第2話 コミュ障、長年の友と初対面する

 約束の日。

 動きやすい服装、かつ、少しスタイリッシュに見えるものを選んだ結果、大手メーカーのちょっとお高め黒ジャージ一式に身を包んだ崇は、待ち合わせ場所である暫定ダンジョン協会の前に来ていた。ちなみに時間まではあと三十分はある。

 そわそわ。そわそわ。

 わかりやすくそわそわしながら無駄にSNSをチェックしたり鏡で前髪をチェックしたりメモってきた挨拶をチェックしたりとひたすらチェックしていると、十分も経たないうちに彼の前に誰かが立った。顔を上げる前に、声を掛けられる。


「あの、ナツミちゃん……ですか?」


 いい声をしてやがる。顔を上げると、声に見合った、うぉっ、いい男……


「え……あきなん……?」

「ああ! やっぱりナツミちゃん! 一応初めましてだねー!」


 とても爽やかな笑顔のイケメンがいた。


 あきなんの本名は、秋名尊(あきなたける)というらしい。歳は二十八。崇のほぼ三つ上だ。身長は十センチ上だった。ちなみに崇は自称百七十の百六十九センチである。

 髪も明るい色で綺麗にセットしていて、精一杯の付け焼刃の崇とは雲泥の差だが、同じメーカーの同じ価格帯のジャージ一式なのはとても安心できる。装備の趣味は合う。色は真逆の真っ白で、それがまあよく似合うこと。若奥様にキャッキャされるテニスコーチっぽい雰囲気である(崇の偏ったイメージ)。


「美熟女じゃなかったのは残念だけど、まあいっか~」

「こっちは美少女じゃなくてほっとしたよ。緊張するもんな」

「あはは! ナツミちゃんらしいや」

「うっせ! うっせ!」


 リアル対面は初めてだが、伊達に五年間ほぼ毎日交流していない。驚くほどすぐ馴染んだ。人見知りのはずの崇も自分がコミュ障であることを忘れるくらいである。自然にふたりで協会に入り、あきなんのスキル鑑定を申し込む。


「あ。ナツミちゃん、俺気づいちゃったんだけど」

「何?」

「俺が回復系だったらどうする?」

「……ダンジョンあきらめるかぁ!」

「あはは! 辻回復支援コンビになってもいいんじゃね? 入口辺りでさ、一回五百円!」

「知らない人怖いけど……せめて千円にしよ?」


 なんだかんだ言っているとすぐ順番が回ってきた。鑑定制度が始まった当初は希望者が殺到していたが、今はあまり待ち時間がない。


 結果から言うと、あきなんのスキルはレア中のレアというか、崇と同じく、初めて確認されたものだった。

 名を「要支援者」。……支援を受けないとただの一般人だが、支援を受けると支援効果が数倍になるという、絶対的にパーティープレイ推奨スキルだ。


「え。俺のこれって……そしてナツミちゃんのそれって……」

「おいおいおいおいおい」


 ふたりはガッと固く握手した。


「俺たち最高のパーティーじゃん!」

「奇跡だな!!」


 崇のスキル効果は支援。スキル名は「要被支援者」。

 本当に奇跡の噛み合いを引き当てたのだった。


「そういえばナツミちゃん、ゲームも支援職好きだもんね」

「俺尽くす男だから~」


 そう、崇はソロ行動が大好きなリアルとは違い、あきなんとゲームをする際は、MMORPGだろうがアクションだろうが大体支援回復職を好む。というか、リアルの人間関係は気を遣い過ぎてサービスしすぎて疲れちゃうから苦手、というタイプのコミュ障なのだ。

 そんな崇、というかナツミにサポートされてきたあきなん。

 ふたりのスキルの噛み合いは、実は奇跡じゃないのかもしれない。


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