第10話 話しかけて来た者は

 俺達が話していたところに、30代半ばくらいの男性客が話しかけてきた。どうやらその人は動画配信の事務所を立ち上げているらしい。


「どうでしょう、僕にサポートさせていただけませんでしょうか?」


 男性客が俺を含む全員に名刺のようなものを渡した後、そう切り出した。


「サポート、ですか?」


 ラノベ専門店のお姉さんはやや困惑しながらも、確認するように質問をした。


「そうです。インフルエンサーのローザさんには必要ないかもしれませんが、もし契約していただけるのなら全力でサポートさせていただきます」


 動画配信の事務所がどういったものかは正直言って分からない。だけど信用していいのだろうか。


「わぁー、すごーい! 大手の事務所だよー」


 そんな疑念を抱いていると、偶然にもローザさんが答えを出してくれた。インフルエンサーが言うのなら間違いないだろう。


「お声がけありがとうございます。大変に光栄なことです。ですが私はこの通り店主をしておりますので、こちらに専念をしなければなりません」


「そうなのですか。僕としても無理やりというつもりは全くありません。それではそちらの方はいかがでしょうか?」


 男性客はそう言って聖女様のほうを見た。もちろん聖女様だということには気が付いていないだろう。


「私ですか? うーん、どうしましょう……」


 聖女様はとまどう。それもそうだ、だって聖女様なんだから。そういえば聖女様って副業OKなのだろうか? 多分だけどダメっぽいな。身分が高いというのも、それはそれで大変そうだ。


 そんなことを考えていると、聖女様と目が合った。助け舟を出してほしいということなのだろうか。どちらにしてもすぐに決断はできないことなので、俺はこう切り出した。


「横からすみません。急なお話なので時間をいただくことは可能でしょうか?」


「失礼ですがあなたは?」


「俺はマネージャーみたいなものです」


 俺はそう説明した。一般人のマネージャーというのもおかしな話かもしれないと思いつつ。


 それに実はあの動画に俺は出ていない。三人の美人お姉さんの中に入るのはどう考えても邪魔だと判断したから。それに炎上したら嫌だし。


「マネージャーさん、ですか」


「あの、やっぱり変でしょうか?」


「いえいえ、全然そんなことありませんよ。今は誰にだって動画配信ができる時代ですからね。それに一人でというのもなかなか大変なので。僕もこういうことに携わる側として、その辺りのことは理解しているつもりです」


 話の分かる人でよかった。俺にとってはそれだけで信用できる。それにローザさんのお墨付きだってあるし。


 そしてひとまずのところは保留ということで解散した。



 その日の夜。聖女様の護衛であるアルマさんに連絡をして、いきさつを話した。どうやら聖女様からもアルマさんに話していたようで、スムーズに説明することができた。


 そして俺としては賛成ということも伝え、あとは返事を待つのみ。


 それから一時間もしないうちにアルマさんから連絡があった。それによると聖女様はかなり乗り気とのこと。


 俺が心配しているのはどちらかというと、聖女様よりも周りの人達の反応だ。

 普通に考えると反対されることは想像に難くない。護衛のことだってあるだろうし、聖女様が簡単に人前に出ることは避けた方がいいだろう。


 聖騎士である俺だって事情を知らなければ反対していたに違いない。


 そしてある意味で肝心ともいえるアルマさん自身の意見はというと、「私が常にお守りするから問題ない」とのこと。

 その他にも国の重要な地位についている人達との橋渡しもしてくれたらしい。頼もしすぎる。もちろん俺だって全力でお守りするつもりだ。



 それから一週間が経ち、俺と聖女様とローザさんの三人で、あの男性客がいるという事務所へやって来た。

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