【海の底の空を超えて③】

「ばーかーあーにーきーーーーーー!!!」


 【テラ・レギオンズ】からログアウトした麻葉は、松葉杖を付きながらリビングに行き、光冴を探した。


「おお、麻葉。昼はピザトーストでいいよな」


 ゴジュモスをぶつけられた怒りを、涼しげな顔で流しながら野菜を切る光冴。


「そうじゃないだろ!なんだったんだよゴジュモスは!?」


「あれか?回避型の機体を操るパイロットのテストだよ。よく10分以上粘ったな。すごかったぞ」


 素直に「すごい」と褒める光冴に強く出にくくなるが、何も知らされなかったことは麻葉にとって、モヤモヤした感情がどうしても胸の中に残った。


「……もうちょっとどうにかできなかったのかよ」


「すまなかったって。麻葉なら何とかなるって思ってたからさ。ウインナー厚めでいいか?」


(謝るなよ……兄貴が謝ったら、私も引くしかないだろ)


「厚めがいい。パンはあんまり厚くしないでくれ」


 光冴が謝った手前、何時までも態度に残すのも悪いと思い、怒った口調をできるだけ止めて、座りながらクッションを抱え、料理を待つ。


「分かった」


 その様子に光冴はいつも通りだと笑い、ウインナーを一口サイズに収まる程度に厚く切る。


 パンを無理なく口に入れられる厚さにして、そこに切ったたまねぎとピーマン、先程切ったウインナーを入れ、チーズは端まで届くよう多めに乗せる。


「楽しかったろ」


 オーブントースターを設定しながらそう聞くと、麻葉は少しクッションを抱く手を強め、顔をうずめた。


「楽しかった。これで満足か?」


「嬉しいさ。麻葉も元気そうだしな」


 今まで足を怪我して鬱になっていた麻葉を、光冴は気にしてくれていたのだ。


「またこうして家族の会話ができるのなら、やっぱり買ってよかったよ」


 できあがるトーストを待つ光冴の目はとても優しく、麻葉のことをいつも見守る兄としての光冴そのものだった。


「………ありがとう」


 いつもなら面と向かって言えない言葉だった。だが、この時だけは、聞こえないほどの小さな声でも、光冴に言っておきたかった。


(あーーーーークソ。『ありがとう』ってこんな恥ずかしい言葉だったか?)


 恥ずかしがる麻葉に反応してか、オーブントースターが勢いよく鳴り、ピザトーストができあがる。


「できたぞー」


「……うん」


 麻葉がクッションを置き、光冴がピザトーストを食卓に並べる。


「「いただきます」」


 窓から差し込む陽光があたりの空気を温かくし、2人の昼食を彩る。静かで、優しい食事の時間が始まった。

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