第10話 未来と崩壊の衝突
広場を埋め尽くす影の獣が、咆哮とともに姿を現した。
赤牙の継承者が短剣を掲げるたび、地面から新しい黒い顎が生え、街そのものを食い破ろうとする。
空まで赤く濁り、プレイヤーもNPCも絶望に息を呑んだ。
「……終わりだ、凡人」
継承者のPaneが真紅に染まり、数値が急上昇する。
〈Collapse Bias(崩壊傾斜)〉:+0.8 → +1.5 → +2.0
圧倒的な破壊の流れ。未来の写し絵が黒に塗りつぶされ、街が崩れ落ちていく姿が見える。
◇
僕はPaneを開き、指先を震わせた。
〈Future Bias〉:+1.2
けれど、このままでは押し負ける。
「蓮!」
剣姫が僕の前に立ち、大剣を地面に突き立てた。
その瞬間、白い花弁のような光が舞い上がる。
「あなたの力に、私の願いを重ねる!」
Paneが反応する。
剣姫とのFavorabilityが最大に達し、光が新しい項目を生み出した。
〈Bond Link(絆接続)〉:対象“白百合の剣姫” 同期率 100%
「……絆?」
「そうよ。あなた一人の未来じゃない。私たちの未来を――一緒に」
剣姫の手が、僕の手を強く握る。
Paneの〈Future Bias〉が一気に跳ね上がった。
+1.2 → +2.0 → +2.5
◇
未来の二重写しが、再び切り替わる。
黒く崩れ落ちる街と、白い光に守られた街。
相反する二つの未来が正面衝突し、世界が激しく軋んだ。
赤牙の継承者が叫ぶ。
「潰せぇぇぇ!!」
黒い獣が襲いかかる。
僕と剣姫は同時にPaneを操作し、未来を塗り替える。
「〈未来傾斜・上書き〉!」
「〈崩壊傾斜・強制展開〉!」
光と闇が爆ぜ、広場が眩い閃光に包まれた。
◇
次の瞬間――影の獣は霧散した。
広場に白い花弁が舞い、赤い霧が一気に消えていく。
プレイヤーたちが歓声を上げた。
「街が……守られた!」
「白百合が勝ったんだ!」
Paneが強く点滅する。
〈Future Bias〉:+2.5 → 固定化
Favorability(街全体):+1.2 → +2.0
僕は確かに未来を変えた。
凡人の未来は、もうどこにもなかった。
◇
だが、赤牙の継承者は立っていた。
口元に薄い笑みを浮かべ、短剣を握りしめている。
「面白い……凡人の癖に、未来を上書きしたか。だが覚えておけ。未来は一つじゃない。崩壊は、必ずどこかで追いつく」
彼は赤い霧とともに姿を消した。
広場に残ったのは、歓声と、震えるほどの余韻。
剣姫が僕の肩に手を置き、静かに言った。
「蓮。あなたは、もう凡人じゃない。……この街の希望よ」
Paneの表示に、新しい項目が現れていた。
〈Title:希望の継承者〉
胸の奥で、何かが確かに変わった。
僕は未来を掴んだ――だがその先には、さらなる闇が待っている。
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