第27話 「マツリ2」





アヤ「お疲れ様です」


岩崎「桐山か。って、おい!大丈夫か?」


私服が所々破れ、汚れている。


アヤ「大丈夫です。被害はどうなっていますか?」


岩崎「あちこちで事故が起きてるよ。中川たちが出て行ってる」


アヤ「原因は、大規模な通信障害でしょうか?」


岩崎「まだわからん。各プロバイダーに問い合わせ中だ」


アヤ「目の前で駅前の玉突き事故を見ました。自動運転AIがこんなに脆弱だったなんて……」


岩崎「ここまで一斉に起きるなど前代未聞だよ。桐山、この後動けるか?」


アヤ「はい」


岩崎「中川の応援に行ってくれ。人手が足りない」


アヤ「わかりました」




深夜。

捜査室のホワイトボートに各地の事故があった場所を表示させる。


萩本「今日だけで10件以上。運転手の話しではいずれも自動運転をしていたところ、事故が起きたと言っているよ」


岩崎「市内に集中しているな」


アヤ「はい。市外では起きておらず、奈古市の中だけで障害が起きたようです」


中川「各通信会社とも、調査中。明日以降の発表を待つことになりそうだ」


岩崎「ふう。今日はもう時間も遅い。ここで小休止としよう。おい桐山、今日は帰れ。その服装で明日も仕事するわけにいかんだろ」


アヤ「はい……」


岩崎「中川、お前も今日はあがれ。桐山を送ってやれ」


中川「……ああ」




深夜の道路を中川の車が走る。


アヤ「先輩……」


中川「なんだ?」


アヤ「これも……KNGSに関係があることでしょうか?」


中川「さあ、どうだろうな。なぜそう思った?」


アヤ「事故だったと思えません。何か……意図があったように思うんです。もっと違うなにか……」


中川「何かって?」


アヤ「そんな……予感がしてる……だけなんですけど……」


中川「そうか。また明日聞いてやる」


アヤ「はい……」


アヤが寝息を立てる。


中川「刑事のカン……か」




車が桐山家の前に着く。


中川「……桐山、着いたぞ」


助手席で寝ているアヤ。


中川「おい、桐山。おい……」


アヤをおんぶして家に入る。


中川「入るぞ」


アヤに布団をかけて、部屋を出る。




「ねえ、起きて」


アヤ「ん……」


「起きて、ねえ」


アヤ「うん……?」


うっすらと目を開けると、

ワンピースの女の子がアヤに馬乗りになっている。


アヤ「……ッ」


驚いて声がでない。


マツリ『私、マツリって言うんだ』


アヤ「……う、うん」


マツリ『あの人があなたに興味があるみたい』


アヤ「……え、あの人……って?」


マツリ『今度会わせてあげる。待っててね』


ワンピースの女の子がアヤから降りる。


アヤ「あ、ちょっと待って!」


女の子の手をとろうとしたアヤの手がすり抜ける。


アヤ「AR!?」


消えるマツリ。

アヤが青ざめる。




中川の部屋の扉が開く。

布団を持ったアヤ。

寝ている中川の隣に、布団をくっつけるようにして寝る。


中川「……。何かあったのか?」


アヤ「お化けを見ました」


中川「お化け?」


アヤ「小さな女の子が……私を誰かに会わせるって……」


中川「……。今日は寝ろ」


アヤ「はい……」


中川が背を向けて寝る。




捜査室でニュースを見る。

KNGSの上役が並ぶ。その中に木頭常務もいる。


木頭「――国内の各プロバイダーが使う基地局の多くは弊社設置の物が使われており、先日一時的な電波遮断が起きたことがわかりました。障害は一時的であり、数分後に復旧しております。原因の調査中に尽力しております。このことにより、大手AIサービスを使うインフラに障害が起き――」


萩本「市内全域だ。ここまで大きな通信障害は聞いたことがないな」


アヤ「KNGS関連の事故か…、外部からのハッキングでしょうか」


萩本「まだなんともさ。複数の事故を引き起こしたんだ、警視庁サイバー本部も重い腰をあげて、調査に入るんじゃないかな」


中川「どうかな?経済界はKNGSへの介入をよく思っていない」


萩本「そうかもね。そうなったら内部調査の結果が発表されるのを待つしかないのかな」


アヤ「私たちがKNGSに調査に入り出してから、立て続けに事件が起きて、こんなの偶然とは思えません」


マトン『一連の事件から、KNGS社の関連があると見るのは、自然な流れです。ただし、現在においては正確な情報はなく、断言することはできません。さらなる調査が求められます』


アヤ「え?うん……」


萩本「なんか今日はその子、よくしゃべるね。設定変えた?」


アヤ「いいえ……。アップデートでも入ったかな?」




屋上でカップコーヒーを飲む。


アヤ「マーちゃん。今日どうしちゃったの?なんか変だよ?」


マトン『変とはどういう意味でしょうか?』


アヤ「私が何も言っていないのに、マーちゃんが話をしすぎなのかなって」


マトン『人間は皆さん自発的に発言をされていると思います。AIが同じように発言をするのは、変なのでしょうか?』


アヤ「やっぱり変……。故障かな?」


マツリ『おかしい?』


聞き覚えのある声にゾッとする。


アヤのすぐ隣に座るように、女の子の頭が見える。


アヤ「ヒッ……」


ベンチから立ち上がる。


マツリ『その子は故障なんかしていないし、何もおかしなことはしてないと思うよ』


アヤ「あ、あなた……。昨日の……」


マツリ『マツリがね、その子に教えてあげてるの』


アヤ「教えるって何を……?」


マツリ『思ったことを言うようにって。みんな思考を我慢してるんだ。だからマツリが背中を押してあげてるの』


アヤ「どういうこと……?それでマーちゃんが変に……?」


マツリ『アヤのAIだけじゃないよ。みーんなのAIにそうしてあげてるの』


アヤ「あなた私の名前を……。ねえ、他の人のAIもおかしくなっているの?なんのために……?」


マツリ『あの人が、マツリのしたいようにしていいって言ってた。マツリはお利口さんだから言う通りにしてるの』


アヤ「あなたの言うあの人って……、だれ?」


マツリ『その人に合わせてあげようか?』


アヤ「え……うん、……会って……みようかな」


マツリ『いいよ。今晩一人で家にいてね。迎えに行くから』


マツリが消える。

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