攫われたい夏

空木閨

第1話

 あれがいつのことだったのかは正確には思い出せない。夏だったのは覚えている。気怠げな蝉の声に、突き抜けるような青空と、生と死を煮詰めたような濃密な山林の匂い。そして、僕に乗り掛かってくる柔肌と、汗と精液の匂いの充満する狭い廃屋。僕と薫さんはまるで二匹のケダモノがバターになるまで溶け合うように、何度も何度も抱き合いながら、いつまでも続くかのような永遠の夏を感じていた……。でも、あの夏はいったい何だったのか、本当は何が起こっていたのか、あれが何かの事件だとしたら犯人の正体とは……今となっては朧げにしか分からない。

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