料理バカおっさんの転生ド田舎食堂物語。前世で散々こき使われたので、今度こそ好きなことしかしないと夢中で飯を作っていたら、S級美人冒険者や聖女が常連になっていた~なお、知らぬ間に包丁一振りで世界最強~

のすけ

第1話 おっさん、転生して料理バカ道を突き進む

「ふあぁああ~~店長ぉ~この朝定食~おいしぃい~~」

「おう、たりめぇだ。気合入れて作ったからな」


 俺は荒馬 繁(あらうま しげる)、36歳のおっさんだ。この異世界では「シゲル」とか「店長」と呼ばれている。


 ここは剣と魔法のファンタジー世界。

 だが俺が今いるのは、王城でも冒険者ギルドでも教会でもない。辺境の小さな町にひっそり構えた、一軒のド田舎食堂だ。


「はむっ……!」


 栗色の髪をふわりと揺らして、琥珀色の瞳を輝かす女の子。

 このちっこい美少女はコレット。我がド田舎食堂たった1人のホールスタッフである。


「んん~!これ、本当に美味しいですぅ~! 卵がこんなにフワフワで中にトロリとしたのが……もう最高ですよぉ〜!」


 コレットが卵焼きを口にいれるや、彼女の目が大きく見開かれる。ふわっと広がる卵の甘みとだしの旨味が舌の上で溶け合い、幸せそうにほっぺたを押さえた。


 本当に美味そうに食べてくれるんだよな、この子。


「店長~その神棚毎日お供えしてますねぇ~」

「ああ、約束だからな」


 俺はコレットに出した朝定食と同じものをゆっくりと神棚に置いた。


 すると……


「ひゃぁああ! また!?」


 コレットが目を丸くして叫ぶ。神棚に供えた朝定食が煙のように消えたからだ。


 たく……そこまでがっついてくれるとは。うれしい限りだ。


「いつものことだ。神様、腹ペコみたいだな」




 ◇◇◇




 俺は転生者で元日本人だ。

 料理が好きで、飯を作っている時ほど楽しい時間はない。


 だが、前世ではその楽しさを満喫することは出来なかった。ブラック店舗でこきつかわれる日々しかなかったからだ。


 店長や先輩にはいつも「まだまだ未熟だ」と言われ続け、厨房では雑用専門のまま十数年。

 店の掃除から食材運び、はては意味不明なビラ配り。山のような野菜の下ごしらえから千切り、魚の内臓取り―――

 どれも誰よりも早く、正確にこなした。

 わずかに捻出した隙間時間に自作の料理を見せるも、すべてゴミ箱に捨てられる。


「お前にはまだ早い」の一言で、客の前に立ち料理を振るう機会は一度も与えられなかった。

 むろん楽な世界でないことは百も承知だったが、あまりにもブラックすぎた。

 新人はみんな耐えられずに辞めていく。社長の息子なる人物は、ろくに調理も学ばないうちから客前にたつ。


 それでもいつか報われると頑張ってきたが、365日無休というもはやブラックすら霞むほどの地獄が俺の命を削り、そしてある日目が覚めると―――


 綺麗な女性が立っていた。


 目がつぶれんばかりの輝きを放ち、威厳に満ちた立ち振る舞い。

 俺の目の前に立っていた女性は、女神さまだった。


 自分が死んだという事を知らされると同時に、俺は女神さまに選ばれたらしい。


「やり残したことはありますか?」


 女神さまがその大きく神々しい瞳をこちらに向けた。


 俺のやりたかったこと……


「好きな時に好きなだけ料理してぇ! ただただ飯をつくりてぇ! んでもって、食ったやつの最高の笑顔をみてぇ!!」


 女神さまの問いに俺は即答した。


 飯を好きに作る。たったそれだけのこと。

 それは前世でずっとため込んでいた俺の想いだ。


「なるほど……わかりました。では最終試練です。シゲルよ、なにか作りなさい」

「試練? 作るって?」


「もちろん、料理に決まってます! これは試練なのです(じゅるり)」


 女神さまはよだれをたらしていた。

 神々しい威厳が微妙なかんじになってるが、そんなこと俺には関係ない。


 俺の料理を食いたいという人がいる。

 それだけでじゅうぶんだ。


 心を込めてつくった。


「―――できたよ。どうぞ」

「い、いただきま~~~す!!」


 俺の言葉が終わる前に、女神さまは俺が作ったかつ丼にかぶりつく。

 ひと口食べた途端―――

 その神々しい瞳をビビるぐらい見開いて。



「きゅぁあああああ! うんまぁあああい!!」



 すごい声でた。


 奇声とともに猛烈な勢いでかつ丼をかき込む女神さま。もう威厳はどっかにいってしまった。だが……美味そうに食ってくれるな。


 ああ……なんだこれ。

 なんか苦労が報われたような感覚が滲んできた。


「ぷはああぁ~~美味しかったぁ~~~」


 すっごく満足げな笑みをこちらに向けてきた女神さま。

 こりゃたまらんな。


 神様が最後にご褒美をくれたのだろうか。

 いや神なら目の前にいるか……綺麗なお顔にごはん粒つけてるけど。


「これは文句なく合格ですね! はい、シゲル君。あなたには異世界でもう一度人生を楽しむチャンスをあげま~す!」


「おお、マジか! もう一回料理を作れるのか!!」


「ふふ、そうよ。良かったわね~。あ、そうだシゲル君、なにか欲しいスキルあるかしら?」


 スキル? ああ、特殊能力みたいなやつか。


「いや、とくにはいらんよ」


 俺は勇者になる気も大魔導士になる気も姫を助ける気も魔王を倒す気もない。


 とことん飯を作りたい。料理に明け暮れたい。

 今度こそ、好きなことやりまくる。誰にも縛られないで。


 俺の望みはそれだけだ。


「あら、本当にいいの?」

「ああ、自分で好きなことをやりたいからな」


「ふふ。わかったわ。シゲル君の意志を尊重します。ただし、【女神のオマケ】だけは付与するわよ。すべての転生者に付与する決まりだから。まあこれはスキルのようなたいそうなものじゃなくて、これからシゲル君が健やかに育つようにってお守りみたいなものね」


 健康お守りか。それはありがたいな。

 それから女神さまは転生セットのひとつと言いつつ、小さなサイドポーチをくれた。

 なんでも収納できる優れものらしい。


「あ、あと。神棚に食事のお供えはするように(じゅるり)。もちろんシゲル君がつくったものよ(じゅるり)」

「ああ、わかった。必ずうまい飯を供えるよ」


 こうして俺はよだれが垂れている女神さまによって、この異世界に転生した。




 ◇◇◇




 転生して36年後―――。



「店長~~表の掃除おわりました~」

「おう、おつかれ」


 俺は異世界で貯めた資金を使い、1年前に自分の店をもった。

 それがこの「ド田舎食堂」だ。


 ここはグリニア王国の辺境の地メタリノである。王都からはかなり離れていて、町の規模も小さく畑広がる緑豊かな地。ようは超ド田舎だ。


「つぎ、店内の掃除しますね~」

「え? 休憩はいいのか?」

「いやいや、さっき表の掃除しただけですよ!?」


 小顔をぷくっと膨らませて、もう~と呆れ顔をするかわいい美少女コレット。

 彼女は1週間前に店前で行き倒れていたのを俺が助けた。


 たしか歳は16だったか。行く当てもなく、うちで働きたいというので雇うことにした。

 王都の料理店でもホール接客をしていたらしいが、深い事情は聞いていない。彼女が話したくなったら話すだろう。


「ふぁ~~何度見ても立派な厨房ですね~」


 コレットが客席を掃除しながら、カウンターごしに厨房を覗き込む。


「ここにはけっこう金をかけたからな」


 うまい料理を作るには、良い厨房は必須だ。ド田舎食堂を建てるときも、ここはかなりこだわった。


「ちょっと個人店にしては凄すぎですけどね……調理器具もですけど、冷気を常に出す魔導冷蔵庫とか。しかも超大型って…こんなの超一流レストランにしかないですよぉ~」


「ほう、これの凄さが分かるとは。やるじゃないか、コレット」

「で、こんな凄い厨房に資金を使いすぎて、肝心な立地がこんなど田舎になったということですね」


「……………………ほう、そこまで読み切るとは。やるじゃないか、コレット」


「2回目の「ほう」、とても間が長かったですね」


「…………」


「店長? あ、ごめんなさい……助けてもらったのになんか偉そうに」


 急にハッとして頭を垂れる美少女。

 この子も飲食関係が好きなんだろう。調理器具や設備を見る目が嫌な感じしないからな。


「かまわんよ。年相応らしく、ちゃんと感情を表にだせよ」

「もうっ、また子供扱いして! 私16歳の麗しきレディですからね!」


 俺は再び頬を膨らませたコレットをなだめつつ、俺は会話を続けた。


「資金ならまだ多少はあるぞ。王都のクソ高い賃料だとヤバかったが、このド田舎なら当面はなんとかなる。だからコレットの給金もちゃんと出るから安心しろ」

「むぅ……私の言いたかったのはお給金のことじゃなかったのに……」


 俺の店、閑古鳥が鳴いていることを心配してくれているのだろう。

 まあ、客はちょっとずつでいいんだ。有名店とか、王都出店とかフランチャイズ化とかはまったく興味がない。

 今度こそ、好きなことするって決めたからな。


「さて、そろそろ昼のまかない食うか?」

「ええ! まだお客さん1人も来てないですよ!?(くぅ~)」


 コレットのお腹から可愛い声が聞こえた。


「おまえさんの胃袋は、そう思っていないようだぞ」

「むぅ~~年頃の女の子は栄養がたくさん必要なんです!」


「ははっ、そうか。んでなんかリクエストはあるか?」

「ええ、好きなの言っていいんですか!!」


 コレットの瞳がキラッキラに輝いている。

 この子は食べるのが本当に好きなんだな。


「え、え~~と。以前食べた「かつ丼」て料理がいいです!」


 ふむ、俺は魔導冷蔵庫を開けて「おっと」と声を漏らす。


「あ、もしかして食材切らしているなら別の……」

「大丈夫だ」

「え? でも食材ないのに……」


 せっかくコレットが「かつ丼」食いたいって言ってるんだ。

 それに俺自身が作りたくてウズウズしはじめてるからな。


「よし、ちょっくら食材の(ドラゴン)とって来るわ。すぐ戻る!」



「ええっ!? ちょ、いまなんて……ドラゴンって聞こえたような……」



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【読者のみなさまへ 新作投稿開始のお知らせ】


左遷された転生おっさん三等騎士、【現代フード召喚】でうまうま辺境スローライフ勤務を冷酷剣姫やポンコツ美少女精霊使いたちと謳歌する~食文化の遅れた異世界で現代フード出しまくり~


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こちらの作品も是非お読みください!


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