吸血鬼さんとの出会い


–––––– • • • 朝、か」

久しぶりに前世の夢を見た。

それもこれも、俺が実家から追い出され、久しぶりに『平民の暮らし』を過ごし始めたからだろう。




あの夢の……前世の意識が途切れ後、俺こと『久世くぜ悠人ゆうと』は、気付いたらこの世界に赤ん坊として……『リュート・ベルクニフ』として生まれ落ちていた……転生していたのだ。


ここは魔法と剣のファンタジーの世界。

前世では見たこともない超常現象や生物が跋扈している。

あんまりそういう小説は読んだことないけど、これが所謂異世界転生という奴なのだろう。


だが残念なことに、転生したからといって別に何か才能が与えられたわげではなかった。むしろこの世では誰もが持っている『魔力マナ』というものが俺には与えられなかった。

普通なら5〜10歳の間に発言するはずなのだが、俺がこの世界に生まれ落ちて17年経っても現状変わりなし。世界は残酷である。



他の世界からやってきた弊害か何かなのか……いつまで経っても魔力が発現しない俺に痺れを切らした両親は俺を捨てたというわけだ。

この世界の両親は所謂、貴族というやつだ。そんな名門の血筋に俺の様な出来損ないがいるのは、体面だとか世間体だとか、とにかく都合が悪かったらしい。

なんとも最低な家族だ。 



追い出された俺は、とりあえず金を稼ぐため、その日のうちに冒険者ギルドに登録。そこで日銭を稼ぐことにした。

もちろん戦闘能力は皆無なので、受ける依頼クエストは簡単で安全なものばかり。その分報酬もちっぽけなものだが……まぁ数をこなせば、なんとか質素な食事と安い寮くらいにはありつける。


そんな日々を続けてはや数ヶ月。それなりにこの生活にも慣れてきた。

そんなわけで俺は、ギルドで受けた薬草採取の依頼を達成するべく、今日も元気に張り切って!草原へと向かうのだった。





○●○●





「ふぅ、今日は日差しが強いなぁ〜」

「………」

「ふぅ、なんだか今日は暑いなぁ〜」

「………」



こんなわざとらしく独り言を呟くのも意味がある。決して独り言の癖があるわけではない。


後ろになんか居るのだ……

後ろなので、どんな姿をしているかはわからないが、人らしき人物がいる。

そして今、こんなところに俺の知り合いがいるはずもない。つまり他人だ。他人が俺の後ろで俺の仕事の様子を監視している。


黒い衣服が視界の端にちらちらと写っているので、少なくとも文明を持った人型の生物ではある筈なんだが……



うーん、めんどっち。話しかけちゃえ。


「こんにちは。今日は暑いですね?」


振り返ると、そこにいたのは黒い日傘らしきものを差し、黒いゴスロリっぽい服を着た美しい金髪の女性……いや、髪が目を覆っていて全体は見えていない。

……なぜ綺麗だと思ったのだろう?


いや、鼻は小さくて高い、鼻筋もスッとしていて綺麗だ。

唇も、赤くてぷっくりしている。どちらかというと厚い方だろうか?白い肌と相まってよく映えている。

見えている範囲では綺麗な顔立ちをしているのは間違いない。

後ろ髪も長く腰まで伸びている。黒い服によく似合っている。スタイルもスレンダーだ。


その服装と、あまりにも綺麗すぎる見た目。

二次元からやってきましたか?という感想を抱いてしまう。




ポカンとしていた彼女は、我に返り返事をする。


「へっ?!はぇ?あ、あ、はい!えっと!そうですね!さんさんとしていて…嫌な天気です!」

あまりにも突然すぎたかな?あんまり聞かない返事をされる。



「そ、そうですね。こう、ギラギラしすぎていると嫌ですよね……曇りが1番いいですね!」

とりあえず話を合わせておくことにした。それに俺も曇りの方が好きだ。


「わ、わかります!曇りが!曇りが1番いいです!曇りびっぐらぶです!晴天ごーとぅへるです!」


わぁ、思ったより過激な思想のお返事が来たぁ〜。

そんなに太陽が憎いのだろうか。そういう宗教かなんかか?


「あの、ところで…俺に何か用が…?」


「あ、いやあの!えっと……美味しそ–––じゃ、なくて!頑張ってるなぁ〜って………へ、へへへ」


なんだか素振りが怪しい……が、まずはお話ししてみよう。

綺麗な子とお話しするのは、まぁ嫌いじゃない……なんてカッコつけるのはやめよう。綺麗なお姉さんとお話しするの大好きだ!



「とりあえず、日陰に移動しましょうか」

「へ?い、良いんですか?お仕事の途中じゃあ……」


流石にあんな近い距離でガン見されながらだと、やりにくいしね。


「ちょうど休憩しようと思っていたんです」

『で、ではお言葉に甘えて』という彼女を連れて、俺は大きな木陰へと移動した。





○●○●





お話のついでに昼食を取ろうと、俺はうっすいサンドイッチの入った箱を取り出す。

だが彼女はこちらを見つめるばかり。

もしかして……


「えっと、お食事とかって……とられました?」


「へ?あ、いや……ここ3年ほど摂ってないですね」


さ、さ、ささささ三年??!さ、流石に冗談だよな?異世界ジョークってやつか……ったく、心臓に悪いぜ。

だが俺もこの世界に来て17年生だ。ユーモアの一つや二つ、捌いてみせようじゃないか!腕がなるぜ!うぉおおおおおおおおおおおおおお!


「……は、ははは。三年絶食って…ダイオウグソクムシか〜い!」


「……?」


「…は、はは」


どしたん?話聞こか?うんうん、これは俺が悪いわ。じゃ、死ぬね(笑)

……よし、リセット完了。



とまぁ、下らない思考は置いといて。

自分だけ食事をするのもなんだか悪い気がするんだよなぁ。

かと言ってこのうっすい野菜しか挟まってないサンドイッチをこの麗人に分けるのもそれはそれで無礼な気がする。

見るからにいいところのお嬢様という感じだし……

俺がいた実家なんて目じゃないだろう。



「……な、何も食べないんですか?」


「え?た、食べちゃっても良いんですか?!」


なんだ、ちゃんと持ってきているのか。罪悪感に苛まれながら食事を摂る羽目にならなくて済みそうだ。

いいところのお嬢様故、俺ですら知らない、何かしらの礼儀作法があったのだろう。



「よければご一緒にどうですか?」

こんな味気のないサンドイッチでも、誰かと一緒なら二倍…それが麗人ともなれば五倍増しで美味しく感じるというものだ。


「え?え?本当にいいの?や、やったやった!か、簡単!簡単じゃん!難しいってママが言ってたけど!全然簡単じゃん!」


なんだかはしゃいでいるようだ。もしかして彼女も俺と一緒に食事を取れることに喜んでくれているのかな?

へへ、照れちまうぜ。


「で、では、あの…失礼して……流石にいきなり首はちょっと、え、エッチすぎるから……お手を……」


何か小声でぶつぶつと呟きながらその子は俺の手を握り指を絡ませる。


「へ?へ?え、えっと…?なにを……?!」

こ、これも何かしらの礼儀作法の一環なのか?ドキドキしちゃうよ?流石の俺でもドキドキしちゃうよぉ〜。


「…い、いただきぁむ」


俺が困惑している中、彼女はおもむろに俺の指を口の中に含み始めた……は?



「え?!え?!な、何をしているんですか?!」

え、えっちなのか?!えっちな何かが始ま––––痛て。

なんか、指を噛まれた気がする。


「んむっ、んむっ、んむっ」


なんか、吸われてる気がする。

蚊かな?

いや、違うな。なんとなくわかってきたぞ。


「もしかして……吸血鬼ヴァンパイヤさんですか?」


「んむっんむっんむっ」


「あのー……?」


指とはいえ、そんなベロベロと舐められると、如何わしい気持ちになってくるのだが……

生暖かい柔らかい感触に不覚にもドキドキしてしまう。


「……….んっ?!ぷはぁ。…す、すみません。美味しくてつい夢中になってしまいました。初めて直接飲んだもので……お、お恥ずかしい」


「あ、あはは。それは、お粗末さまでした?えっと、それで、あの……」


「は、はい!そうでした!私、吸血鬼です!吸血鬼の真相、ラミア・ノス・アディカリオです!……あ、『我は吸血鬼の根源たる真相にして、ノスフェラトゥの名を冠する〜〜』みたいな名乗り……あげた方がいいですか?」


「あ、えっと、ははは……だいじょぶです」



これが彼女との……吸血鬼であるラミアさんとの出会いだった。






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