【海の底の空を超えて⑪】

「アサ!前!前!!」


 風を切り裂き、虹色の軌跡を描きながら飛ぶミーレスを迎えたのは、ワイバーンから放たれた火球だった。


「盛大な花火で迎えてくれるじゃねぇか」


 ゴジュモスとは比べるまでもない迫力の火球を前に、剣を構え一閃。


 火球は真っ二つになり、ミーレスの背後で激しい爆発を起こし、消えていった。


「行くぞ!」


 そのまま爆発の衝撃で加速しながら、ワイバーンに迫る。


 火球を切る様子を見て、空中戦では分が悪いと判断したのか、ワイバーンは地上に降り立った。


「チェスト!」


 それを好機とし、麻葉は剣を大振りに構え、上段から思いっ切り振るう。


「キィィィィィィイ!!」


 奇っ怪な咆哮と共に、ワイバーンはそれを翼で受け止め、ガードする。


「なにッ!?」


 勢いが乗った剣は麻葉の予想を裏切り、翼を切れずに、小さな傷をつけただけで終わってしまう。


 麻葉はそれを見て思わず剣を引き、一定の距離を取った。


(あんまり、効いてない?)


 思えばゴジュモス以来始めての戦闘。


 通常の戦闘をこなしたことのない麻葉は、ワイバーンの硬さに困惑していた。


「レベルは……【レベル3】!?こんな、ものなのか?」


 確かにまだ自分はレベル1だが、だからと言って傷もつけられないのか?


(不味い。他に武装もない。どうやって戦う……?)


 やっと【ミーレス】と出会ったんだから。――やっと、ここまで心が躍っているんだから。


 もう、負けたくない。もう、逃げたくない。


「アサ!オーラを剣に乗せるのよ!」


 不安が頭を覆う中で、フィーの言葉が麻葉の思考を切り開いた。


「オーラを、剣に?」


「オーラは守る力にも、攻める力にもなるの!この世界の生き物は、オーラで体を守ってるのよ」


 確かによく見ると、ワイバーンの身体の表面に薄く虹色の光が見える。


「あれが、オーラ?」


「そう!だから、剣にオーラを宿して対抗するの!私も力を貸すから!」


 ポケットから出て、宙を飛ぶフィーの身体が虹色に輝く。


 温かい。まるで冷たい夜の中で毛布に包まったような安心感に包まれ、麻葉はワイバーンに向き直った。


「分かった。力を貸してくれフィー!」


 地上に降りて、剣を構える。


「キィィィィィィ!」


 それを見て、地面を鳴らしながら突撃してくるワイバーン。


「目を閉じて。剣を振る時のタイミングは私が合図するから。アサはオーラに集中して、剣を意識するの。オーラはアサの想いに答えてくれる」


 耳元で聞くフィーの教えに従い、目を閉じる。 


 暗い視界の中で、フィーの鼓動と温かなオーラに導かれ、剣をイメージする。


「それよ。そうするのアサ」


 突撃してくるワイバーンの振動が響く中、麻葉はフィーの声が不思議なほどよく聞こえた。


「もっと光を集めてそれを束ねるの。鋭く、深く、光を」


 フィーの言っていることが、分かる。


(オーラが、光が、私の意志で集まって――刃になっていく)


 オーラが剣へと収束していく。


 刃先に灯った虹色の輝きが、確かな手応えとなって脈打った。


「今よアサ!行っちゃえ!」


 瞬間――剣を振り抜く。


「ハァァァァァァァ!」


 ワイバーンに向かい、ジャストタイミングで振るわれたオーラを纏った剣は、再びガードしようと翼を断つ。


「ギィィィィィ!?」


 剣はそのままワイバーンの身を切り裂き、一刀両断されたワイバーンは緑の血を流し、絶命した。


「ハ、ハハッ。やれたよフィー」


 震える麻葉の声は、泣き出しそうなほど喜びに溢れている。


「うん……お疲れ様。アサ」


 達成感と共に押し寄せる心地良い疲労感に、麻葉とフィーはお互いを見て、満足気に笑う。


「何とかなるもんだなって、あれ?ミーレス……動かない?」


 疲れた体で城に戻ろうとし、ミーレスを操作しようとする麻葉。


 だが、うんともすんとも動いてくれない。


「オーラ使い切ったんだもの。当たり前よ。私も飛ぶの限界……」


 フラフラとポケットの中に入り、グッタリするフィーの言葉に麻葉は焦った。


「じゃ、じゃあこれからどうするんだ!?」


「……嫌だけど、城の人に回収してもらいましょう」


「そう、なるのか」


 ジェットに借りを作るのは嫌だったが、それしかないと、コックピットの背もたれに体重を預ける。


「それより、休みましょう。オーラは休憩しないと、回復しないから。ふわぁー……」


「分かった。少し休もう」


「うん。おやすみ、アサ」


「おやすみ。フィー」


 うとうとしていたフィーを寝かして、麻葉はミーレスに優しく言葉をかけた。


「格好良かったよ。お疲れ様」


 そう言いながらレバー撫でながら、身体をゆったりさせ、麻葉は救助を待った。


 ――ミーレスの温かなコックピットの中。


 ただ待つだけだというのに、心地よいゆっくりとした時間がここには流れていた。

―――――――――――――――――――――――

テラ「Q.朝姫ちゃんとフィー何やったの?

A.マ ダ ン テ

 オーラみたいな独自のエネルギーを搭載しているロボットは、独自のマダンテが標準搭載なのですー。

 やった後機体動かなくなるけど」

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