第22話 距離を置く決意

萌に断られた翌日、俺は学校に行くのが怖かった。


水曜日の朝。

アラームが鳴る。

俺――小林悠斗は、ベッドから起き上がれない。


止める。

(萌に会うのが、怖い)



昨日、告白した。

「好きだ」って言った。

でも、萌は断った。

「今じゃない」

「待ってて」


あの言葉が、頭の中でリフレインする。



時計を見る。

朝の7時。

もう、起きなきゃ。


(行こう)

(萌に会おう)


深呼吸して、ベッドから起き上がる。



制服を着る。

鏡を見る。

目が、赤い。

昨日、あまり眠れなかった。


冷水で顔を洗う。


(どう接すればいいんだ?)

(普通に?)

(でも、普通ってなんだ?)



リビングに行く。

母が、朝食を作っている。


「おはよう」

「おはよ」


母は、俺の顔を見る。

「あまり眠れなかった?」

「……うん」


母は優しく笑う。

「大丈夫。時間が解決してくれるわ」

「そうかな」

「そうよ」



朝食を食べる。

トーストと、スープ。

でも、味がしない。

喉を通らない。


母が言う。

「無理しないでね」

「うん」


家を出る。



学校に向かう道。

いつもの道。

でも、今日は足が重い。


空が、曇っている。

雨が、降りそうだ。


(萌、どんな顔してるかな)


不安。

校門が見えてくる。



教室に入る。

萌が、既に席についている。


いつものポニーテール。

ノートに、何か書いている。


俺に気づいて、少し目を逸らす。


(やっぱり、気まずい)



自分の席に座る。

鞄を置く。


チラッと萌を見る。

萌は、ノートに何か書いている。


でも、ペンが止まっている。

何も書けていない。


(萌も、辛いんだろうな)



クラスメイトが、次々と来る。

田中が、俺に話しかけてくる。


「小林、おはよー」

「おはよ」


「なんか元気ないな」

「ちょっと寝不足で」


田中は、萌の方を見る。

「佐伯さんも、なんか元気ないよな」


俺は、黙る。


田中「何かあった?」

「別に」



田中は、ニヤリと笑う。

「まぁ、いいけど」


そう言って、自分の席に戻る。


(バレてる……かな)

いや、バレてないだろう。

ただの想像だ。



一時間目の授業。

全く集中できない。


萌の横顔が見える。

真面目に授業を受けている。


でも、時々。

ペンを持つ手が止まる。

俯く。


(萌……)


教科書を見る。

でも、文字が頭に入ってこない。



二時間目も、三時間目も。

同じ。


ただ、時間が過ぎるのを待つだけ。


萌の方を、チラチラ見てしまう。

萌も、時々こっちを見ている気がする。

でも、目は合わない。



昼休み。

俺は、購買でパンを買う。

教室に戻る。


斉藤が、俺の席に来る。

小声で言う。


「おい」

「ん?」

「昨日、どうだった?」



俺は、周りを見る。

誰も聞いていない。


「……断られた」


斉藤は、驚く。

「マジで?」

「うん」

「なんで?」


俺は、萌の言葉を思い出す。

「萌が……自分の足で立つまで待ってほしいって」



斉藤は、少し考える。

「それって……家族のこと?」

「多分」


沈黙。


斉藤「お前、どうすんの?」

「待つ」


「マジで?」

「うん。萌が、それを望んでるなら」



斉藤は、俺の肩を叩く。

「お前、偉いな」

「偉くないよ。ただ……」

「ただ?」

「萌のこと、好きだから」


斉藤は、少し笑う。

「そっか。頑張れよ」

「ありがと」



斉藤が去った後。

俺は、一人でパンを食べる。


窓の外を見る。

空が、暗くなってきている。


やっぱり、雨が降りそうだ。



教室の反対側。

萌が、女子グループと一緒にいる。

笑っている。

話している。


でも、その笑顔は。

(無理してる)

そう見える。



午後の授業。

四時間目。

五時間目。


やっと、終わる。


HR。

担任が、前に立つ。


「はい、連絡事項。来週、修学旅行があります」


クラスがざわつく。

「京都です。班分けは、もう決まってますね」

「はーい」



修学旅行。

俺は、萌と同じ班じゃない。

萌は、女子グループ。

俺は、男子グループ。


(修学旅行、どうなるんだろう)

(萌と、話せるのかな)


不安になる。



HR終了。

放課後。


俺が下駄箱で靴を履き替えていると、萌が来る。


気まずい空気。


萌が、先に話しかける。

「悠斗」

「ん?」



「昨日は、ごめん」

俺は、首を横に振る。

「謝らなくていいよ」


萌は、俯く。

「でも……」

「萌が決めたことだろ?」

「うん……」

「俺は、待つよ」



萌が、顔を上げる。

目が、潤んでいる。

「ありがとう」


二人とも、何も言えない。

ただ、そこに立っている。


周りの生徒が、通り過ぎていく。



それから。

萌が、先に歩き出す。

「じゃあね」

「うん」


俺は、その背中を見送る。

(萌……)

(頑張れよ)



校門を出る。

一人で、帰り道を歩く。


空が、さらに暗くなっている。

風が、冷たい。


(告白して、断られて)

(でも、萌は俺のことが嫌いなわけじゃない)

(ただ、今じゃないって)



雨が、降り始める。

小雨。

傘を差す。


(待つしかない)

でも、待つって。

どれくらい?

一ヶ月?

半年?

一年?


(分からない)



途中、コンビニに寄る。

何か、買おう。

喉が渇いた。


店に入る。

飲み物のコーナー。



その時。

萌が、いた。

お茶を手に取っている。


萌も、俺に気づく。



「悠斗……」

「萌」


二人とも、驚いている。

気まずい沈黙。


萌が、先に話す。

「何、買うの?」

「飲み物」

「私も」



二人とも、飲み物を選ぶ。

俺は、コーラ。

萌は、お茶。


レジに並ぶ。

萌が先。

俺が後ろ。



萌が、会計を済ませる。

「ありがとうございました」

萌が、店を出る。


俺も、会計を済ませる。



店を出ると。

萌が、待っていた。

雨の中。

傘を差して。


「一緒に、帰らない?」


俺は、驚く。

「いいの?」

「うん」



二人で、並んで歩く。

久しぶりの、この感じ。


雨の音。

傘に当たる音。

沈黙。


でも、悪くない沈黙。



萌が、先に話す。

「修学旅行、来週だね」

「うん」

「京都、楽しみ」

「そうだな」


また沈黙。



俺が、話す。

「萌、家族と……向き合うんだろ?」

「うん」

「大変だと思う」

「うん……」


萌は、少し笑う。

「でも、やらなきゃ」



俺は、萌を見る。

「無理しないでな」

「ありがとう」


雨が、少し強くなる。

二人とも、歩くペースを上げる。



それから。

萌の家の近くに着く。


「ここで」

萌が言う。

「うん。じゃあね」

「うん。また明日」


萌が、歩いて行く。



俺は、その場に立っている。

雨の中。


萌の背中が、小さくなっていく。


(萌……)

(頑張れよ)


そう思いながら、俺も歩き出した。



家に着く。

「ただいま」


母が出てくる。

「おかえり。雨、大丈夫だった?」

「うん」

「今日、萌ちゃんと会った?」

「うん。帰り道で」



母「そう。良かったわね」

「まぁ……」


母は、俺の顔を見る。

「でも、まだ辛そうね」

「……うん」


母は、優しく笑う。

「時間がかかるわ」

「そうだね」

「でも、待ってあげてね」

「うん」



部屋に入る。

ベッドに座る。

窓の外を見る。


雨が、強くなっている。

音が、窓ガラスを叩く。



スマホを見る。

萌からのLINEは、ない。

当たり前だ。

さっき、別れたばかり。


でも。

(送ろうかな)


指が、画面の上で止まる。



(いや、やめよう)

(今は、そっとしておこう)


画面を閉じる。



窓の外を見る。

雨が、降り続いている。


(修学旅行)

(来週)

(萌と、話せるかな)


不安と、期待が混ざる。



(待つ)

(萌が、自分の足で立つまで)


そう決意して、目を閉じた。



でも、眠れない。

萌の顔が、浮かんでは消える。


今日の、下駄箱での顔。

コンビニでの顔。

雨の中、歩く後ろ姿。


全部、愛おしい。



(萌……)

小さく、呟く。

(待ってる)


雨の音だけが、響いている。



--------

【あとがき】

🌟沢山のフォローやお星さま、ハート、本当にありがとうございます!

皆さんの応援がモチベーションになっています(⁎˃ᴗ˂⁎)

これからもどうぞよろしくお願いします✨

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る