メタパーク

覇気草

第1話 インタビュー




 デスクトップパソコンで動画サイトのゲーム実況を視聴中、傍に置いていたスマホが振動した。手に取って見れば、セットしていたタイマーが起動していた。


「……もう始まるか」


 タイマーを停止させ、ゲーム実況の視聴を切り上げて別のチャンネルに替える。

『しばらくお待ちください』の画面のままだが、軽く伸びをしながら待っているとすぐに配信が始まった。

 会社のロゴとBGMが流れて映像が切り替わると、椅子に座った二人の女性の全身が映った。どちらもスーツ姿だが、片方は何故か猫耳と猫尻尾が生えているようにみえる。


「みなさんこんにちは。極東テレビの記者、佐藤です。本日は世界初のフルダイブVR技術を生み出し、その技術を使ったオンラインゲームのサービスを開始する新進気鋭のゲーム会社<ディメンジョンコネクト>の社長、猫社ねこやしろチエさんにお越しいただきました。猫社さん、よろしくお願いします」

「はいよろしく。あと、名前で呼んでくださって構いませんよ。そっちの方が呼びやすいですし」

「わかりました。ではチエさん、サービス開始直前の独占インタビューを始めさせてもらいます」

「はい、なんでも聞いてねー。答えられる範囲で答えるから」

「それならまず、配信前からずっと気になっていたんですけど、そちらの可愛らしい猫耳と猫尻尾について聞いてもいいですか?」

「ああこれ? 私がなんとなくで開発した猫耳カチューシャと猫尻尾。このカチューシャは補聴器とイヤホンの機能があるから、実用性とファッションの両方で女性の皆さんにオススメのグッズだよ。しかも脳波コントロールで自在に動かせる。尻尾も同様だけど……まぁ、使い道はコスプレとか夜の営みぐらいしか思いつかないけどね。種類も豊富だから、気になった人は当社のホームページで確認してね」

「だそうです。視聴者の反応は――あっ、みんな確認してるみたいですね」


 コメント欄が凄い勢いで流れる。


『もう見た』

『見てきた』

『確認した』

『注文済み』

『注文した』

『嫁に着けてもらう予定』

『自分用に買った』

『今着けてる。ノイズキャンセリング機能もあって便利だよ』

『佐藤さんも着けて。着けろ♡』


 などなど、好意的な反応ばかり。俺は既にホームページを確認していたので気にしない。


「本題に戻りましょう。チエさん、世界で初めてのフルダイブVRとのことですが、これはどういった技術が使われているのですか?」

「うん、気になるだろうけど、それは企業秘密だから答えられない」

「そうですか。ではこの場で改めて、新しくサービスを開始するオンラインゲームについて簡単に教えてください」

「我が社が開発したフルダイブVRMMORPG、月額課金制

で、タイトルは<メタパーク>。SFの世界観を基本にして、様々な世界を体験できるテーマパークだ」

「様々な世界を……具体的にはどのような体験ができますか?」

「そうだねー……極端な例えをするけど、剣と魔法のファンタジー世界でゴブリンの巣穴に入ったとする。その世界に沿った武器とコスチュームで真面目に攻略するもよし。全く違う世界の装備を使って異世界転生チートみたいなインチキで攻略してもよし。って感じかな」

「それは……面白いんですか?」

「どうだろうね? 全てはプレイヤー次第だからなんとも言えない」

「そうですか」

「うん」

「では次の質問ですが、こだわりの部分はどこでしょうか?」

「アバタークリエイトだね。アバターとはゲームの中でのユーザー自身。だから理想の姿をしてもらいたい。その為に人型として破綻しない範囲でなら、かなり自由に編集ができるようにした。例えば、褐色肌のダークエルフとか、ダンディなおっさんとか、可愛い猫耳少女とか、淫靡いんびな雰囲気のサキュバスとか、魔王っぽい男とか、球体関節のロボット人形少女とか……だいたいなんでもできる。そしてそれらを作る為に必要なパーツは……なんと全て無料で使える」


 なんとっ!? まさかの新情報!


「無料で、ですか!?」


 コメント欄が『うおおおおおおおおおおおおおおおおお』で埋め尽くされた。


「ついでに言うと、このインタビューが終わってすぐにアバタークリエイトが事前にできるようにするから、サービス開始まで楽しんでね」


 マジか!


 コメント欄の『うおおおおおおおおおおおおおおおおお』が加速した。


「……私もやってみようかな」

「どうぞどうぞ。それより他に質問は?」

「あっ、では……そのアバタークリエイトについて一つ疑問があります。本来の性別とは異なる性別を選択できるそうですが……ゲームの中とはいえ、精神的に影響が出たりしないのでしょうか?」

「フルダイブVR技術が医学的にも法律的にも初めてのことだから、どういう影響があるのかはわからない。けど、ぶっちゃけ精神的な影響はあるだろうね」

「そうですか」

「うん、でも……これからゲームを始めるユーザーのみんなには、自分の性癖をいつわらずにアバタークリエイトを楽しんでほしいかな。特に男性諸君! TSという特殊性癖はいいものだよ。異性体験するのも、異性の体に戸惑う他人を眺めるのも素晴らしい。私はそれが観たくてこのゲームを作ったんだ」

「へ、へぇ……あの、そのTS? というのはどういう意味ですか?」

「TS――トランスセクシャル。要するに性転換だね。アニメや漫画やライトノベルなんかでたまに見掛けるジャンルだよ」

「そうなんですか。初めて知りました」

「それは勿体ない。一度TS要素のあるアニメや漫画を調べることを勧めるよ」

「はい、あとで調べてみます。それより精神的に影響があるということですが、気を付けることはありますか?」

「覚悟がない人以外は、性的興奮を覚えるような真似はしないこと。自分の胸や股間を弄ったりとかね。あと、オンラインゲームのマナーについて言っておく。公序良俗に反する行為や、PvP要素のあるイベントや競技以外で、相手に対しての嫌がらせや強要はご法度だよ。私も含めて運営の人間がゲーム内でしっかり監視するからそのつもりで」

「なるほど。みなさん気を付けてください。次の質問ですが、メタパークはレベルの概念がなく、能力の数値が存在しないとのことですが、なぜですか?」

「それは効率重視のユーザーがどういうビルドにすれば強いかの最適解を求め、他人にも強要する傾向があるから。そうさせない為にレベルや数字を敢えて無くした。職業もね。それに、幾つもの世界を体験することになる。だから装備を外せばいつでも初心に帰れるようにした」

「ですがそれでは、個性があまり出せないのでは?」

「それについては大丈夫。アバターの体格によって肉体の性能が変わるようになっている。そうだなぁ……例えばだけど、力強いアバターを作りたいなら、身長高めで骨格を大きくすればいい。リアルの人間と同じだよ」

「……ファンタジーのドワーフみたいな、小さくて力強いキャラを作ることはできないのでは?」

「その為に“チューニング”機能がある。それでパワーを強化すれば、小さいのに力持ちのキャラが完成する。ただし、チューニングにも限度があるから、長所を伸ばすか短所を消すか、別の部分を伸ばすかはよく考えるように」

「なるほど。あとは無数にあると言われている、スキルやアビリティで構築すればいいということですか?」

「そうなるね。ただ、このゲームはプレイヤーの行動によって取得できるスキルやアビリティが変わるようになってる。イベントやクエストでも同じ。もしアバターに何かしらの設定をしているのなら、その通りの言動をすることを強くお勧めするよ」

「例えば、どんなことをすれば望んだスキルやアビリティが取得できますか?」

「例えばか……もし伝説の剣豪とか剣聖になりたいんだったら、ひたすら剣とか刀を素振りして、エネミーやプレイヤーや色んな物を斬って斬って斬りまくったら、なにかしらのスキルとかアビリティとか取得できると思うよ」

「そうですか。次の質問ですが、メタパークでは敵から取れるのはお金や一部の特殊な物だけで、装備の生産や強化、入手が変わっているとのことですが、具体的にどういうものなのか教えてください」

「あーそれね。ぶっちゃけ素材をゲームとして設定するのがめんどくさかったら、倒したエネミーや物を拾っての直接ドロップと、データから装備を作る二択だけにした。装備の生産では、エネミーの撃破数を消費することで作ることができる。消費するデータの種類や量によって武器の見た目とか性能は千差万別に変わるから、期待していいよ」

「それは楽しみですね。ではここらで一度休憩を挟みたいと思います。その間は最新PVがあるそうなので是非ご視聴ください」


 画面が切り替わり、PVが始まった……。




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