第9話 コミュ障、最終層を征き終わる

「……」

「……」


 ドロップしたボーリング球くらいの特大の魔石と、やたら強そうな黒い長剣を抱えて、ふたりは無言になった。


「勝っちゃった、ね……」

「うん……」


 さっきまでの興奮の反動で、呆然としてしまっているのだ。


「……? あ! レベル!」

「うぉ!?!?」


 ふたりは、レベルが大幅にアップしたのを感じた。急いで確認すると、三十。ドラゴン遭遇前は二十程度だったから、一気に十も上がっている。


「え、うわ、これもうよくわかんねぇわ」


 重ね掛けのバフのせいもあり、もう自分の素のステータスがどうなのかまったくわからないあきなんと、


「あ! スキル増えた!? 増えるんだスキル!?」


 ステータスの伸びは悪いものの、スキルにまた変化があった崇。


「え、スキルって増えるんだ……」

「ね……? えっと、『状態異常予防・回復』……状態異常ってあるんだね!?」

「ね!?」


 ちなみに、上級者の間ではスキルが増えることも稀に確認されている。あと状態異常は普通にある。ふたりが攻撃を食らってこなかっただけだ。出会い頭にパァン! 故に。


「あ、ちょちょちょ、あきなん、アレ!」

「ん? おぉ!?」


 崇が目ざとくなにかを見つけた。駆け寄ると、宝箱のようななにか。いや宝箱そのものである。


「宝箱とかもあるんだね!?」

「ね!?」


 ちなみに宝箱の存在自体は確認されている。ダンジョンボスを倒すと出ることがある、といったものなので、ごくごく一部の上級者以外の間では都市伝説のようなものだが。


「開けようぜ!」

「おう! あ、待って、俺が開けるわ。罠とかお約束じゃん」

「! そ、そだね」


 あきなんが慎重に箱を開けると、幸いにして罠はなかった。中を覗き込む。


「……ポーション?」

「虹色のポーション、だねぇ」


 丸底フラスコのような瓶に密閉された、液体。なお、虹色とはゲーマーのいう虹色であって、水に浮いた油とか透明セロファンのようなあの色である。


「あからさまにSSRじゃん」

「ね? 鑑定の人に見てもらったほうがいいかな」

「そうしよ。しまっておくね」


 崇が宝箱ごと抱えて、それからふと思い出した。


「あきなん、パンイチじゃん。借りてるマント羽織っておこ?」

「! そうだった! ……パンイチマント、参上!」

「おまわりさーん!」


 きゃっきゃしているふたりの前に、光の渦が現れた。これが一層へ戻れるという出口だろう。


「……終わっちゃったね」

「ちょっと、寂しいな」

「また、行こう」

「うん!」


 ふたりはちょっとしんみりしながら、光の渦に足を踏み入れるのだった。

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