第6話 真実

手を伸ばす違和感のある視界、気づけばこの世界に来て4年ちゃんと家族と過ごしたのは何年ぶりだっただろうか。


これからも、かあさんととうさんと楽しくたまに喧嘩したりして過ごしていけたらいいな。


そんな現実はもう来ない。二度と来ない。


奪われた、なぜ?俺は僕が何をしたっていうんだ。




その日はものすごい豪雨だった。


「もうすぐカレナークだな」


白髪で隻眼の男は走っていた、途端に付近から小さめの破裂音が響いた


「なんだ、確認しておくか通り道だしな」


男は音の方へ足を向け再度走る、ほんの数分走ったところで一人の少年を見かけた横目に


男の顔は一瞬で憎悪に飲まれた。


見覚えがあるどころではない。男がここに来る前の数時間前


「ゾロア今回の姫殺しカレナークが関与している。サルファ王もしくはその娘タリア・サラディーナを抹殺しろ。必ず報復するのだ」


魔族の王 フェルメールは両者の似顔絵を渡し言い放った。


「御意。」


白髪で隻眼の男ゾロアは片膝をつき頭を深く下げた


そして今に至る


「あいつは、タリア・サラディーナではないのだが似ている血統だ子供か。見つけたぞ」


ゾロアはそのまま走り去る。方向を変え自国へ走り出す


数時間後自国へたどり着いたゾロアはフェルメール王に事の顛末を話す。


かなりこと細かく説明した


「なるほど、家族ともども殺してしまえ。姫を殺した報いを必ず」


フェルメールは十数人の兵を用意しゾロアに再び少年を見た場所へ向かわせた


その日もまた雨が降っていた。


ゾロア達は森を抜け一軒家を見つけた、明かりがついていた窓からタリアともう一人の男が深刻そうな顔をして何かを話している姿が見えた。


「感づかれたか、我の顔は割れている少年に見られているからな。貴様らならやれるだろう一度このまま我は本格的にカレナークへの進軍のため兵を再度集めに戻る機を見て奴らを殺せ。」


ゾロアは十数人の兵をその場に置き再び自国へ戻った。


時はすぎゾロアはカレナークに数十人の兵を引き連れ向かっていた道中


「なんだ。これは」


死体だ、見るも無残な。


腸は引きずりだされ、肉の塊が散らばりまるで獣に食い荒らされたかのような見るも無残な光景


そこには人一人いない


雨の音。ハエの集る音。きつい臭い。


そこにはタリア・サラディーナ、ライ・サラディーナの死体も残っていた


ただ一人ロイ・サラディーナの姿はなかった。


家の中を確認する綺麗だった、そこにもロイの姿はなかった


兵の死体の一人が首にかけていたネックレスそこには家族の写真が入っていた。


ゾロアは叫ぶ憎悪に満ちた叫びが雨の音に消されていく


「ヒューヒュー。。。」


薄い呼吸音肺に血がたまっている濁った呼吸音が聞こえた


タリアだった。ほんの小さな命の灯消えかけの炎


「ロ.....イ......あい..s.......」


聞き取れない、でも。なにを言いたいかはわかる。


体は冷たく。でも言葉は温かい母親の愛


「黙れ死にぞこないが。」


マナで作られた剣が突き立てられる。


消えた灯。


「必ず。見つけ出し殺してやる。タリア・サラディーナの息子ロイ・サラディーナ。」


ゾロアの手には血の滴る剣、どす黒い憎悪身も凍るような眼差しと声。


そこに現れたのはフェルメールだった


「ゾロア一度国に戻れ。最初から仕組まれていた。すべて神聖ハーベルンに」


神聖ハーベルン神族の国神族が絶対的存在の国以外の種族は一切の入国を許されない国


そんな国がなぜ関与しているのかそしてこの現状を起こしたのは神聖が原因なのか仲間が兵が死んだのはすべて、ロイはどうするべきだロイも被害者なのではないか。だが、仲間を殺したのは。わからない


「御意。一度戻りましょう。」


ゾロアはすべてを飲み込み国へ戻る


神聖ハーベルンが姫殺しに関与している。


おそらくこの世界の二大国家であるマナンブルグとカレナークに争いを起こさせ両国が壊滅的になった時ハーベルンが割り込み事をうまく丸め込みこの世界の支配権を握る。


これがフェルメールの出した仮説だった。


だが、このままでは一方的にカレナークの王の娘であるタリアを殺した悪者、どう対処すべきかフェルメールは悩んでいた。


文を出しても返答はなく向こうの動きすらつかめない。もし攻め込まれればこちらもただでは済まない。


人族とは言えど少数精鋭である四聖アテナに攻め込まれれば終わり。


時間だけが進んでいき膠着状態が続いていた。


タリア、ライが死亡してから1年後




「目が覚めたのね!!」


メイド服を着た黒髪の女の子18歳くらいだろうか


「..........」


ロイは無言でメイドの顔を見た。すこしライの面影を感じたような気がした。


「とう.....さん.....?」


ロイは口を開いた、


「ごめんなさい。私はイラよライ兄さまの妹ね」


イラと名乗ったメイド


「私はサヤ」


もう一人のメイド年齢は19くらいだろうか


「ここは....」


ロイはあたりを見渡し聞く


「王城よあなたはロイでよかったよね?タリアお嬢様のリストバンドに手紙が挟まっていたのそこにあなたの事も書かれていたわ。血で汚れていて全部は読めなかったけど。」


綺麗に洗われて畳まれたローブとリストバンドをサヤが渡してきた


ロイはローブを受けとった


途端に左目に激痛が走る


「ううぅぅう」


ロイは左目を抑え蹲る。


「大丈夫!?」


二人はロイの背中をさすりマナを流す。


「どのくらい経ったの」


ロイは震えながら聞く


「1年よ。」


イラが答える。


「すごく曖昧なんだ、僕がなんでここにいるのか。とうさんとかあさんはどうなったの」


ロイが上を向いて手を伸ばす。


風が窓から入りカーテンが巻き上がる。


ロイは二人の顔を見る


二人は驚きを隠せなかった。


無表情だった。マナ暴走はもう終わっている、本来ならば寂しさや悲しみを感じ涙を浮かべたり安堵の表情を浮かべたっておかしくない状況なのにまるで空っぽの瓶のようにロイには何もなかった。


二人は口を抑え涙を浮かべた。この厳しい現実に。怒りさえ覚えた。二人からしたらわずか5歳の男児から両親を奪い感情さえ奪い去るほどの苦痛を与えたことに。


「家に帰らなきゃ。」


ロイが口にした一言を聞き逃さなかった人物がいた。


「今日からここがそなたの家じゃロイよ」


そこに立っていたのは高貴な服を着た老人。


「あなたは」


ロイが顔を上げた


「わしはカレナークの王そしてタリアの父サルファ・サラディーナ」


サルファと名乗った老人は腰を下ろし目線をロイに合わせる


「サルファおじさん。かあさんはどこにいるのとうさんに会いたい」


ロイは聞く


サルファは言った


「もういない、二人ともそなたを守り天に旅立った。今すぐにとは言わんがいずれは受け止めなければならない。」



それでもなおロイの顔は無表情のままだった。


イラもサヤも少し恐怖を覚えた。


だがサルファだけは違ったロイを抱きしめる。強く優しく温かく。


「きっと大丈夫じゃ。これからはわしがわし達が家族じゃ。守ってやる」


何故かかあさんを感じた。


やっぱりこの人は本当にかあさんの親なんだと感じた。

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