第22話 距離を置く決意
萌に断られた翌日、俺は学校に行くのが怖かった。
水曜日の朝。
アラームが鳴る。
俺――小林悠斗は、ベッドから起き上がれない。
止める。
(萌に会うのが、怖い)
*
昨日、告白した。
「好きだ」って言った。
でも、萌は断った。
「今じゃない」
「待ってて」
あの言葉が、頭の中でリフレインする。
*
時計を見る。
朝の7時。
もう、起きなきゃ。
(行こう)
(萌に会おう)
深呼吸して、ベッドから起き上がる。
*
制服を着る。
鏡を見る。
目が、赤い。
昨日、あまり眠れなかった。
冷水で顔を洗う。
(どう接すればいいんだ?)
(普通に?)
(でも、普通ってなんだ?)
*
リビングに行く。
母が、朝食を作っている。
「おはよう」
「おはよ」
母は、俺の顔を見る。
「あまり眠れなかった?」
「……うん」
母は優しく笑う。
「大丈夫。時間が解決してくれるわ」
「そうかな」
「そうよ」
*
朝食を食べる。
トーストと、スープ。
でも、味がしない。
喉を通らない。
母が言う。
「無理しないでね」
「うん」
家を出る。
*
学校に向かう道。
いつもの道。
でも、今日は足が重い。
空が、曇っている。
雨が、降りそうだ。
(萌、どんな顔してるかな)
不安。
校門が見えてくる。
*
教室に入る。
萌が、既に席についている。
いつものポニーテール。
ノートに、何か書いている。
俺に気づいて、少し目を逸らす。
(やっぱり、気まずい)
*
自分の席に座る。
鞄を置く。
チラッと萌を見る。
萌は、ノートに何か書いている。
でも、ペンが止まっている。
何も書けていない。
(萌も、辛いんだろうな)
*
クラスメイトが、次々と来る。
田中が、俺に話しかけてくる。
「小林、おはよー」
「おはよ」
「なんか元気ないな」
「ちょっと寝不足で」
田中は、萌の方を見る。
「佐伯さんも、なんか元気ないよな」
俺は、黙る。
田中「何かあった?」
「別に」
*
田中は、ニヤリと笑う。
「まぁ、いいけど」
そう言って、自分の席に戻る。
(バレてる……かな)
いや、バレてないだろう。
ただの想像だ。
*
一時間目の授業。
全く集中できない。
萌の横顔が見える。
真面目に授業を受けている。
でも、時々。
ペンを持つ手が止まる。
俯く。
(萌……)
教科書を見る。
でも、文字が頭に入ってこない。
*
二時間目も、三時間目も。
同じ。
ただ、時間が過ぎるのを待つだけ。
萌の方を、チラチラ見てしまう。
萌も、時々こっちを見ている気がする。
でも、目は合わない。
*
昼休み。
俺は、購買でパンを買う。
教室に戻る。
斉藤が、俺の席に来る。
小声で言う。
「おい」
「ん?」
「昨日、どうだった?」
*
俺は、周りを見る。
誰も聞いていない。
「……断られた」
斉藤は、驚く。
「マジで?」
「うん」
「なんで?」
俺は、萌の言葉を思い出す。
「萌が……自分の足で立つまで待ってほしいって」
*
斉藤は、少し考える。
「それって……家族のこと?」
「多分」
沈黙。
斉藤「お前、どうすんの?」
「待つ」
「マジで?」
「うん。萌が、それを望んでるなら」
*
斉藤は、俺の肩を叩く。
「お前、偉いな」
「偉くないよ。ただ……」
「ただ?」
「萌のこと、好きだから」
斉藤は、少し笑う。
「そっか。頑張れよ」
「ありがと」
*
斉藤が去った後。
俺は、一人でパンを食べる。
窓の外を見る。
空が、暗くなってきている。
やっぱり、雨が降りそうだ。
*
教室の反対側。
萌が、女子グループと一緒にいる。
笑っている。
話している。
でも、その笑顔は。
(無理してる)
そう見える。
*
午後の授業。
四時間目。
五時間目。
やっと、終わる。
HR。
担任が、前に立つ。
「はい、連絡事項。来週、修学旅行があります」
クラスがざわつく。
「京都です。班分けは、もう決まってますね」
「はーい」
*
修学旅行。
俺は、萌と同じ班じゃない。
萌は、女子グループ。
俺は、男子グループ。
(修学旅行、どうなるんだろう)
(萌と、話せるのかな)
不安になる。
*
HR終了。
放課後。
俺が下駄箱で靴を履き替えていると、萌が来る。
気まずい空気。
萌が、先に話しかける。
「悠斗」
「ん?」
*
「昨日は、ごめん」
俺は、首を横に振る。
「謝らなくていいよ」
萌は、俯く。
「でも……」
「萌が決めたことだろ?」
「うん……」
「俺は、待つよ」
*
萌が、顔を上げる。
目が、潤んでいる。
「ありがとう」
二人とも、何も言えない。
ただ、そこに立っている。
周りの生徒が、通り過ぎていく。
*
それから。
萌が、先に歩き出す。
「じゃあね」
「うん」
俺は、その背中を見送る。
(萌……)
(頑張れよ)
*
校門を出る。
一人で、帰り道を歩く。
空が、さらに暗くなっている。
風が、冷たい。
(告白して、断られて)
(でも、萌は俺のことが嫌いなわけじゃない)
(ただ、今じゃないって)
*
雨が、降り始める。
小雨。
傘を差す。
(待つしかない)
でも、待つって。
どれくらい?
一ヶ月?
半年?
一年?
(分からない)
*
途中、コンビニに寄る。
何か、買おう。
喉が渇いた。
店に入る。
飲み物のコーナー。
*
その時。
萌が、いた。
お茶を手に取っている。
萌も、俺に気づく。
*
「悠斗……」
「萌」
二人とも、驚いている。
気まずい沈黙。
萌が、先に話す。
「何、買うの?」
「飲み物」
「私も」
*
二人とも、飲み物を選ぶ。
俺は、コーラ。
萌は、お茶。
レジに並ぶ。
萌が先。
俺が後ろ。
*
萌が、会計を済ませる。
「ありがとうございました」
萌が、店を出る。
俺も、会計を済ませる。
*
店を出ると。
萌が、待っていた。
雨の中。
傘を差して。
「一緒に、帰らない?」
俺は、驚く。
「いいの?」
「うん」
*
二人で、並んで歩く。
久しぶりの、この感じ。
雨の音。
傘に当たる音。
沈黙。
でも、悪くない沈黙。
*
萌が、先に話す。
「修学旅行、来週だね」
「うん」
「京都、楽しみ」
「そうだな」
また沈黙。
*
俺が、話す。
「萌、家族と……向き合うんだろ?」
「うん」
「大変だと思う」
「うん……」
萌は、少し笑う。
「でも、やらなきゃ」
*
俺は、萌を見る。
「無理しないでな」
「ありがとう」
雨が、少し強くなる。
二人とも、歩くペースを上げる。
*
それから。
萌の家の近くに着く。
「ここで」
萌が言う。
「うん。じゃあね」
「うん。また明日」
萌が、歩いて行く。
*
俺は、その場に立っている。
雨の中。
萌の背中が、小さくなっていく。
(萌……)
(頑張れよ)
そう思いながら、俺も歩き出した。
*
家に着く。
「ただいま」
母が出てくる。
「おかえり。雨、大丈夫だった?」
「うん」
「今日、萌ちゃんと会った?」
「うん。帰り道で」
*
母「そう。良かったわね」
「まぁ……」
母は、俺の顔を見る。
「でも、まだ辛そうね」
「……うん」
母は、優しく笑う。
「時間がかかるわ」
「そうだね」
「でも、待ってあげてね」
「うん」
*
部屋に入る。
ベッドに座る。
窓の外を見る。
雨が、強くなっている。
音が、窓ガラスを叩く。
*
スマホを見る。
萌からのLINEは、ない。
当たり前だ。
さっき、別れたばかり。
でも。
(送ろうかな)
指が、画面の上で止まる。
*
(いや、やめよう)
(今は、そっとしておこう)
画面を閉じる。
*
窓の外を見る。
雨が、降り続いている。
(修学旅行)
(来週)
(萌と、話せるかな)
不安と、期待が混ざる。
*
(待つ)
(萌が、自分の足で立つまで)
そう決意して、目を閉じた。
*
でも、眠れない。
萌の顔が、浮かんでは消える。
今日の、下駄箱での顔。
コンビニでの顔。
雨の中、歩く後ろ姿。
全部、愛おしい。
*
(萌……)
小さく、呟く。
(待ってる)
雨の音だけが、響いている。
--------
【あとがき】
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これからもどうぞよろしくお願いします✨
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