1-2: 『正しい小説の書き方』


『正しい小説の書き方』

――既存の“正しい論”を批評し、その虚構を暴く。



書名:正しい小説の書き方

著者:陽月 透(小説家)


著者略歴:

『放課後スワイプ症候群』で第7回カルキュレ文芸オンライン大賞〈特別賞〉 を受賞しデビュー。

 受賞作は『放課後スワイプ・シンドローム ~Carte.1: あの娘の笑顔が消えない~』と改題され刊行、全3巻にて完結。

その他著作:

『辺境ギルドの鑑定士は静かに暮らしたい』……①~③

『春待ちバス停、左ポケットに君』……①・②

近刊準備中の他、Web/誌面で創作エッセイ寄稿あり。


内容紹介(版元コピー):

プロット/キャラ/世界観/更新設計を実務目線で整理。

「冒頭三行」「章頭コンセプト」「連載→書籍化の再設計」など、再現可能な手順であなたの小説を変える!



目次(全章・詳細)


はじめに ――正しさはある


第1章 アイデアの見つけ方

1-1 日常観察を一行メモに

1-2 if(もしも)で広げる

1-3 “好き”の別角度を盗む

1-4 ニュースの片隅から核を抜く

1-5 メモの温度管理(冷凍→解凍)

1-6 「捨て案」フォルダの作法


第2章 プロットをつくる

2-1 三幕構成の基本

2-2 主人公の欲求/障害

2-3 章頭の感情の変化一行メモ

2-4 サブプロットは厳選

2-5 プロット表サンプル

2-6 崩れた時の戻し方(差し替えの手順)


第3章 冒頭三行の実務

3-1 「状況/異常/約束」を一画面に

3-2 スマホでの見え方を設計する

3-3 情報の粒度と名詞の輪郭

3-4 タイトル/冒頭の相互補完

3-5 書き出しNG集(回避策付き)


第4章 キャラクター設計

4-1 欲求・恐れ・矛盾

4-2 関係性の張力(距離と摩擦)

4-3 役割と機能の重複を削る

4-4 成長の階段(段差を作る)

4-5 名前・口調・視点の整流化


第5章 シーンの目的と成果

5-1 目的→行動→成果の一筆書き

5-2 伏線と回収のタイムライン

5-3 説明を出来事に変換する

5-4 退屈の兆候チェック(5項目)

5-5 削る勇気、移す判断


第6章 連載設計と更新のリズム

6-1 短い山/長い弧

6-2 見出しとサムネの連携

6-3 隔日更新+週次俯瞰の運用

6-4 感想・レビューへの姿勢

6-5 休載と復帰の“予告”設計


第7章 書籍化の再配列

7-1 章の再分配と削除

7-2 連載語り→書籍語りの翻訳

7-3 新規書き下ろしの置き所

7-4 タイトル改題の判断軸

7-5 巻末資料とあとがき


おわりに ――次作予告を添えて(鋭意調整中)



---


立ち読みサンプル(本文抜粋)

第2章 プロットをつくる


2-1 三幕構成とは: 序・破・急の基本


 物語の推進は、序・破・急の三段で設計しましょう。


 序では『基本要素の提示』として人物や状況、基準などを提示しますが、これは最小限で良いことが多いです。あくまでも読者に『まだ話せていない余白』を意識させることが重要です。


 破は『基準を壊す』段階となります。主人公の欲求に対して正面から障害・障壁となるモノをぶつけて、これらの間で摩擦となる構造を作る。ただし、ここで主人公に『小さな勝利』をも与えてはいけません。勝利の錯覚は物語自体の寿命を縮めます、まだその段階では無いです。ただし過度の抑圧は読者に対するフラストレーションを溜めるだけで終わってしまう恐れもあるため、その辺りの匙加減は重要です。希望の光は見せておきましょう。


 急は『回収』であり、収束と跳ねの段となります。出来事だけで終わらせず、「選択の痕跡」を必ず残す。次話や次巻への矢印がここで生まれます。


メモ:

・「序」で説明を完了させない。説明は「破」に運ぶ。

・「破」での困難は、外圧と内的矛盾を両方。

・「急」では余韻ではなく余勢を作る。



ケーススタディ(抄):『放課後スワイプ・シンドローム』Carte.1

 序:席替え当日、メッセージアプリの誤送信で、主人公は“見栄を張った自分”を作ってしまう。

 破:見栄が日常を侵食し始め、友人関係の距離が変わる。誤送信の相手が誰なのか、読者は薄く予感するが、まだ言葉にはならない。(章頭メモ:安心 → ざわめき/ざわめき → 逸脱)

 急:教室ではなく放課後のバス停で、主人公が“偽物の自分”を自分で肯定する。(章頭メモ:逸脱 → 選択)

 ※本書では、これを「序で余白、破で摩擦、急で痕跡」と呼ぶ。





2-2 主人公の欲求/障害


 物語は「主人公が何かを欲する」瞬間から動き出します。まずは欲求を一文で定義しましょう。ここでの欲求は二層(顕在/潜在)で考えると強くなります。

 顕在欲求:表で言語化される目的(例:部活でレギュラーになりたい、彼女と両想いになりたい)

 潜在欲求:本人も直視していない根(例:承認されたい、孤立を避けたい、自分は間違っていないと証明したい)

 この二つがズレているほど、物語の「揺れ」が生まれます。


 次に、欲求に対して「障害」を置きます。障害は三系統で考えると設計が漏れにくいです。

 外的障害:状況・制度・物理的制約(例:試合のルール、金欠、距離)

 内的障害:主人公自身の矛盾・恐れ(例:臆病、プライド、自己否定)

 関係的障害:他者との力学(例:ライバル、家族の反対、友人への嘘)


 ポイントは、各章で「欲求が更新されること」。欲求→行動→障害→結果(変化)→欲求の言い換え……という循環で章は前へ進みます。欲求が弱いと停滞し、障害が弱いと緊張が生まれません。


メモ:

・欲求は「動詞」で書く(ד優しい人になりたい” → ○“彼女に本音を言う”)。

・障害は「名詞」で置けると衝突が設計しやすい(例:貧困/規約/嘘)。

・各章末に「代償」を小さく積む(勝っても何かを失う/保留する)。

・潜在欲求はすぐ満たさない。終盤で顕在欲求とぶつけて「選択」に踏み込ませる。


よくある失敗:

・目的が他者から与えられるだけで「自分の言葉」が無い(操られているだけに見える)。

・障害が手続き(書類/移動)ばかりで、心理的摩擦が薄い。

・“いい人”すぎて何も賭けない(代償がゼロ)。


ミニケース(抄):『放課後スワイプ・シンドローム』Carte.1

 顕在欲求:気になる彼女の前で“いい自分”でいたい。

 潜在欲求:承認が切れない。否定される恐怖を避けたい。

 外的障害:誤送信という事実/教室という監視の場。

 内的障害:見栄と自己嫌悪の往復。

 関係的障害:友人との距離が変わり、嘘を重ねざるを得ない力学。

 章ごとの更新例:

 3章 欲求=バレない → 4章 欲求=“いい自分”を維持 → 5章 欲求=“偽物の自分”を自分で肯定/否定のどちらかを選ぶ(選択の予告)。

 ※本書では、顕在/潜在の二層を「序」で提示しきらず、「破」で露わにし、「急」で衝突させることを推奨する。





2-3 章頭の感情の変化を一行で

 各章の冒頭に、感情のベクトルを一行で書いておきましょう。

 これは作者のための道標であり、読者のための不可視のレールでもあります。あなたが書き進めるため、そして読者に読み進ませるための道筋を端的に表せる物語は『わかりやすい』物語になります。ここが混乱していては、あなたが物語を思い描くこともできないし、そんな物は他人に理解させることもできません。

 例:

 - 3章:不信 → 期待(疑うが、可能性を見つける)

 - 4章:期待 → 破綻(期待が壊れ、動機が塗り替わる)

 - 5章:破綻 → 再起(壊れたから、選べる)



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Q&A(抜粋):プロットが崩れたら?

Q. 予定していない展開の方が“生きて”見えます。戻すべき?

A. 新しい必然が見えたサイン。序・破・急の“矢印”だけ維持し、章の入れ替え/目的の再設定で馴染ませる。

〈補記〉デビュー作では最終章を連載中に差し替えた。大切なのは、読者にとっての必然である。


(※ここでサンプルは終了します。続きは本書で??)



編集部コメント(帯コピー風)

いますぐ実践。“正しい手順”で、あなたの物語は走り出す。


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Amazοnレビュー抜粋

紙鳶_kite/★★★★★

『章頭の「感情一行」は実務で効きました??』

序・破・急で語る整理が分かりやすい。章頭の感情一行メモも実務で効いた。『放課後スワイプ?』のケーススタディ、核心は伏せつつ設計意図が分かるのが良い。


Reading_Log27/★★★★☆

初心者?中級の導入書としては十分。もう少し著者作の具体分解があれば星5。『春待ちバス停、左ポケットに君』の続刊、気長に待っています。


tsubame_note/★★★☆☆

既視感はあるが、序・破・急+感情ベクトルの併用は試す価値あり。チェックリスト運用で未完癖が改善した。図表が製品版のみなのは少し残念。


user_d3fa9c/★★☆☆☆

方向性は正しいと思うが、サンプルの範囲では一般論。著者のラブコメ三部作や恋愛2巻作を読む限り、設計の強度は作品ごとという印象。次作で方法論と実作の接続に期待。





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