森に迷い込んだ少年 ③
疲れ果てた少年を蔦で編んだ小屋に休ませ、エリオーンが小さくため息を吐いた時だった。
「よぉ、なんか面白いペットを飼い始めたみたいだな」
黒衣の大悪魔ヴェルハルトが、いつものように裏地の赤いマントをひるがえし、シルクハットを摘まんで挨拶する。
エリオーンは口角を上げ、「やあ、待っていたよ。また会えてうれしい」と迎え入れた。
膨大な魔力を持つ不死の魔法使いでありながら、エリオーンの住まいは驚くほどに質素だ。
森の神木から取れた木材で作られた小屋には、軒下に香草が逆さに吊るされ、窓辺には鉢植えが並んでいる。手製のリースの掛かった扉を開くと、草と土の匂いが柔らかく迎えてくれる。
エリオーンは客人を招き入れ、香草を吊るした天井を見上げながら、ポットに湯を注ぎハーブティを用意した。
「あのペット、この家には入れてやらないのか?」
「ペットじゃないですよ。一時的に保護しているだけ。きっと、すぐにいなくなります」
「そういうとこドライだよな。気に入ったんならべろべろに魔力に漬け込んで操り人形にすりゃいいのに」
こともなげに言うヴェルハルトにエリオーンは肩をすくめた。
「そういうのは必要ないですから。欲しければ、もっと頑丈な種族で作りますし」
じっと視線を向けるエリオーンに、ヴェルハルトは「そうか」と視線をそらし、咳ばらいしてわざと話題を反らす。
「それで、あの人間、どっかの国の王子だろ。見たことがあるぜ。ドロドロぐちゃぐちゃの王位継承争いしてる国だ」
エリオーンはハーブティを注ぎながら微笑む。
「そうらしいですね。怪我をして森にまで逃げ込んで来たんです。小さくて弱々しいのに懸命で……おもしろいでしょう?」
ヴェルハルトは鼻で笑い、肩を揺らした。
「俺も大概だけど、お前も相当だな」
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