

こりゃ俺が話を進めないとダメっぽいな。


吸血鬼さんが、また俺を襲おうと闇に紛れる。


「ちょーーっと待った!」


「……命乞いか?なら諦めるんだな」


「違うんですよ!あのですね、わたくし、今回貴方様とお話ししたいと思い、馳せ参じた訳でして……」


「人間如きの話など誰が聞くものか!貴様ら下等生物は我々の餌になっておけばいいのだぁっ!」


「俺もう既にぃ!他の吸血鬼さんの眷属でしてぇ!!」


あまりにも話を聞かないのでつい俺も声を荒げてしまった。



「はっ、なにをいうかと思えば……私を騙そうとしてもそうはいくか。同族の眷属なら気配でわかる。ここまで近づいてわからないのなら、貴様が嘘をついているか……よほど弱い吸血鬼に付けられ………た……か………あ、あ……」



その吸血鬼さんの表情が、俺を見下していたのが驚愕なそれへと徐々に変わってゆく。


「……?急にどうし––––



「りゅーとぉ…」



それは、出会ったあの日からずっと俺の心を支配して離さない……



「なにしてるのぉ?」



……愛おしい我が主人の甘美な声だった。


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