第10話 朝日に照らされ我はゆく2
アムリタに乗りながら完全に水色になった空を見る。
一定の速度で走り抜けてはいるが、乗馬をしたことがない身としては、これが早いのか遅い方なのか分からない。
ただ景色を見ることはできた。カンロの後ろにぴったりとくっつきながら、道をひた走る。
ヴェスタという街は、どういう街だろう。
夜半に通り過ぎてしまった街は綺麗なレンガで家を作っていた。月夜の光りのせいだったのかもしれない。きらきらと輝いて宝石を見ているようだった。
それに、ここは王城、王都と言っていいのか、そこからどのくらいなのだろうか。セキエイの言い方だとこの先は街一つに領土一つ。それで国境を越えるのであれば、このウスマサ帝国は、そんなに広い土地がある国じゃないのかもしれない。
どのくらいか。アムリタがカンロから離れることがないので自分で手綱を握ることもせず、ぼんやりと目の前の黒髪を見る。
あの綺麗だと思っていた金髪が失われるなんて思いせず、すべて簡単に事を成せると思っていた。
今はセキエイの計画通りなんだろう。
夜を走り抜け、輝く石を撒き、あの街でさらになにかを支払い、自分の髪を変え、ぎゅっと胸が痛くなる。それを堪えて、いつもの自分でいようと決心した。
だけど、いつもの自分をセキエイに見せたことがあっただろうか。
電話越しで何度も会っていたが、こうやって生身で会うのは一日目なのである。
近いのに遠くて、恋をしていたのに、それよりも愛が溢れそうだ。
一緒に生きてほしいという願いが、どこまで叶うのか。叶わないのか。一国の王子を、世間が放っておくはずがない。
さっき言っていた、グバンという人のマステールというところだ。
セキエイが口にしたと言うことは捕まる可能性が高いのだろう。
首を振る。どこかで落ち込んでいる自分がいた。
終わりの鐘が見えた気がして、心に嫌な靄がかかる。なにが正解かなんて最初から分かっている。セキエイが言った通り「一緒に生きること」そう生きることだと息を吸い吐いて……なのに、自分なんかがと考えてしまう。
いいや、考えるべきではない。今は目の前のことを考えてセキエイと逃げるのだ。
ふと道がしっかりとした
本物は見たことがなかったが、あんな感じなんだと胸が高鳴った。異世界に来て、セキエイのこと以外で興味がわく。
ヴェスタは街が水に囲まれているのだろうか。いわゆる、水の街、みたいな。
だんだんと近づくにつれ、鼓動が早くなる。
しばし走っていれば、簡単に着いてカンロを撫でたセキエイが腕を振る。振っている先を見ると門の上に人がいて「朝早くどうした」と大きな声がするではないか。
それに「マステール領の商人から急な届け物があって急いでいるんだ。夜通し走ったのでヴェスタで休みたい」とカンロの荷を叩く。
門の上の人は渋い顔をする。跳ね橋を上げ下げするのは大変だろう。渋い顔にもなる。
「もちろん、ただで通るつもりはない」
セキエイはそう言って荷物から袋を取り出して中身を見せると、門兵――そう呼ぼう――の人は目を細めてから「いいだろう」と声を上げて「橋を降ろせ」と声を上げる。
それを合図に橋は降りて来て、門の両隣に人が、門の上にいた兵がこちらを向かい入れてくれた。
「それで?」
傲慢とは言わずとも、胸を張る三人はセキエイ、カンロ、僕にアムリタを何度も見ながら、最終的にはセキエイを見て、なにかと待っている。
セキエイは袋から少量の黒い粒らしきものを見せると兵たちは「動揺」した。
「これ、大丈夫なのかよ。これが商品だろ」
商品? 黒い粒が?
「少量なら別けてもかまわないと旦那さまから言われている。なんせ急なことだから……ただ口外しないでくれ。盗まれると旦那さま……領主さまがなにをするかわからない」
と言って、三人に小さな袋を渡す。
「夜通し走ってきて飛馬も疲れている。少しだけでいい休めるところはないか?」
「分かったいいだろう。宿屋は隠れ宿の方でかまわんか?」
「ありがたい」
「なら、大通りの分かれ道三つ目左の奥の薄暗い所に商人宿がある。あそこは手を出したら痛い目を見ることで有名だ。金があるなら飛馬の面倒も見てくれるだろうよ」
「感謝する」
のけ者された会話劇に、おろおろするよりも無表情でいた方がいいだろうと考えて、顔を俯いて歩きはじめたカンロに続く。
ちらりと見たが門兵は、こちらを見ることなく、手にしたなにかを見ながら笑っている。なにを渡したのか。気になるが、宿に行くと聞こえたから、そこで聞けばいいやと視線をセキエイの背中に移した。
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