第4話 赤牙の挑発
ギルドに加入して三日後。
僕は《白百合騎士団》の一員として初めて討伐任務に参加していた。
目標は、街の北方に出現した魔獣〈獣骨兵〉。ランキングにも載るほどの中級モンスターだ。
十人編成のパーティ。剣姫が先頭に立ち、後衛に魔導士たち。僕は支援枠として位置どった。
「蓮、バフを重ねて」
「了解。〈マナ・フロー〉、〈ガード・サークル〉!」
光の輪が仲間の足元に展開する。魔導士が唱える火炎球が、一気に威力を増した。
戦闘は滑らかに進み、僕の支援はぴたりと噛み合った。
以前のギルドでは“凡ミス”呼ばわりされた僕が、今は仲間と呼吸を合わせている。
――そのこと自体が、胸に熱を灯す。
だが、異変は討伐が終わった直後に訪れた。
◇
「よォ、白百合の姫さん。随分と張り切ってるじゃねえか」
低い笑い声。
草原の丘の向こうから、真紅のマントを羽織った一団が現れた。
巨大な斧を肩に担ぐ男。その背には、赤い牙の紋章。
――〈赤牙ギルド〉。
「赤牙……!」
白百合の仲間がざわめく。
剣姫は静かに大剣を構えた。
「ここは狩場。挑発に来たのなら帰りなさい」
「挑発? 違う違う。ただ、新しい顔がいるようだから挨拶にな。……補助士か?」
赤牙の男が、じろりと僕を舐めるように見た。
その瞬間、〈Hidden Parameter Pane〉が勝手に開く。
Aggro Weight(敵視重み):+0.8 → +1.2
僕は何もしていないのに、敵視が跳ね上がった。
背筋に冷たい汗が流れる。
赤牙の男が笑う。
「凡人の補助士。だが……お前からは妙な匂いがするな。裏の数字をいじったこと、あるだろ?」
「……っ!」
心臓が跳ねた。
裏仕様を知っている? どうして――。
「やめろ」剣姫が割って入る。「彼に手を出せば、宣戦布告と見なす」
「いいだろう。今日は顔見せだ。だが覚えとけよ、補助士。裏仕様に触れた者は、必ず血を流す」
赤牙の一団は笑いながら去っていった。
残された僕の心臓は、まだ激しく鼓動を打っていた。
◇
その夜。
ギルドハウスの自室に戻っても、Paneの赤い点滅は収まらなかった。
〈System Whisper〉:対象“赤牙”の干渉を確認。
『裏仕様は一つではない。もう一人、同じ力を持つ者がいる』
文字が震えて滲む。
つまり、赤牙の誰かも、僕と同じ“裏仕様”に触れている。
凡人ではない存在が、すでに敵側にいる。
「……利用する者と、利用される者、か」
囁きを思い出す。
ならば僕は、利用する側に立たねばならない。
この力を守り、証明するために。
PaneのLuckを、ほんの少しだけ上げた。
Luck:3.11 → 3.21
その瞬間、DMが届く。
送り主は《白百合の剣姫》。
『明日、作戦会議を開く。赤牙との全面対立になるかもしれない。蓮、君が鍵になる』
僕は深く息を吸った。
凡人の終わりは、始まりの合図だ。
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