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血が舞い、飛び散る。
戦線では何度も繰り返される光景。
ユウの鉄甲、ハルマの大剣、バシンの銃火器、ジキの刀、キルトの丸ノコ。各々が自分の血から作った血戦兵器を振り回し、戦場を駆け、プレイグを1体、また1体と駆逐していく。
いつの間にか後ろを取られ、背中から腹を抉られると豪快に血飛沫が立つ。
ズキン。
と、鈍重な苦痛が骨髄を疾った。
死んだ。
事切れた死体が地べたに落ち、這いつくばる。それと同時に血液がうねりをあげて、みるみると体を再生していく。命が逆流していく。
蘇生が終わればまた目の前のプレイグを殺す。
今度は数に押され、ブチブチと小気味が良い音で腕と脚を千切られた。
死んだ。
意識が吹っ飛ぶとほぼ同時に、血が腕と脚を練り上げて再生していく。四肢と命が再び元通りに戻ればまた殺す。
死んで、殺す。
殺す。殺す。死ぬ。殺す。
死と蘇生を繰り返し、血の武器がバケモノのはらわたを抉り出し、肉を潰し、骨を砕き続ける。
自分のものか、プレイグのものか、それも分からなくなるほどに、辺り一面が真っ赤に染まる。
その光景はさながら
これが血戦兵士の戦場ーー
ーーそしてやっと、号令がかかる。
「前線の維持と迎撃区域のプレイグの全滅を確認したよ。総員、ご苦労さま。」
その言葉を皮切りに、隊員たちは次々に自身の血戦兵器を循環器へ戻した。
「今回の作戦は初の試みだったから色々想定外はあったけど、皆んな上手く対処してくれたね。ありがとう。帰投していいよ。」
セタガヤ前線の防衛作戦終了と同時に、ロビン監査官から各員へ労いの言葉が送られた。
侵攻の阻止を見事に成し遂げた兵士たちは、数十回もの死で心と身体が疲れ切っていた。
彼らは東京区の前線基地局へ戻る事にした。
…
「ただいまぁ〜!疲れたよロビンちゃーん!」
十代の少年特有の情けない弱音を吐き、一番に基地局作戦室の扉を開け放ったのは、どろっどろに血をかぶった中嶋キルト、彼だった。
後ろから黄檗バシン、真黒ジキが同じように続いて入室。少し遅れて白毫ハルマも戻り、一番最後に赤羽ユウも作戦室のフロアに足を踏み入れた。
部屋全体が一気に錆臭くなってしまった。
「中嶋、ロビン“監査官”って呼んでね。次同じ呼び方をしたら助成金を2ヶ月分止めるからね。」
「あっ、はーい…。ごめんなさいロビンちゃ、…っ監査官。」
「よし、それでいい。さて総員、今日は本当にありがとう。プレイグは1回襲撃に来たら少なくとも1週間は侵攻してこないからね。今のうちにゆっくり身体を休めて、またたくさん死んでも大丈夫なようにしておいてね。」
改めて全員に労いをかけるロビン監査官は、その傍らで作戦室のデスクにスナックやドリンクサーバーを用意していた。好きに取っていってくれ、ということだろう。給湯器も既に稼働しておいているため、すぐにシャワー室を使える状態だ。
「後でコンソメのポテチだけ貰うから。」
そう言ってジキはさっさとシャワー室へ向かった。体中にこびりついた血を一刻も早く落としたいようだ。
「じゃあオレも、先入ってるね」
と、バシンも身体を清めにジキと同じ方向へ向かった。
ハルマは…、真っ先にロッカールームに向かったらしい。
キルトはそんな事よりおやつタイムだ。
「せっかくロビンちゃ、…監査官がこんな良いおやつを用意してくれたのに。シャワーなんて後でもいいじゃん。ねぇ?」
「僕は、身体の汚れの方が気になるかな」
「赤っちもシャワー派?」
「あー…。でも今は取り敢えず、カフェオレが欲しいかも。戦い疲れて喉が渇いたよ。」
「お、じゃあこのチョコと一緒に食べな。結構良いやつだよコレ。」
キルトに手渡されたチョコをそのまま口に放り込む。カフェオレと一緒に飲むと、口の中で溶け出してコクのあるクリーミーな食感が喉を包む。
ちょうど私服に着替えたハルマも荷物を持って作戦室に帰ってきた。仕事終わりのおやつの美味しさをシェアすべきと、キルトが彼に駆け寄る。
「ハルマは?いらない?」
「要らない。お前たちで食ってろ。俺は早急に自宅へ戻らせてもらう。」
そう言い放つと、彼はキルトが手渡そうとしたビスケットを突っぱねて、つかつかと作戦室を出ていった。
「…付き合い悪いなぁ。」
ハルマの実力は誰もが認めている。この部隊のリーダー役を任されているのも納得のいく優秀な戦果をいつも出している。実際、今回の作戦だって、彼だけ死亡回数は1回だった。
しかし、連携を取るには難儀な性格であるという評価も、彼らの中で一致しているのだ。
「あっそうだ」
キルトが話題を持ちかけ、一瞬ピリッとした空気を和らげる。
「キミと彼女の進展を聞きたいなー?」
「いや…、ミコとはそういうんじゃ…」
青年ならば誰しも持つであろう当然の興味。
「それだよ!この前もミコって子を気に掛けてたよね?もう告っちゃいなよー?」
「幼馴染に…、そういうのないと思うんだけどな。」
「言い訳でしょ?それ。この前の話だけで考えても、割とラブしててもおかしくない距離感だからね?赤っちとミコちゃん」
「だから…っ、違うって…!」
とっさに否定した、しようとした。ただ、どう答えても、必ず言葉に詰まった。そんな彼の些細な隙を見逃さず、キルトはどんどんユウを詰問にかけた。
馴れ初めは?彼女といつもする事は?どんな会話をしている?
それはもう根掘り葉掘りと。
キルトの質問攻めを浴び続けるうちに、いつの間にか気づいていた。ミコトとの関係、彼はその答えをまだ持てていなかった。
それがなんだか今、どうしようもなく怖かった。
キルトに聞かれたことだってたくさん考えた。あの関係を恋仲と呼ぶにはあまりに遠過ぎる。しかし、ただの友人とは言いたくない、言えない。彼とミコトはあまりに多くの時間を一緒に過ごしてしまった。
でも、
ーー「じゃあマジになんとも思ってないんだ?」
「そうじゃ無いよ…!ただ」
今の言葉だけは迷わず言えた気がする。
「ミコは絶対に僕の大事な人だから」
…同期の唐突で赤裸々な告白に、流石の彼も唖然とした面でぽっかり口を開けていることしか出来なかった。
参った。変に茶化せないぞコレ。
「大事ならちゃんと伝えてあげたら?」
ユウが自分の小っ恥ずかしいセリフに気づく前に、シャワーから上がって戻ってきていたジキが口を開いた。
「大事なものっていつ無くなるかわかんないよ。」
そう言うと彼女はしっかりコンソメポテチの袋だけを持ち去り、口に入れたポテチをポリポリと頬張りながらロッカールームに消えていった。
………。
「えっ、食べたかったんだけど…。」
残念、今回もキルトはコンソメを食べ損ねた。
しばらくするともうお昼過ぎ。後片付けはロビンが全てやっておいてくれるという事なので、4人は荷物をまとめて解散した。
帰り道のユウの頭の中には、ジキに言われた言葉がずっとリフレインしていた。
『“大事なものっていつ無くなるかわかんないよ”』
…そういえば、ホームルームの後で浅草行こうって約束をしてたっけ。
【LINE 1-a】 帰投、それぞれの
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