第5話 本当は気づいてる

俺が萌の変化に本当に気づいたのは、誰もいない放課後の教室でだった。


放課後。

俺は一人、教室に残って課題をしていた。


萌も、残っている。


二人きりの教室。

窓から、夕日が差し込んでくる。


オレンジ色の光が、机を照らしている。


俺は課題をしているふりをして、チラッと萌を見た。


髪型。

今日は巻いている。いつものポニーテールじゃない。


メイク。

少し濃い。でも、萌には似合っている。


仕草。

ペンを回す癖は、変わらない。


外見は変わっている。


でも、それだけじゃない。


何かが、違う。


「距離」だ。


萌は、俺との距離を取っている。


漫画の話も、ゲームの話も、もうしない。

一緒に帰ることも、ない。


そして気づく。


(萌が……可愛くなってる)


心臓が、ドキッとした。


(いや、違う。前から可愛かった)

(でも俺が、見ようとしなかっただけだ)


でもすぐに、頭を振る。


(いや、こいつは幼なじみだ)


そう自分に言い聞かせる。



萌が、俺に話しかけてきた。


「ねぇ、悠斗」


「ん?」


俺は顔を上げた。


萌は課題のノートから顔を上げ、俺を真っ直ぐ見ている。


「私って……女の子に見える?」


その質問は、真剣だった。


冗談じゃない。

本気で、聞いている。


俺は答えられなかった。


言葉が、出てこない。


心臓が、バクバクする。


(見える。見えてる)


でも、言えない。


(なぜ?)


(俺は、何が怖いんだ?)


沈黙が続く。


5秒。


10秒。


15秒。


教室の時計の音だけが、カチカチと響いている。


萌は、俺の沈黙を、否定と受け取った。


目に、涙が浮かぶ。


「やっぱり……ダメなんだ」


「萌……」


「私、何やってんだろ」


涙が、頬を伝う。


一筋、また一筋。


「ずっと一緒にいたのに、悠斗は何も見てくれない」


「漫画も、ゲームも、全部やめて」


「距離も置いて」


「それでも、悠斗は……私のこと、女として見てくれない」


俺は、何も言えない。


胸が、苦しい。


「ごめん…俺…」


言葉が、続かない。


萌は涙を拭いながら、笑おうとした。


でも、笑えない。


「ごめんね、変なこと言って」


そう言って、萌は立ち上がった。


鞄を掴んで、走って教室を出て行く。



一人残された俺。


夕日に照らされた教室。


「俺は、何から逃げてるんだ」


(萌が泣いてる。俺のせいで)


(本当は、気づいてる。萌が可愛いって。女の子だって)


(でも、認められない)


(なぜ?)


心の奥から、答えが浮かび上がってくる。


(……怖いんだ)


(萌を女として見たら、何かが壊れる気がする)


(今の関係が、失われる気がする)


(変わることが、怖い)


中学の時。

水野さんに告白されて。

断って。


それから、彼女は学校に来なくなった。


俺が、壊したんだ。


だから、萌は。

萌だけは、壊したくない。


でも、ふと気づく。


(でも……もう壊れかけてるんじゃないのか?)


俺は、頭を抱えた。


(俺、何やってんだ)



【視点切り替え:萌】


廊下を走りながら、涙が止まらない。


(私、本当にバカだ)


(悠斗は私のこと、女として見てくれない)


(ずっと、ずっとそうだった)


階段を下りる。

足音が、空虚に響く。


(何をやっても、無駄なんだ)


(髪型変えても、距離置いても、何も変わらない)


下駄箱に着く。

靴を履き替える。

手が、震えている。


(でも…諦めきれない)


校門を出る。

夕日が、眩しい。


(悠斗は、私の全部なんだ)



帰り道を、一人で歩く。


(家に帰っても、誰もいない)


(お父さんは仕事で遅い。お母さんは部屋に閉じこもってる)


(二人とも、私を見てくれない)


涙が、また溢れる。


家に着いた。


「ただいま」


返事は、ない。


リビングに行く。

テーブルの上に、メモ。


「夕飯は冷蔵庫。チンして食べて」


冷蔵庫を開ける。

ラップのかかった皿。一人分。


チンして、テーブルに座る。


テレビをつける。

誰かが、笑っている。


でも、うるさい。

消した。


静かなリビング。

一人で食べる夕飯。


箸を、口に運ぶ。


味が、しない。


二階から、お母さんの気配がする。

でも、降りてこない。


お父さんは、まだ帰ってこない。


(「ただいま」って言っても、返事はない)


(夕飯を一人で食べて、一人でテレビを見て、一人で寝る)


(そんな毎日)


箸を置いた。

涙が、一筋流れる。


(悠斗だけが……悠斗だけが、私を見てくれる人だと思ってた)


(私と笑ってくれて、話を聞いてくれて、一緒にいてくれる)


(でも、それも……幻想だったのかな)



部屋に戻った。


ベッドに座って、スマホを見る。


悠斗からのLINEは、ない。


彩からメッセージが来ている。


「萌ちゃん、大丈夫? 今日元気なかったけど」


私は、返信した。


「うん、大丈夫。ちょっと疲れただけ」


嘘だ。


全然大丈夫じゃない。


でも、彩に心配かけたくない。


窓の外を見る。

夕焼けが、オレンジ色に染まっている。


空を見上げる。


(でも……まだ、諦めたくない)


(もう少し、もう少しだけ頑張ってみる)


(彩に相談してみよう。本気で、変わり方を教えてもらおう)


(それでもダメなら……)


涙を拭う。


(そのときは、本当に諦める)


(悠斗のこと、幼なじみとして大切にする)


(それだけでいい、って自分に言い聞かせる)


でも、心の奥では分かっている。


(嘘だ。諦められるわけない)


ベッドに横になる。


天井を見つめる。


(だって……)


(悠斗が好きだから)


涙が、また流れる。


止まらない。


枕が、濡れていく。


(悠斗……)


(私は、どうすればいいの?)


答えは、出ない。


ただ、悠斗の顔が浮かぶ。


困ったような顔。

笑った顔。

真面目な顔。


全部、好きだ。


(好きなのに)


(届かない)


でも。


(諦められるわけない)


目を閉じる。


(だって……)


(悠斗が好きだから)



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【あとがき】

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